トヨタ・アベンシスワゴンXi FF(4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・アベンシスワゴンXi FF(4AT) 2003.11.13 試乗記 ……263.5万円 総合評価……★★★★ “ガイシャ”と見まがうばかり……というか、実際に英国からの輸入車であるトヨタ「アベンシス」。「ビスタアルデオ」に替わるベーシックなワゴン「Xi」に、『webCG』コンテンツエディターのアオキが乗った。トヨタの“ガイシャ”
「……会場に来たらですね、遠くから試乗車を眺めて、『やけに小さいパサートが並んでいるなァ』と思いました」。そう笑いながら話をはじめたアベンシスの開発者がいらっしゃって、「ずいぶん大胆な発言をするヒトがいるものだ!」とビックリした。英国で生産されるアベンシスを指して、“ヨーロッパ車のような”と形容するのは事実を追認するにすぎないけれど、“フォルクスワーゲンみたい”と述べるのは、ある種の揶揄が含まれていると思ったからだ。
アベンシスの実車を前にしたリポーターの第一印象も同じだったので、「さすがは大トヨタ。エンジニアの方も懐が深い……」と大いに感心していたら、どうやら真意は別のところにあったようで、つまるところ、アベンシスは「Dセグメントのトップモデルたるパサートを“さらに進化させたクルマ”」と自賛したかったわけで……。
プレス試乗会後、改めてアベンシスワゴンを借りた。「ブラックマイカ」にペイントされたベーシックグレードの「Xi」。件のパサートワゴンと同じ2700mmのホイールベースに、ライバルよりわずかに大きなボディを載せる。ターゲットがハッキリしたクルマである。
Xiの室内は、ウレタンのステアリングホイールに、黒基調の室内と素っ気ないものだが、実用ワゴンの性格を素直に反映していて、好ましい。ドライブフィールも見かけを裏切らず、なるほど、日本に先行して発売された欧州での出だしが好調なのがうなずける。
アベンシスセダン、ワゴンは、国内では「ビスタ」「ビスタアルデオ」に替わるモデルとして販売される。ビスタ店の中堅車種が、“純”国内向けからインターナショナルな輸入車に大転換して、「消費者は目を白黒させないかしらん」と心配したが、トヨタは楽観している。
アベンシスのキャッチフレーズは、「TOYOTA FROM EUROPE」。営業面では、「輸入車が欲しいけれど、価格が高いことや、アフターサービスや信頼性の面で不安を感じていたお客様の背中を押す」ことを狙うという。そうですか。全国のビスタ店は、こんな貼り紙をするといいな。
「ガイシャ、はじめました」
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
アベンシスは、英国TMUK(Toyota Motor Manufacturing UK)で生産される英国車。「アベンシス」の名を使ったモデルとしては2代目になる。2003年10月6日に、日本国内でのデビューを果たした。セダンとワゴンが用意され、わが国では、いずれも「2リッター+4AT」モデルが販売される。FF(前輪駆動)ほか、ビスカスカプリングを用いた「Vフレックスフルタイム4WD」モデルもカタログに載る。
(グレード概要)
アベンシスは、セダン、ワゴンとも、ベーシックな「Xi」と、装備を充実した「Li」がラインナップされる。「Xi」は、ハロゲンヘッドランプ、ホイールキャップ付き「205/55R16」タイヤが外観上の特徴。内装では、ブラックの樹脂製パネルが用いられ、「カーテンエアバッグ」「クルーズコントロール」といった装備が省略される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
上級グレード「Li」は木目調、「Liスポーツパッケージ」はカーボン調、そしてテスト車のベーシックモデル「Xi」には、素っ気なく黒い樹脂がインストゥルメントパネルを横断する。シートのファブリックも黒地となるので、室内は黒が支配して暗い印象だが、「質実剛健」な感じがして、ゲルマン系のクルマが好きなヒトには、むしろイイかも。センターコンソールのシルバーとの相性もバッチリ。
「DVDナビゲーションシステム」は、23.0万円のオプション装備。トヨタ得意のタッチパネル式が採用されなかったのは、ディスプレイの位置を、運転姿勢を変えずに指が届く位置に配置できなかったためだという。ちょっと残念。
(前席)……★★★★
ドライバーズシートのみ、座面脇のレバーを上下させてシートの高さを調整するハイトコントロールがつく。背もたれの角度は、左右前席とも無段階で変えられる。レバーを前後させることでリクライニングさせる、珍しいラチェット式だ。アベンシスは、座面長が長いシートが、いかにも欧州車。適度なクッション感があって、座り心地も悪くない。
(後席)……★★★★
頭上、膝前とも十分なスペースがとられたリアシート。シートのサイズもたっぷりしていて居心地がいい。3人分のヘッドレスト、3点式シートベルトが用意される。センターシートは、座り心地が硬く、ヘッドクリアランスもすくないが、実用として使うに足る。引き出し式のアームレストには、2人分のカップホルダーが設定される。
リアシートは、6:4の分割可倒式で、座面を前に折り、シートバックを倒すダブルフォールディング式。荷室の床面と段差なく、ラゲッジスペースを拡大することができる。
(荷室)……★★★★
贅沢にも電磁式オープナーが備わるリアゲイト。触れるだけで、キャッチがはずれる。床面最大幅130cm、奥行き114cm、パーセルシェルフまでの高さが42cm。バンパーレベルとフロア高の差がないのが加点、ホイールハウスが複雑に出っ張っているのが減点要素だ。
荷物がキャビンに飛び込まないようパーテションネットが標準で備わるのがウレシイ。ただ、実際に使うにあたって、ネット上端を通るバーを天井左右に差すのに苦労した。穴を隠しているフタが、作業の邪魔をするのだ。トヨタらしからぬ、ココロ配りの足りなさ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
パワーソースは、トヨタ中堅モデルの中核エンジンになりつつある2リッター「D-4」ユニット。燃料を直接シリンダーに噴射する直噴エンジンで、カタログ燃費(10・15モード)13km/リッターを謳う。アベンシスは、全車「超-低排出ガス車」認定を得た。
アウトプットは、155ps/6000rpmと19.6kgm/4000rpm。可変バルブタイミング機構を搭載し、トルクの平準化を図った。4段“スーパーインテリジェント”オートマチックとの相性は抜群。シーケンシャルシフトの必要性を感じないほどだ。
なお、「Xi」グレードにのみ用意される4WDモデルは、コンベンショナルなゲート式4ATとなる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
欧州の衝突安全評価「Euro NCAP」で満点の5ツ星獲得がジマンのアベンシス。衝突テストをふまえた高剛性ボディに加え、アンダーボディにまで目を向けた、CD値=0.29(セダンは0.28)の空力性能を誇る。“滑るようなハイスピードクルージング”は実感できなかったが、おとなしいエンジンと併せ、車内は静か。
セダン、ワゴンとも、「Xi」は欧州仕様よりひとまわり小ぶりな「205/55R16」サイズのタイヤを履く。17インチが標準の上級グレード「Li」と較べると、乗り換えた直後は、多少、剛性の面で頼りなく感じるが、すぐ慣れる。平均的なトヨタ車より硬めの乗り心地を、55タイヤが相殺するカタチになる。初めから「Xi」を選ぶヒトなら、実用の伴として、「乗り心地」「ハンドリング」とも、なんら不満を感じないはずだ。
(写真=峰 昌宏)
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【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2003年11月5日-7日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1344km
タイヤ:(前)205/55R16 91W(後)同じ(いずれもブリヂストン TURANZA ER30)
オプション装備:DVDボイスナビゲーション付電動ポップアップ式EMV(23.0万円/インダッシュCDチェンジャー+MD一体AM/FMマルチ電子チューナー付ラジオ+8スピーカー(3.5万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(8):高速道路(2)
テスト距離:−−
使用燃料:−−
参考燃費:−−

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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