ホンダCR-Z α・Master label(FF/6MT)/CR-Z α・Master label(FF/CVT)【試乗記】
パンチの利いたエコカー 2012.10.30 試乗記 ホンダCR-Z α・Master label(FF/6MT)/CR-Z α・Master label(FF/CVT)…294万1500円/304万6500円
マイナーチェンジを受けパワーを増した「ホンダCR-Z」。MTモデルとCVTモデルに試乗した。
エンジンもモーターもパワーアップ
マイナーチェンジした「CR-Z」のメインテーマは「パワーアップ」である。4バルブの1.5リッターi-VTECは、低回転で1バルブ休止する従来型から、より高回転のきくLo/Hi VTECに変わった。最高出力は、CVTモデルが113psから118ps、6段MTモデルが114psから120psに上がった。
IMAシステムのほうでは、バッテリーがニッケル水素からリチウムイオンに変わり、電圧が44%上がり、モーターの出力も50%増しの15kW(20ps)になった。1.3リッター「インサイト」のIMAシステムを1.5リッターエンジンと組み合わせることで、相対的にモーターのプレゼンスが低くなり、インサイトよりかえって電動アシスト感が希薄だったCR-Zに、これでやっとハイブリッド・スポーツらしい専用システムが与えられることになった。
これまでの販売実績をみると、CR-Zのお得意先は日本と北米だが、CO2規制の厳しいヨーロッパでも量販車種になることが期待されてきた。ディーゼルターボのトルクフルな欧州コンパクトカーと戦うことを考えても、パワーアップは喫緊の課題であったはずだ。
さらに新型の秘密兵器は、ステアリングホイールに新設された“プラススポーツボタン”である。これを押してアクセルを踏むと、エンジンとモーターの出力が最大化され、CVTはギア比を最もロー側に振って、3リッターV6並みの加速を得ることができる、なんていう話を試乗前の技術説明会で聞かされれば、F1中継で聞き及んだオーバーテイクボタンそのままの新趣向に期待するなというほうが無理である。
秘密兵器の効果は?
最初に乗ったのはMT。高速道路で早速、プラススポーツボタンを試してみたが、MTだとマックスの効果は得られない。CVTのギア比をロー側に移動させるという、システムの大きな柱を欠くからだ。35%もいるCR-ZのMTユーザーにはおあいにくさまだが、これはCVTでこそメリットが得られるシステムと考えたほうがいい。
作動する条件は、車速が30km/h以上で、駆動用バッテリーに余裕があること(8コマある容量計が4コマ以上)。そこでボタンを押し、アクセルをわずかに踏めば、プラススポーツの加速が始まる。指1本で作動するハンドスロットルではなく、あくまでアクセルペダルがオンオフのスイッチになっているのが安全上のミソである。
CVTモデルでいろいろ試してみた。たしかに気持ちよくヒューンと加速が伸びる。けれど、正直言って、もっと“くる”かと思った。ホンダの言う「3リッターV6並み」を通り越して、個人的には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の稲妻「デロリアン」あたりをイメージしていたので、少々肩透かしを食らう。
車速30km/h以上なので、発進加速には使えない。ハンドルを切っていると作動しないし、ブレーキを踏めば解除されるから、ワインディングロードを攻めるためのものでもない。追い越しや合流時などで、ここ一発の加速がほしいときの支援装置である。CVTモデルなら、パワーモードでフルスロットルを踏みつければ、同じフルパワーを得られるが、そのピークまで達するスピードはプラススポーツのほうが勝る、というのがホンダの説明だ。
しかし、このシステムにばかりとらわれていると、新型CR-Zの本質を見誤る。2年半ぶりのマイナーチェンジでCR-Zは大いに進化した。
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確実に魅力を増した
動力性能の点ではいかにも草食系だったこれまでと比べると、MTでもCVTでもひとクラスパンチ力を増したのが新型CR-Zである。
旧型は0-80km/hフル加速4回で駆動用バッテリーが底をついたが、リチウムイオンの新型は9回できるという。それだけ“電動アシスト”の加勢を得られる時間が増えたということだ。エンジンの変更で、MTの場合、プラス500rpmのマージンを得て、7000rpmまで回るようになった。高回転がきくようになったため、CVTのパドルでシフトダウンをしながらワインディングロードを走らせても、よりメリハリのあるスポーティー走行が味わえる。スポーツ性を求めてCR-Zを指名買いするなら、新型は確実に魅力を増した。
試乗車は“α・Master label”という新設定の上級グレードで、切削加工した17インチホイールにミシュランのパイロットスポーツ3を履く。このタイヤのせいもあってか、当たりのソフトな乗り心地をはじめ、シャシーもワンランク、洗練された印象を受けた。
乗り終えてから、スポーツプラスボタンについて、開発者と話をした。このシステムは、それまでのスロットル開度に対して、わずか3%の踏み込みで作動する。つまり“チョイ踏み”で最大加速が得られる。「今の人はフルスロットルなんか、しないんです」という説明を聞いて、なるほど! と思った。ましてやハイブリッドカーなら、CR-Zのドライバーだって「基本、燃費コンシャス」でないわけがない。アクセルベタ踏みなどしないジェントルドライバーに、ゲーム感覚の演出で胸のすく加速の楽しみを提供する。そう理解すると、この新趣向も“あり”かなと思えた。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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