トヨタ・アベンシスセダンQi(FF/5AT)/ワゴンXi(FF/4AT)【短評(後編)】
トヨタが試される欧州車(後編) 2006.08.23 試乗記 トヨタ・アベンシスセダンQi(FF/5AT)/ワゴンXi(FF/4AT) ……331万8000円/277万9350円 トヨタがつくった欧州車「アベンシス」がマイナーチェンジされた。ヨーロッパ市場に立ち向かうべく、さらなる走りの安定性を追求した新型の乗り心地とは。さらに洗練が求められる
(前編からのつづき) さっそくエンジンを始動してクルマを動かそうとしたら、パワステがやけに重い。「この重さ、覚えがあるぞ」と思ったら、むかし乗っていた「フォルクスワーゲン・ゴルフIVワゴン」の感触だった。そういえばダッシュボードの質感も先代のゴルフに似ている。
パワステが低速で重いのは、そのぶん、高速走行時の安定感を得るためだそうで、たしかに100km/h走行時には、舵はとても落ち着いていた。ちなみに、ヨーロッパでは車重の軽い1.8リッター以下のモデルに電動パワーステアリング(EPS)が採用され、パワステの重さは解消されているとのことで、2リッター以上のモデルにEPSが搭載されるのも、そう遠くはないだろう。
乗り心地は硬めで、低速では道路の凹凸を伝えてくるが、一方、スピードを上げるにつれてそのフラットな動きが気持ちよく感じられるようになる。“攻める”まではいかなかったが、コーナリングでもロールはよく抑えられていて、ステアリングを切っただけ曲がっていく印象だった。ワゴンボディながら、その剛性感は十分に高い。
2リッターの直噴ガソリンユニットは、余裕こそ感じられないが、低回転から必要十分なだけのトルクを絞り出している。ただ、終始ザラついた感触はいただけない。その点、あとから試乗した2.4リッターセダンは、エンジンにバランサーシャフトを備えることもあって、2リッターよりもスムーズな印象で、排気量が大きいぶん、トルクも豊かである。
そのセダンQiには215/45R17サイズのタイヤが装着され、205/55R16を履くワゴンXi同様、硬めの乗り心地を示すが、十分許容できるレベルだった。
ゴールはまだ先
短時間の試乗を終えて、アベンシスが日本車離れした乗り味を持ったクルマということが十分実感できた。と同時に、ヨーロッパのライバル、たとえば「フォルクスワーゲン・ジェッタ」あたりと比べると、乗り心地やエンジンの洗練度において、遅れをとっている感じは否めない。前述のエンジニアからアベンシスの感想を求められた際、“ゴルフやジェッタにたとえると、先代と現行型のちょうど中間くらいのデキ”と答えたら、開発陣もそれを理解している様子だった。
日本やアメリカで圧倒的な強さを誇るトヨタでも、強豪ひしめくヨーロッパ市場で先頭を走るのは至難の業。しかし、ライバルたちと互角に争えるレベルに達しつつあるのもまた確かなようで、F1同様、さらなるチャレンジを期待したい。
(文=生方聡/写真=荒川正幸/2006年8月)
・トヨタ・アベンシスセダンQi(FF/5AT)/ワゴンXi(FF/4AT)(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018513.html

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。