ルノー・カングー1.6(ダブルバックドア/4AT)【試乗記】
小道具の多い余暇 2003.08.29 試乗記 ルノー・カングー1.6(ダブルバックドア/4AT) ……195.0万円 のほほんとしたルックスと広い室内で、意外な(?)ヒットとなった「ルノー・カングー」。マイナーチェンジを受けて顔つきが変わり、エンジンが1.4から1.6リッターになった。『webCG』記者が、代官山で乗る。
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素敵なカラー
朝の通勤路として、代官山ふきんの旧山手通りを通ったヒトは、「オヤ?」と思ったかもしれない。カフェミケランジェロの前に、色とりどりの、背が高いユニークなワゴンが並んでいたから。
2003年8月29日から、マイナーチェンジを受けた「ルノー・カングー」の販売が始まった。ちょっとつり目の、最近の“ルノー顔”になったカングーは、従来の1.4リッターではなく、新たに1.6リッターエンジン車が輸入されることになった。両側のリアスライドドアは変わらないが、バックドアが、いままで通りの上ヒンジ「ハッチバック」タイプと、観音開きの「ダブルバックドア」が選べるようになった。価格は、前者が192.0万円、後者が195.0万円。1.4リッターモデルより20万円ほど高くなった。
5色のメインカラーに加え、さらに5色の受注生産カラーがカタログに載るようになり(納期は約5ヵ月)、天井前部のガラスルーフと開閉可能なキャンバストップを組み合わせた「パノラミックサンルーフ」が、13.0万円のオプションで設定されたのも新しい。
短い時間ながら、試乗することができた。
テスト車として供されたのは、受注生産カラーの「エコッスブルー」にペイントされたクルマ。月並みな言い方で恐縮だが、いかにもヨーロピアンシックな素敵な色だ。お洒落なカフェによく似合う。
クリーニング屋もしくはブランド古着屋、はたまたアンティークショップを開店するがために、「ただちにカングーが欲しい!」という方以外は、好きな色を選んで、場合によっては5ヵ月の納期を楽しく待った方がいいと思う。
トロくない
走りだすまえに、荷室をチェックする。今回から日本に輸入されるようになったリアの観音開きドアは、停めたクルマの後方スペースが限られた場所で、荷物の積み降ろしをするのに便利だ。ドアの幅は左右非対称で、いずれも90度、180度と、2段階に分けて開けられる。
ラゲッジスペースはガランと広い。さらにリアシートの背もたれを分割可倒して、奥行きを増すことも可能だ。フロアは低く、バンパーはさらに低いので、重量物を奥に滑り込ませる際、邪魔にならない。カングーは、ヨーロッパでは軽便な商用車としても販売されるから、使い勝手のよさは筋金入り。いわばプロ仕様。もっとも、デビュー当初と異なり、いまや本国でも6:4の比率で、乗用車バージョンの方が多いという。
形状と生地が変わったシートは、あたりがソフトで、それでいて腰があり、座り心地はなかなかよろしい。天井前端には、領収書や販売マニュアル……じゃなくて、サングラスやCDボックスを手軽に放り込める「オーバーヘッドコンソールボックス」が、サイドウィンドウの上には、折りたたみ式釣竿に最適な、フタ付きのコンソールボックスが備わる。“小道具の多い余暇”を想像させて、楽しげだ。
パワーソースは、1.6リッター直4DOHC(95ps、15.1kgm)。活発に回る。「フランスの実用車にツインカムなんて!」という向きもございましょうが、1.4リッター比20psと3.2kgm大きなアウトプットの恩恵で、代官山付近の街なかを走るかぎり、ニューカングーに“トロさ”を感じることはない。
ただ乗り心地は、「カメラマンとの2名乗車+機材」では、少々硬め。路面が悪いと、バネ下のバタつきを感じることもある。総じて不快というほどではないけれど。趣味の道具と遊び友達を満載すれば、もうすこし落ち着くのかもしれない。
まだ3年目
日本市場での必需品、オートマチックトランスミッションは、相変わらず減速時のシフトダウンが下手。段々にエンジンブレーキがかかり、スムーズに速度を落とさない。試乗後に、ルノーのアジア太平洋地域商品担当のブレン・フレデリックさんに、そのことを指摘する。
−−ライバルのプジョージャポンは、本国のエンジニアを日本に招いて、テストさせたそうです。そのおかげか、オートマ、ずっとよくなりましたよ。
「うーん、そうですか。でも、次に来るメガーヌIIのATはアイシン製だから、期待できると思います」
そうですか。メガーヌIIはアイシンですか! それは楽しみ!! ……ということはさて置いて、カングーのATもプジョーのも、両者共同開発の「AL4」のはずですが……。
ハナシの流れからプジョーの好調ぶり(9年連続で販売台数を伸ばし、昨2002年は1万5000台余)についてうかがうと、
「プジョージャポンは、すでに10年間、日本で活動しています。ルノージャポンはまだ3年目ですから」とのこと。昨年のわが国におけるルノー車の販売は2412台。ライオンマークだって、3年目のころは「これくらいでは?」というのが、フレデリックさんの主張だ。ルノージャポンとしては、2006年までに、6000台に手が届くことを目指しているという。
実は、ユーモラスなカングーは、日本で一番売れているルノー車なのだ。昨年は、目標の800台を上まわる983台を販売した。ミニバンがイヤで、そのうえひと味違う「ユーティリティ性」高いクルマを探していたヒトが購入したのだろう。「競合車がいませんから」と、フレデリックさんは笑う。
「乗用車+軽商用車」の販売台数で、ルノーはヨーロッパ第1位のメーカーである(2002年)。それでも大衆車ひしめく東洋の島国では、「アヴァンタイム」や「カングー」を導入して“個性的なメーカー”として印象づけ、ボリュームゾーンより、むしろニッチな市場に橋頭堡を築く。エラそうにいうのもなんですが、正しい戦略だと思います。
「プジョーは206がヒットして、街でよく見るようになりました」とフレデリックさん。
−−走っているクルマは、最高の宣伝ですから。
「そう。でも、ルノーはまだあまり見ませんね。普通に見かけるようになれば、新しいお客様も安心して買えます」
なるほど。カフェの前に色違いにカングーを並べるのも、ルノーのクルマを憶えてもらう、ひとつのいい方法かもしれませんね。
【訂正】
「メガーヌII」と「カングー」のトランスミッションに関して訂正があります。メガーヌIIのトランスミッションは、アイシン製ではなく、ルノー、PSA(プジョー/シトロエン)共同開発になる「DP0」型です。同様に、カングーのトランスミッションも、「DP0」が用いられます。いずれも、モデルごとに専用チューニングが施されます。
お詫びとともに、訂正いたします。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2003年8月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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