メルセデスベンツSクラス(5AT)【試乗記】
フツウのクルマの最高峰 2003.02.20 試乗記 メルセデスベンツSクラス(5AT) 500psのモンスターサルーン、4WDの追加、そしてエントリーモデルの排気量が上がったSクラス。マイナーチェンジが施されたメルセデスのフラッグシップ群に、webCG記者が乗った。
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喝を入れる
「誰がイチバンかということをハッキリさせておかないと、と、つまりそういうコトなんです」。ダイムラークライスラー日本のスタッフが耳打ちしてくれた。宮崎県で行われた「メルセデスベンツSクラス」のプレス試乗会において。
昨2002年にマイナーチェンジを受けたスリーポインテッドスターのフラッグシップが、同年11月18日、わが国でも発売された。
スーパープレミアム部門はさておいて、ブランドを問わず、いわゆる“高級車”のトップネームが「Sクラス」である。いうまでもないことだが、だがしかし、好敵手BMWが、積極的にディレクトリー構造をクルマの操作手順に採り入れた「7シリーズ」でIT時代のエグゼクティブにアピールし、近年メキメキと頭角を表したアウディは、ニュー「A8」に熟成すすんだアルミボディを与え、一方、大衆車メーカーたるフォルクスワーゲンまで「フェートン」なる自動車古典用語(?)を引っぱり出して、“ウーバー・アレス”メルセデスに挑戦する。チュートニックな権威主義を体現した先代Sクラスの不評でシュリンクした現行ハイエンドモデルに、「ここで喝を入れねば」と、シュツットガルトは考えたわけだ。
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ポルシェターボ並、免罪符付き〜S600L(5AT/1580.0万円)
新しいSクラスの目玉が、トップグレードたる「S600L」である。パワーソースを、同じ12気筒ながら、従来の5.8リッターV12(367ps)からマイバッハ由来の5.5リッターに換装、ツインターボで過給する。過給圧こそマイバッハの1.3barから0.9barに落とされているとはいえ、82.0×87.0mmのボア×ストロークから発生する最高出力は500ps/5000rpm! そのうえ、わずか1800rpmで81.6kgmの最大トルクを得て、3500rpmまで持続する。0-100km/hは4.8秒と発表される。ポルシェ911ターボの5ATティプトロ仕様が4.9秒(6MTは4.2秒)だから、オートマ対決ならポルシェにも負けない!!
S600Lの運転席に座ってキーをひねると、タコメーターの針が反応して、500rpm付近をさす。それだけ。
アイドリングストップかと思わせる静けさだ。走りだしても静粛性は破られず、街なかではむしろタイヤからのロードノイズが耳につく。エンジン回転数はめったに2000rpmを超えない。そのための12気筒であり、5.5リッターでもある。いかにも高級車のパワーソースだ。
ひとたびスロットルペダルを踏みつけると、ブッ太いトルクがトコロテンのように生み出され、2トン超のボディをスムーズに押し出す。圧倒的な加速感。一方で、巡航に移るとなくなる速度感。ステアリングホイールを握っていると、後ろに十二分のスペースを備えたリアシートや、大きな荷室を備えていることを忘れてしまう。巨大なアウトプットが、巨体にうち勝つ。
21世紀初頭の時代背景にマッチするとは言い難いハイパフォーマンスに対する免罪符として、ダイムラークライスラーが用意するのが「プレセーフ」コンセプトである。急ハンドルや急ブレーキなどの操作を検知した「ESP」および「ブレーキアシスト」からの情報で、クルマのCPUが「危険!」と判断した場合、
(1)シートベルトの機能を最大限に発揮するため、ベルトのゆるみを巻き取り
(2)乗員がシートベルトをすり抜けるサブマリン現象を防ぐため、助手席の背もたれを起こし
(3)横転時に手などを出さないようガラスサンルーフを閉める。
つまり、クルマが絶望的な状況に陥ってから実際の衝突までに、「できるだけのことをしよう」という考え方で、将来的には、ドアから乗員を離したり、膝下を保護する機能も追加される予定だ。今後、Sクラスから順次、装備する車種を増やしていくという。
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雪国御用達〜S430 4MATIC(5AT/1057.0万円)
北海道はじめ、東北、北陸などの雪国に住むリッチパースン及び平成大不況に負けていないカンパニーに朗報なのが、「4マチック」ことヨンクモデルの導入である。2003年モデルから、これまでのFR(後輪駆動)「S430」(960.0万円)にかわって、車両本体価格80.0万円高の「S430 4MATIC」(1040.0万円)がラインナップに加わった。
メルセデスの4MATICは、センターデフを用いたシンプルな4WDシステムである。前後輪の差動は、プラネタリーギアで吸収するコンベンショナルなもの。しかし「日本各地でテストしましたが、この4輪駆動方式で不十分ということはありませんでした」と、ダイムラークライスラー日本のテクニカルスタッフは胸を張る。
トルクは、通常、前:後=4:6の割合で配分される。ドライブシャフトを通す必要があるため、フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン(FRモデルは4リンク)に変更された。また、LSDを、滑った車輪にブレーキをかけることで代用する関係上、ブレーキを個別に電子制御するアンチスピンデバイス「ESP」にも専用チューンが施された。
トップレンジ「S600L」から乗り換えると、総革張りに近かったインストゥルメントパネルが、高い質感ながら樹脂製になり、バックスキンの天井がファブリックになるといったところに、ほぼ「Cクラス」1台分の価格差に気づかされる。が、それはあくまで相対的な問題である。4.3リッターV8モデルのインテリアに、なんら不満はない。
4輪駆動化によって、重量は130kg増しの1920kg(ガラスサンルーフ付きは+20kg)となったが、279psと40.8kgmを発生する強心臓、4.3リッターV8を積むので、絶対的な動力性能には、これまたなんら不満はない。
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イチバンのSクラス〜S350(5AT/892.0万円)
寒風吹きすさぶ南国宮崎の道を、とっかえひっかえトップ・オブ・メルセデスを試す豪華な試乗会の最後に乗ったのが、ボトム・オブ・Sクラスの「S350」。2002年モデルまでの「S320」に搭載されていた3.2リッターV6(224ps、32.1kgm)が、(名前はS350だが)3.7リッター(245ps、35.7kgm)に拡大され、車両本体価格は40.0万円アップの840.0万円となった。
パワー・トゥ・ウェイト・レシオからいうと、シリーズ中もっとも不利なS350だが、1000万円超のモンスターサルーンと、同じく1000万円超のフォーダブリュディーマシンの後だったせいか、ひどく軽快に感じられた。人間の感覚とはあてにならないものである。
ほかのSクラス同様、3バルブ、シングルカムのヘッドメカニズムをもつ6気筒ユニットは、S320よりボアが7.1mm広げられ、97.0×84.0mmのボア×ストロークになった。前に乗った2モデルと同じペースで走ろうとするから、ついつい回しがちになって、V6サウンドが意外に車内に侵入する。とはいえ、最近、Cクラスのテレビコマーシャルでわざわざエンジン音を聞かせているメルセデスである、Sクラスのそれも、まるで不快ではない。軽やか。しかめっつらしいオジサンの表情がにわかにゆるんだようで、ホッとする。
オプションの本革シートが奢られていたこともあってか、絶対的な動力性能は別にして、ゆるゆる街をながすぶんには上位グレードと変わるところはない。“フツウのクルマとしての最高峰”という本質に違いはないから、ことさら逃げ足が必要だとか、閉所恐怖症ゆえ広いリアシートが欲しいとか、はたまた冬には雪で囲まれる場所に住んでいるのでなければ、「S350がイチバンのSクラスだ」と思った。あ、あとお金があまってしょうがないのでなければ、という条件も加わるな。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏/2003年3月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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