ホンダCR-Z α(FF/6MT)【試乗記】
さわやかな新風 2010.04.02 試乗記 ホンダCR-Z α(FF/6MT)……278万4000円
発売されるや引っ張りダコの、新型車「ホンダCR-Z」。その魅力はどこにあるのか? 巨匠 徳大寺有恒が語った。
ホンダらしさとは?
松本英雄(以下「松」):試乗する前にお尋ねしますが、「CR-Z」の第一印象はいかがですか?
徳大寺有恒(以下「徳」):ホンダらしいと思ったね。久々に見る、非常にホンダらしいクルマだと。
松:それはやはり、スポーティということでしょうか?
徳:スポーティであることも含めて、僕が思うホンダらしい商品とは「それまで日本になかったコンセプトのもの」なんだよ。さかのぼれば、「スーパーカブ」しかり、日本で初めてDOHCエンジンを積んだ小型スポーツカーだった「Sシリーズ」しかり、日本にFFを普及させた「N360」しかり、FFハッチバックの元祖である初代「シビック」しかり……まだまだあるぞ。
松:日本初のミドシップスーパースポーツだった「NSX」やミニバンブームに火をつけた「オデッセイ」だって、考えてみればそうですね。
徳:だろう? それこそがホンダの得意とするところで、つまりは存在意義だったわけだ。ところがそのホンダが、ここしばらくはミニバン専業メーカーのような感じになってしまっていた。
松:「ASIMO」がありますって言われても、我々のようなクルマ好きにはピンときませんものねえ。(笑)
徳:迷走したあげくに突然の幕切れとなった第3期F1活動も、ファンを落胆させてしまったしな。
松:ここ数年のうちに、ブランドイメージはかなり低下してしまったんじゃないかと思います。
徳:もっとも、当のホンダ自身が誰よりも「ホンダらしさの喪失」について危機感を抱いていたんじゃないかな。だからこそ「CR-Z」が生まれたのだろう。
松:昨2009年の東京モーターショーに掲げられていた「ないものをつくれ。」というテーマが、まさにホンダらしさへの回帰のスローガンであり、それが具体化したのがこの「CR-Z」であるというわけですね。
徳:そういうこと。スポーツ性とエコを両立したというコンセプトはもちろん日本初、いや世界初といってもいいだろう。しかもそれを庶民にも手が届きやすい価格で出してきた。これこそ21世紀における「ホンダらしい」クルマなんじゃないか?
松:おっしゃるとおりです。じゃあ、そろそろ乗ってみましょうか。
さえわたる演出
松:写真で見るより実車は塊感があって、カッコイイですね。
徳:ワイド&ローで低重心のプロポーションは、初代「シビック」以来の良き伝統だな。
松:スタイリングにも初代および2代目「CR-X」や初代「インサイト」のモチーフがうまく生かされています。現代では歩行者保護のためにボンネットを低くするのは難しいとされているけれど、その点も頑張ってますね。
徳:なんたってホンダは、ボンネットを低くすることに命をかけてたこともあるメーカーだからさ。「ミドシップより低い」と言われた3代目「プレリュード」とか。(笑)
松:でも、当時と違ってサスペンションストロークは犠牲になってませんから、乗り心地は悪くないですね。
徳:うん。先ほど話を伺った開発者が乗り心地も重視したと言っていたが、乗るまでは半信半疑だったんだ。ホンダのスポーティモデルというと、足まわりの安定性や操縦性は優れているけれど、乗り心地はどうも……という先入観が捨てられないんだな。
松:このクラスの日本車としてはサイズがやや大ぶりに感じられるシートも、乗り心地に貢献してますかね。
徳:かもしれない。長時間乗ってみないと本当のところはわからないがな。
松:開発者からは排気音にもこだわったという話も聞きましたが、たしかになかなかスポーティな音を発してますね。
徳:そのへんの演出は、ホンダはお手のものだからさ。
松:演出といえば、この6段MTのシフトノブはアルミ削り出しに本革を巻いたそうですが、見た目も感触もいいですね。
徳:肝心のシフトフィールも悪くないな。ストロークはそれほど短くはないが、コクコクッと軽く確実に決まる。
松:クラッチミートもくせがないし、とっても運転しやすいですね。知り合いの一般誌の編集者が、「マニュアルに乗り慣れていないけれど、乗りやすいのに驚いた」と言ってました。
徳:ほう。ホンダもマニュアルを推しているようだから、きちんと開発されたんだな。いまどき希少だぞ、そんなクルマは。
松:聞けば受注の4割がマニュアルだそうじゃないですか。そういうメーカーの姿勢が消費者に伝わり、評価された結果なんでしょうかね。
徳:どうだろう? 最初はマニュアルで乗りたいクルマを待っていた人たちが飛びついたとも考えられるからなあ。いずれにしろ、このギアボックスはそういうユーザーの期待をけっして裏切らないだろう。
違うモノサシで乗るクルマ
松:1.5リッターのi-VTECとIMAを組み合わせたハイブリッドシステムはどうでしょう?
徳:インサイトと比べたら力強くなった。とはいうものの、このルックスからすると、もっとパワーがあってもいいかな。
松:このシステムがハイブリッドということを意識させないこともあって、つい従来のスポーツカーの基準で考えてしまうんですよね。
徳:そうなんだ。冷静に判断すれば、日本の路上で使うぶんにはこれで十分なのに、長年の間に体に染みついた感覚が、ついエクストラを望んでしまうんだな。
松:絶対的なパワーはともかく、ホンダのエンジンらしい、高回転域までスムーズに回るフィールとか、さっきも話に出た排気音なんかで、スポーティなフィーリングはそれなりに感じられますが。
徳:うん。だからこれからは、乗り手の意識も変えるというか、アジャストしていかなくてはいけないのだろう。雰囲気が似ているからといって、いつまでも初代や2代目の「CR-X」と比べてどうこう言ってちゃダメなのかもしれない。
松:初代や2代目の「CR-X」は本当に軽快で、速かったからなあ。「CR-Z」も、ああいうキビキビした走りを目指しているようですけれど。
徳:残念ながら現状ではキビキビとまではいかないんじゃないかな。とはいえ剛性感や安定感ははるかに高まっているし、どっちが上とかいう話ではないけれど。
商品力あるスポーツカー
松:「CR-Z」の車重は「インサイト」より60〜70kgマイナスの1130kg(6MT)と軽量化が図られてますが、かつての「CR-X」は900kg以下でしたから。
徳:その差はいかんともしがたいな。しかし、「CR-Z」はとってもさわやかなクルマだとは思うよ。与えられたパワーを使いきって走る爽快感がある。
松:そうした感覚は、初代「インサイト」に通じるものがありますね。
徳:うん。あっちのほうが理詰めでストイックだったが。採算を考えてないようなところが、これまたある意味ホンダらしかった。
松:その点、「CR-Z」はバッチリと商品化されてます。
徳:ああ。おかげでセールスも出足好調だそうじゃないか。
松:クルマ離れが進んでると言われている若年層からの反応も予想外にいいそうですよ。
徳:それは非常にいいことだ。逆をいえば、若者のクルマ離れは、彼らが乗りたいクルマがなかったから進んだとも考えられるな。
松:たしかに。ところが最近ではドライビングゲームから実車、それもスポーツカーに興味を抱く世代が育ってきているそうですから、「CR-Z」は彼らの心にうまく刺さったのかもしれません。
徳:いずれにしろ、これをきっかけにマーケットが活性化するならば喜ばしいことだ。
松:巨匠がいつも言われているように、スポーツカーというのは、単純に販売台数で成否が判断できないんですね。それだけでは計れない効果をメーカーや市場にもたらすわけですから。
徳:そういうこと。だからそれを先頭を切って出したホンダの姿勢は評価すべきだし、今後もこの流れが途切れないよう、我々も応援しないといけないな。
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=河野敦樹)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。



































