ホンダ・フィットアリア1.3A FF/1.5W FF(CVT/CVT)【試乗記】
本物のアジアンカー 2002.12.13 試乗記 ホンダ・フィットアリア1.3A FF/1.5W FF(CVT/CVT) ……127.8/162.8万円 日本資本の自動車メーカーによる、タイで生産された完成車の輸入がはじまった。ホンダのニューコンパクトセダン「フィットアリア」がそれ。フィットの3ボックスモデルは、何をもたらすのか? 『webCG』記者が、神奈川県は横浜で乗った。
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特殊なパッケージ
「タイでは1.5リッターモデルが50万バーツ。ザッと計算して150万円ですか……」と、エンジニアの人が説明してくださる。2002年11月29日に発表された「ホンダ・フィット」のセダン版「フィットアリア」のプレス向け試乗会でのことである。
「150万円といっても日本と価値が違いますから」と、隣に座ったデザイン担当の方が言葉をつなぐ。「バンコク郊外では、ちょっとした一戸建てが手に入ります」
うへェ……、家が買えるのかァ!
フィットアリアは、ホンダのアジア向け戦略モデル「シティ」の2代目にあたる。同車をつくる工場はタイはアユタヤ県にあり、「シビック4ドア」、いまでは先代になった「アコード」を中心に、年7万台を生産。今回の「シティ」に続き、間もなく「CR-V」もラインに加わり、キャパシティは10万台に拡大される予定だ。
セダン市場が縮小する一方のわが国と比較して、東南アジアではまだまだ“3ボックス”という車型が力をもっている。「需要があるところでクルマをつくるわけです」とエンジニア氏。
アリアはプラットフォームをフィットと共用するが、ボディ外板ではフロントドア以外同じものはない。日本から輸出するパーツは、エンジンのピストン、コンロッド、CVT(無段変速機)などにとどまり、現地での部品調達率は7割に達するという。
5ドアハッチの3ボックス化にあたっては、「セダンに見えるようにするのに苦労した」そうだ。ベースとなったフィットはいわゆるミニバンルックで、背が高め。セダンらしくするにはルーフラインを下げたいのだが、フィット系のプラットフォームは燃料タンクが車体中央にあるため、前席の着座位置を下げにくい。スタイリングを優先してむやみに天井を低くすると、乗員の頭上空間が狭くなってしまう。「従来のセダンにない、特殊なパッケージになりました」と、デザイン担当のスタッフは言う。
アリアのハイトは、フィットより40mm低い1485mm(FF車)に落ち着いた。全長はハッチバックより480mm長い4310mm、全幅は15mm太い1690mmである。2450mmのホイールベースは変わらない。
先進スモールセダン
フィットアリアは、1.3リッター直4(86ps、12.1kgm)を積む「1.3A」と、1.5リッター(90ps、13.4kgm)の「1.5W」がラインナップされる。トランスミッションはいずれもCVTだが、1.5リッターには「オート」に加え、ステアリングホイールのボタンでシフトできるマニュアルモードが備わる。1.3、1.5とも、FF(前輪駆動)をメインに、多板クラッチを用いた「デュアルポンプシステム」式4WD車もカタログに載る。
フィットアリアは、ベース車ゆずりの豊富なシートアレンジをもつ。リアシートは、座面を背もたれ側に跳ね上げて、たとえば観葉植物といった背の高いモノを前席後ろに積むことができるし、背もたれを前に倒せば、フラットな床のまま荷室を拡大できる。
後席下に燃料タンクがない強みで、トランクルームも大きい。VDA法で500リッターの荷室容量は、なんと「トヨタ・プレミオ/アリオン」の462リッターを上まわる!
ホンダのニューコンパクトセダンの開発をとりまとめた川勝幹人LPL室主任研究員に、「アリアのウリは、この2つですか?」と確認すると、しかし主任研究員は、「いや、もっと情緒的な魅力、エクステリアのオシャレな雰囲気を訴えたい」とおっしゃる。単にコストコンシャスな実用車ではない、と言いたいのだ。フィットアリアは、「おしゃれでスタイリッシュな生活を実現する賢い消費者」に向けた「先進スモールセダン」というのが、ホンダの主張である。
価格は、1.3リッター(FF/4WD)が119.8/139.3万円、1.5リッターが139.8/159.3万円となる。トヨタの「プラッツ」と同価格帯だ。
次はCR-Vを
1.3リッター、1.5リッターのステアリングホイールを交互に握りながら、横浜の街を行く。インテリアは、ベージュのファブリックのみで、ただしインパネまわりのパネルが、前者がメタリック調、後者が木目調と差別化される。
室内は広い。後席スペースも実用十分で、足先のフロアの盛り上がりにわずかにタンクの存在を意識する。
エンジンは、ホンダ自慢の「i-DSI」ユニット。環境性能を重視したツインスパークのシングルカムで、回転数が上がりがちなCVTと組み合わされながら、よくチューンされ、車内へのノイズの侵入は少ない。1.5リッターモデルのスポーツモードは、タイにおける高額車の付加価値として存在意義がある。つまり、あまり使わない。
足まわりはアリア専用チューンで、「“キビキビ”を狙ったフィットよりは“乗り心地”にふりました」との言葉通り、フィット初期型のような路面からの鋭い突き上げは影をひそめた。記憶のなかのプラッツと比較すると、相対的に硬いと感じたが、そのあたりの“走りの違い”をホントに気にするご仁は、どちらのクルマも買わないだろう。
試乗会の基点に戻りながら、開発陣の言葉を思い出す。
……タイではまだセダンが主流ですが、インターネットの影響はすごい。もともとクルマを買う層は大変裕福ですから、もちろんパソコンももっていて、ウェブサイトで世界中のニューカーをチェックしている。自動車先進国の流行をちゃんと知っているんです。セダンを何台ももっていて飽きちゃったから、「次はCR-Vのようなクルマを」というユーザーが増えてきました……。
テレビによって“村”化された地球は、ネットに絡み取られてますます狭くなる。「最適な市場で最適なクルマを生産する」というホンダのポリシーは、建前通りに解釈すると、地域間の嗜好の差が前提となるからあまり長くは掲げていられまい。かろうじて趣味性を残す自動車が、PCや家電のように、コストがすべてを支配するフェーズに突入するのはそう遠いことではない……。
本物のアジアンカーのステアリングホイールを握りながら、そんなことを考えていた。
(文=webCGアオキ/写真=峰昌宏/2002年12月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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