ルノー・アヴァンタイム 3.0 24V【海外試乗記】
『カッコよく、オモシロイ』 2001.07.21 試乗記 ルノー・アヴァンタイム3.0 24V(6MT) 2ドアのワンボックス! いや、「比類なきドライビングプレジャーとツーリングのために生み出されたニューコンセプトクーペ」(プレス資料)が、ルノー・アヴァンタイムである。ドイツ勢に牛耳られる高級車市場に、まったく新しいアプローチを図るフレンチラグジュアリー。自動車ジャーナリスト、笹目二朗がベルリンで乗った!■ルノーのトップブランド
ルノー・アヴァンタイムは、一見モノスペース(ワンボックス)に見えるが、2ドアのハッチバッククーペである。つまり、シートは前後席の2列だ。ルノーのミニバンたる「エスパス」に、ベースのプラットフォーム(走るための機能部分骨格)を求めた大柄なクルマであり、カタログ上は5名乗車だが、事実上4人が豪華な空間で過ごすことが想定されている。
もちろん、リアシートを倒してハッチゲイトの下のトランクと繋げれば、それなりに大きな荷物収納能力ももつユニークな車だ。1999年3月のジュネーブショーでプロトタイプが、同年9月のフランクフルトショーで市販モデルが展示され、「プロトタイプほぼそのままのカタチで販売されるとは!?」と話題になった。
ヨーロッパでは、2001年10月からの販売が予定され、価格は4万ユーロといわれるから、日本では500万円クラスか。ちなみに日本仕様は右ハンドル、5ATで、3リッターV6ユニット搭載車が、来年早々にやってくる。アヴァンタイムは、ルノーのプレスティッジカーたる「ヴェルサティス」(サフランの後継車)の上に位置する、トップブランドだ。
■アヴァンタイムのハード構成
搭載されるエンジンは、サフランやラグナIIでもお馴染みの3リッターV6(210ps/6000rpm、30.0kgm/3750rpm)と、4気筒の2リッターターボエンジン(165ps、25.5kgm)がある。これらに組み合わされるギアボックスは、ラグナIIに準じた6段マニュアルと5段オートマチックだ。5ATには、ティプトロタイプのマニュアルモードが備わる。
サスペンションはエスパスと概略共通で、(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム式である。リアサスペンションは、縦方向の位置決めをする左右トレーリングアームをビームで繋ぎ、パナールロッドが横方向を受け持つ。路面の凹凸によってトーションビームは捻れて、キャンバー変化を利用するから、半独立懸架といえる。スタビライザーは前後に装着される。
ユニークなボディコンストラクションは、マトラとの共同開発になるもの。白っぽくみえるピラー、ルーフレール状の部分はアルミ材で、鉄製のボディ骨格とは接着剤とボルトで接合される。それ以外の外板部分はプラスティック樹脂である。そして、ルーフ部分は広大なガラスサンルーフとなるが開閉するのは前の部分だけで、これがアウタースライドする。
■予想以上のヒットになる?
アヴァンタイムの国際プレス試乗会は、いまヨーロッパで一番“ナウイ”、新しい街づくりが進行中のドイツはベルリンで行われた。もうすでにこのイベントがスタートして1カ月になるといわれたが、いまだにクルマを止めると人だかりがする。それだけアヴァンタイムは目立つ存在なのだ。
長さ1.4m、重さ55kgの長大なドアは、ヒンジ部分がダブルピボットになっていて、角度的にそれほど大きくは開かないで乗り降りができる。このアイディアは我国ではイスズ「エルフ」が先鞭をつけて、ソアラなどにも採用されたものだが、アヴァンタイムはドア内装の一部が折れ曲がるようになっていて、そのメカを巧妙に隠す。センターピラーレスゆえのパノラマビューは、ガラスルーフと相まって素晴らしく開放的だ。
クーペと言っても、流麗な低いルーフの車ではなく、地上高140mmが確保されたフロアも低すぎないし、ヒップポイント600mm前後のシートは、腰をかがめることなしにスッと横移動で乗り込める。高いルーフは頭をぶつける心配がない。
大柄なボディは1740kgと、サイズのわりには軽くできており、V6パワーは軽快な発進を可能にする。ノーズが短く、フルロック3回転弱のパワーステアリングはよく切れるから、予想外に機動性がある。最小回転半径は5.5m弱だ。後方はまったく不案内だが、ソナーがあるので不自由しない。静粛性は高速まで保たれ、空力係数Cd=0.34も伊達ではない。アウトバーン上では、200km/h、6速でのエンジン回転は4500rpmと十分に余裕がある。
FFシャシーによる、高速直進性と安定性の高さはエスパスでも定評のあるもの。アヴァンタイムはさらに重心高が低められ、ロールセンター高もさらに重心に近づけて高めに設定されるから、ほとんどロールを感じないし横風にも進路を乱されない。この辺が、日本車のワンボックスとは別世界の感覚だ。乗り心地はやや硬めの設定ながら、ボディの上下動が少ないフラットな乗り心地は、まったくフランス車の例にもれない。
ちょっと派手で目立つことは長所とも短所ともとれるが、500万円クラスの実用車(?)と比較しても、ハード面での遜色はない。そのうえカッコ良く、乗ってオモシロイとなれば、ひょっとしてルノーのデザインディレクター、パトリック・ルケマンが予想した以上のヒットとなるのではないだろうか。
(文=笹目二朗/写真=ルノーグループ/2001年7月)

笹目 二朗
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。