ポルシェ・カイエンS(6AT)【短評(後編)】
流転しないもの(後編) 2003.06.20 試乗記 ポルシェ・カイエンS(6AT) ……955.0万円 ポルシェのSUV「カイエンS」に乗って、ハコネへ向かう『webCG』記者。山道・峠道で感嘆し、投入されたテクノロジーに感心しつつ、広報資料を読みながらつらつらと考える……。PSMとPTM
カイエンであきれるのは、山道・峠道にもっていても、ポルシェの顔を崩すことがないことだ。もちろん、それなりの重量感をともなってのことだが、カーブの連続にも“ヘビィウェイト”スポーツカーとでもいうべき身のこなしを見せる。ブレーキは、フロントが「6ピストンキャリパー+34mm通気式ディスク」、リアが「4ピストン+330mm通気式ディスク」という強力なもの。前後とも、アルミのモノブロックキャリパーが奢られる。
万が一、挙動を乱した場合には、「PSM(ポルシェ・スタビリティマネージメントシステム)」が、各輪のブレーキを個別にコントロール、さらにはエンジンや4WDシステムとも連携して、危険なアンダーステアもしくはオーバーステアを補正する。ありがたいことに、お世話になることはなかったが。
ニューSUVの目玉、「PTM(ポルシェ・トラクション・マネジメントシステム)」と呼ばれる4WDは、遊星ギアをもつセンターデフと電制多板クラッチを用いた凝ったもの。前:後=38:62のスポーティな配分をベースに、0-100%の範囲でトルクを前後させる。もちろん、ドライバーが駆動力の移動を意識することはない。
今回、試す機会はなかったが、オフロード走行時には「前後のデフロック+スーパーロウへの切り替え」が可能で、PSM、さらにエアサスペンション装着車では、アクティブサスたる「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)」との協同で、極端な泥濘にたち向かうことができる……。
![]() |
![]() |
過去をふりかえって
カイエンのプレス資料には、「ポルシェの財産」と題して、4WDとポルシェとの関わり合いに、わざわざ1章が割かれる。20世紀初頭に、フェルディナント・ポルシェがつくった「ローナーポルシェ」(インホイールタイプの電気4WD車)、1910年代の「8トントラクター」「ランドヴィア・トレイン」、30年代のNSUやシュビムワーゲンの試作モデル、第2次世界大戦後のメルセデスのレーシングカー「T80」、チシタリア、356のコンポーネンツを使ったタイプ597“ハンティングカー”。そして、馴染み深いスーパーカー「959」、964こと「カレラ4」を経て、1994年デビューの「タイプ993」に至る。ポルシェは、歴史的に見て最新のヨンクモデル、カイエンが「けっして鬼っ子ではありません」と主張する。
個人的に、資料に散見される「ハイブリッド」の文字から連想するのは、先の大戦中に、ポルシェ博士がアドルフ・ヒトラーの命令で開発したハイブリッド自走砲「フェルディナント」(別名エレファント)であり、ついに完成しなかった超重戦車「マウス」のことである。前者は、過酷なロシアの地で戦うのに、ガソリンエンジンで発電機を回し、電気で走るという複雑な機構を採用した88mm砲搭載車。後者は同じ機構を用いて、前面装甲240mm(!)をほこる180トン(!!)の車体を動かし、“無敵”を狙ったモンスター。
結局、車型・ジャンルを問わず、ポルシェをポルシェなさしめているのは、過剰なまでの技術投入と、その伝統なのではないかと思う。だから、ポルシェが実質ふたり乗りのスポーツカー市場から、ファミリー用としても使える、ツフェンハウゼンの自動車メーカーいうところの“ファーストカー”マーケットへ参入するにあたり、技術的な優位を活用できるSUVでのぞむのは正解だと思う。ポルシェは、このスーパーSUVで、自社の生産総数5割増しをもくろむ。
連想を飛躍させるなら、結果としてファシスト政権に協力した過去は、政治的な善悪に頓着しないテクノクラートの一途さと生命にかかわる圧力から説明される。同様に、カイエンによる「安全」「環境」に対する絶対的なインパクトの拡大は、企業存続のための経営判断として正当化されるわけだ。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2003年6月)
・ポルシェ・カイエンS(6AT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000013433.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。