ルノー・アヴァンタイム(5AT)【試乗記】
「ライオン」と名前がつけば怖くない 2002.12.05 試乗記 ルノー・アヴァンタイム(5AT) ……500.0万円 「ミニバン」にして「クーペ」であり「カブリオレ」でもある(と謳われる)ルノーの新型車「アヴァンタイム」。この“新種のクルマ”を解釈しようとしてサジを投げてしまった『webCG』記者の短評、を引き継ぐカタチで、昔からのフランス車ファンたるwebCGエグゼクティブディレクターが、アヴァンタイムについて記述する。頑張るルノーデザイン
昔からのフランス車ファンとしてはかなり複雑なのだが、最近妙にあのエゴイズムの塊のような国から来たクルマの評判がいい。プジョーは、一昔前には想像できなかったほどの確固たる地位をエスタブリッシュしたし、シトロエンの「C3」もそれなりに注目を集めている。
だけど世間受けするために、特有の頑固さが消えたプジョーも、どこかでエンジニアの理想主義を曲げてしまったようなシトロエンも、この古くて頑迷なフランス車ファンには気に入らない。
そこに行くとルノーは相当頑張っていると思う。デザインのトップたるパトリック・ルケマンが本当にやりたいことを始めたあたりから、つまり「トゥインゴ」ぐらいから、すくなくともデザインに関してはすごく意欲的になった。というより、「あんなに格好だけで飛ばしてしまって大丈夫かよ」と要らぬお節介をしたくなるほどだ。
2002年の秋も、企業としては一番の稼ぎ頭たるメガーヌに、思い切った造形を取り込んだ。人ごとながらハラハラするほどの新しいデザインアプローチだったが、とても気分よかったし、周囲の評判もすごくよかった。そのせいか新型メガーヌは立派に欧州の「カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いている。
アヴァンタムとは?
ルノーの“デザイン・ルネッサンス”を代表するモデルのひとつが、99年春のジュネーブショーで公開された「アヴァンタイム」。発表されたときは、あまりにも独善的(独創的というより)なカタチゆえ、あれは生産できないだろうという噂がもっぱらだった。特にリアグラスが量産に向かないなどと、デザイナー仲間はああだこうだと言ったものだ。
それが、結局は2001年秋に量産開始となった。ひとえに、ルケマン率いるデザインチームの社内影響力の強さと、このコンセプトを提案し、実際に設計・開発、そして製造を請け負った「マトラ」の力量ゆえだろう。
この世知辛い世間でそこまでやったことに、まずは拍手。だってこれなしには「ベルサティス」も新型メガーヌもなかったと思うからだ。
このクルマの試乗会に行って乗ったアオダンこと『webCG』の青木コンテンツエディターは、かなり気に入ったようで、戦前のフランボワイヤン・スタイルに彩られた「ドライエ」や「タルボ」を引用しようと考えたり、「合理主義の影に潜む独善性」なる言葉によってこのクルマを説明しようとしている。けれども自分では“アヴァンタイムの正体”を解明しきれず、フランス車に関しては多少先輩の私のところにお鉢が回ってきた。要するにこの妙なクルマを解釈して欲しいということだ。
そんなわけで一日都内で乗ったのだが、結論を言ってしまうなら、アオダンには申し訳ないけれど、かなり普通のクルマだった。路上でも駐車場でもすごく注目されたのを別にすれば。
分類の是非
目をつむって走っていれば(実際は危ないから、そんなことできないが)これはとても普通のやや背が高い乗用車である。2.9リッターのV6は、トルクはあってものっそりしているし、ATも普通。乗り心地はバネ上が相対的に重い(車重は1.8トン近くある)から、かえってソフトに感じるものの、ボディの建てつけの悪さが洗練性に水を差す。ハンドリングも標準的で際だってスポーティでもないし、トルクステアも隠さない。
まあ中ぐらいのミニバンとしては標準的なものだ。
でもどうしても皆、その形態にとらわれてしまう。カタチを考える以前に、一体どのジャンルに区別していいか悩むのだ。ミニバンの変形でもあるし、背の高いクーペと見てもいい、スイッチ一個でサンルーフとBピラーのないサイドのウィンドウを一緒に開ければ、メーカーがいうようにカブリオレ的な雰囲気はある。しかもカタチがすごい。前はともかく後ろから見れば現代版のステージコーチみたいでもある。
だから乗った人間は、まずは何とかどこかのジャンルとして分類したうえで、改めていい悪いを分析しようとしたがる。その過程でわからなくなって「ともかくすごいクルマ、画期的なスタイルのクルマ」ということになる。悪いのは、これに「だからいかにもフランス的」などという無責任な常套句を加えて逃げるというリポートが少なくないことだ。
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500万円の価値
でも、これは別に分類し分析する必要はないのだ。マトラの企画担当者だって「これはどういうジャンルのクルマで想定ユーザーはこうこう」などと考えていなかったと思う。「ともかくエスパスを下敷きに、面白いことをやってみよう。製造可能なら売ってみたら、いろいろ予想も付かなかったような人が買うかもしれない。それにそのデザインモチーフが将来活かせればそれはそれでいいだろう」というような気持ちでつくったものだと思う。
くり返すが、別に分類したり、そのうえでどうこう分析する必要はい。アヴァンタイムはアヴァンタイムという存在なのである。独善的といえばそれまでだが、理想主義といっても通じないことはない。
大昔、初めてライオンに遭遇した人は、従来の知識の範疇で分類できないがゆえに恐怖を抱いた。でもこれを「猫科のライオン」と名付けてからは、恐怖は薄まった。
人は新しい物に出会ったとき、どうしても自分の知識の引き出しのどこかに仕分けしないと不安になる。アヴァンタイムに対する盲目的な絶賛も、感情的な反発も、ともに無理矢理意味づけしようというところから発していると思う。
そんなこと考えないで、街なかで人が喜ぶクルマ、それだけでこのクルマに500万円払ってもいいのじゃないか、そう古くからのフランス車ファンは、多少皮肉を込めて言うことができる。
(文=webCG大川 悠/写真=峰 昌宏/2002年12月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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