ホンダCR-Z α(FF/CVT)【試乗記】
ますます、キビキビ 2012.12.08 試乗記 ホンダCR-Z α(FF/CVT)……304万4000円
ハイブリッドのスポーツカー「ホンダCR-Z」がマイナーチェンジ。“走りの裏技”を得たという最新モデルの実力を試した。
今でも「オッ」と思わせる
早朝。「吐く息が白いなァ」と思いながら待っていると、けっこうな勢いで、真っ赤な「ホンダCR-Z」が路地から飛び出して来た。
“スポーティー"をウリにするクルマらしい登場の仕方……と感心していると、「スイマセン、待ち合わせ場所を間違えていまして」と、『webCG』編集部のSさん。運転席から助手席に移ると開口一番、「CR-Z、なんだか新鮮味がなくなっちゃいましたね」。
ホンダCR-Zが日本で発売されたのは2010年の2月。そう早々と古くなられては困るのだが、CR-Zの精神的祖先(!?)、かつて「サイバー」と通称された1980年代の2代目「CR-X」が最後まで“近未来感"を失わなかったのと比較すると、21世紀のハイブリッドスポーツは、ちょっと腰高で、天地に厚いゴロンとしたフォルムが鋭さに欠け、うーん、でも、高速道路で後ろ姿を見ると、今でも「オッ!」と思うんだけどなぁ……とブツブツ言いながら、手を伸ばしてクローブボックスを開ける。取扱説明書を取り出すためである。
2012年9月にCR-Zはマイナーチェンジを受け、ホンダのハイブリッド「IMAシステム」搭載車としては初めて、バッテリーがニッケル水素からリチウムイオンに変更された。モーターの最高出力が、14psから20psに上げられ(8.0kgmの最大トルクは同じ)、1.5リッターシングルカムも、113psから118psにアップした(CVTモデル/14.8kgmの最大トルクは同じ)。“運転の楽しさ"を掲げるクルマらしく、パワーアップを果たし、そのうえカタログ燃費まで向上したのだから立派だ(CVT車で、22.8km/リッターから23.0km/リッター)。
“一瞬で出し切る”秘密のボタン!?
取扱説明書を確認したのは、「一瞬で加速力を最大にする」という、話題の「PLUS SPORT(プラススポーツ)システム」を試すためである。経験者によると、作動にあたっての手順がなかなか煩雑らしい。
作動の条件は……
・時速30km以上
・IMA バッテリー残量表示が4目盛り以上
メーターナセル内に「READY S+」が表示されているのを確認し、
(1)ハンドルにある「S+ボタン」を押す
(2)「READY S+」表示が点滅
(3)アクセルペダルを踏む
……ということである。
「S+ボタン」を押すだけで加速するのではなく、アクセルペダルをスイッチにしたのは、運転者に心の準備をさせる、安全上の配慮だろう。スポーツプラスモードの加速といっても、エンジンのチューンが上がったり、モーターの出力が増すわけではない。エンジンとモーターが最大限の力を出し、CVT車の場合、可能な限り低いギアが選ばれるだけ。つまり、アクセルペダルを床までベタ踏みしたのと変わらない。
できれば、あまり試乗リポートを目にしない「MTモデルのそれ」を報告したかったのだが、「CVT車の方が違いがハッキリ出ますから」とホンダサイドから耳打ちがあったそうで、今回の試乗もCVT車とあいなった。まあ、いまどき3ペダルのMTを繰る人は、S+ボタンに頼らずとも、ギアを落としてアクセルペダルを踏みつけることに、躊躇(ちゅうちょ)したりはしないだろう。
![]() |
![]() |
新奇な試みに拍手
「S+ボタン」は、初めてハイブリッド車に取り付けられたころの「EVボタン」みたいなものだと思った。取りあえず試してみたい。実用性うんぬんより、そういう機能が付いていること自体が楽しい。
プラススポーツシステムは、ステアリングを切っていると作動しないし、「READY S+」表示が点滅しているうち(約5秒)にアクセルを踏まないと、オフになってしまう。「システムを作動させるのだ!」という、運転者の強い意志がいる(やや大げさ)。
「READY S+」表示の点滅を視界の隅に捉えてアクセルペダルをちょこっと踏む。と、「1.5リッター+モーター」の全力加速が始まる。交通量が少ない高速道路では、意外や、なかなか楽しい体験で、穏やかなハンドル操作も受け付けるので、緩いカーブが続く登り坂などで、最も効果を堪能できる。「そんなの、アクセルペダルを踏みつければいいだけじゃん」とは、言わない約束だ。
ちょっと驚いたのは、100km/hを超えそうになってもグングン加速を続けること。アクセルを全開させるデバイスだから当たり前のことだが、日本の交通行政の下で、よく実現したものだと思う。そもそも、速度を「殺す」のではなく、「上げる」方向のシステムが認可されたのは、慶賀すべきことだろう。
![]() |
![]() |
CR-Zは、クルマ全体としてもリファインされた印象で、パンチを増した動力系の恩恵もあって、ホンダ得意の「キビキビ」感がグッと増した。あらためて感心したのが、「3モードドライブシステム」でのキャラクターの切り替えで、やや意気地のない「ECON」モードから「SPORT」モードに変更すると、たちまちステアリングの重さが増し、ペダル操作に対するトルクのつきがよくなる。一皮脱いで、スポーティーなCR-Zが現れる。エンジン、ギア、ステアリング、エアコンを電子制御する「ドライブ・バイ・ワイヤー」を採用しているがゆえの豹変(ひょうへん)で、スポーツプラスシステムも、その延長線上にある。
「技術的にできるからといって、ゲーム的デバイスのインフレを起こしていいのか」という考え方もあるが、新奇な試みを率先して搭載するのは、スポーティーなクーペの伝統的な役割でもあるから、目くじらを立てるには当たらない。販売台数を稼ぎにくいこの手のクルマは、デビュー当初の熱気が冷めると、ともすると放っておかれ、ラインナップのなかで朽ちててしまいがち。外観だけでなく、中身まで「新鮮味がなくなっちゃいましたね」と言われないため、バッテリーのリチウムイオン化を、まずCR-Zからスタートしたホンダの判断に、拍手!
ただ、今回のプラススポーツシステムは、近い将来、きっと「かつてあった珍機能」のひとつに入れられることだろう。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。