トヨタ WiLLサイファ1.3リッター2WD(4AT)【試乗記】
いつでもどこでもつながる……トヨタと。 2002.11.07 試乗記 トヨタ WiLLサイファ1.3リッター2WD(4AT) ……131.1万円 異業種合同プロジェクト「WiLL」ブランドの第3弾「WiLL サイファ」のプレス向け試乗会が千葉県は幕張で行われた。トヨタの情報ネットワーク「G-BOOK」が初めて標準装備される新型車に、webCG記者が試乗した。 拡大 |
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パソコン通信
“育てるクルマ”「WiLLサイファ(CYPHA)」とは、つまりは車載コンピュータを自分用にカスタマイズできるクルマのこと。風船のような、火星人のような(?)クルマがタワーパーキングからフワフワ出てくるTVコマーシャルを見て「何だろう?」と期待していたヒトには拍子抜け甚だしいが、まァ、世の中えてしてそうしたものである。
2002年10月25日、千葉県は幕張でプレス試乗会が開催された。駐車スペースに「ヴィッツ」ベースの縦目モデルが並ぶのを見て、「けったいなクルマだなァ」と思いながら説明会場に入る。Willサイファは、トヨタ社内の仮想企業「VVC(ヴァーチャル・ヴェンチャー・カンパニー)」が一員として手がける異業種横断ブランド「WiLL」の第3弾。もっぱら奇抜なスタイルをウリにしたWiLL1号「Vi」や2号「VS」と比較して、3号「サイファ」は、斬新なデザインのみならず、トヨタの情報ネットワーク「G-BOOK」を初めて標準装備したのが新しい。G-BOOKと呼ばれるトヨタが手がけるインターネット上のポータルサイトに、車内からアクセスできるようになったと考えるとわかりやすい。サイバー空間を介して、老若男女の、クルマと関連した生活をあらゆる側面から支援しようという野心的な試みである。
ただし、アドレスを打ち込んで、直接インターネットの任意のサイトにつなげることはできない。なぜかというと、ひとつには外部からウィルスが侵入するのを、G-BOOKセンターを介することで防ぐため。もうひとつは、トヨタの顧客として、利用者を囲い込んでおきたいからである。トヨタの担当者の方から説明を受けながら、「世界につながるインターネットというより、どちらかというと(世界が閉じられた)パソコン通信ですな」と思っていた。
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凝っている
「サイバーカプセル」をテーマとしたサイファは、「G-BOOK搭載」という要件をもとに、関東自動車工業が開発を担当した。「G-BOOKをいかに表現するかに苦労しました」と語るのは、同社の開発本部デザイン部主担当員大筆正彦さん。「フロントフェイスが普通にならないよう」腐心した、とおっしゃる。
−−TVRの「タスカン」は意識しました?
「いいえ、デザインしているときには意識しませんでした。できあがってから、結果的にアチラの路線になったかなァ……」と大筆さんは言葉を濁す。サイファは、“走る部分にフルフェイスのヘルメットを被せた”イメージなのだという。
「できるだけガンダムチックにならないように、と。愛着が湧く、たとえばソニーのAIBOのような……」と言うので
「ホンダのASIMOのような……」とリポーターが言葉を続けると、温和な大筆さんは苦笑いなさった。不作法でスイマセン。
同じく関東自動車工業の開発本部技術統括部主担当員内藤義文さんによると、ハイパーなデザインを製品として実現するのは難しかったらしい。ボンネットには、フェンダー部と自然につながるよう微妙なふくらみが付けられ、ノーズをブツけても、可能な限りバンパー交換だけで済むよう、ヘッドライトのコンパーネンツを奧に設置するといった工夫が施された。上屋でヴィッツと共用するのは、ドアハンドルとサイドミラーのカバーくらい。
インテリアも凝っていて、インストゥルメントパネル内部を左右に横切る骨格「インパネ・リーンホースメント」こそヴィッツと共通だが、「円」のモチーフをセンタークラスター、メーターナセル、ドアオープナーまわりなどに反復した内装、トリム類は、新たに設計された。同じくヴィッツベースでサイファの従兄弟にあたる(?)「イスト」より、よほど“ハリボテ感”が少ない、と思った。また、インパネまわりの各部にアクセントとして使われるブルーメタリックのパネル類は、視覚上のみならず、物理的にも凸凹を付けた新素材である。「触ってみてください!」と嬉しそうに促す内藤さんに言われるがまま指でパネルをなぞりながら、「ヒカリモノ」という言葉がリポーターの頭に浮かんだ。サバみたいだ。
ドライバー側の鍛錬が……
サイファは、FF(前輪駆動)の1.3リッターをメインに、1.5リッターの4WD車も用意される。いうまでもなく、後者は北海道などの雪国を考慮したモデルである。トランスミッションは、4段ATのみ。1.3リッターモデルに乗った。
WiLL2号「VS」もそうだったが、スペシャルモデルとして相対的に手がかけられるせいか、サイファもクルマとしてのデキはいい。「素っ頓狂なデザインから予想されるより」という前置きが必要ないほどに。
ヴィッツと骨格は同じながら、「フェルマー」と呼ばれる新しいシート地を使い、異なるクッションを採用してサイドを硬くしたシートは、しっかり上体を支え、座り心地がいい。運転席は、シート全体の角度をダイヤルで調節できる。
走り出すと、すぐにフラットで落ち着いた乗り心地に気がつく。車重が1トンを切るベース車ヴィッツと比較して、サイファは1.3リッターモデルで1265kg(1.5リッターは+100kg)。少々恰幅のいいボディが奏功しているのだろう。もちろん、増加したウェイトに対応して、足まわりには専用のパーツが用いられる。
短い試乗時間内でG-BOOKにもトライしてみたが、トヨタの最新情報ネットワークを使いこなすには、ドライバー側にいま一歩の鍛錬が必要であることがわかった。サイファにはDCM(Data Communication Module)と呼ばれる車載端末が採用され、最大144kbpsの速度でデータを転送できる。悪評高いNTTの「ISDN」よりは速い、といったところだ。それでも、信号待ちを利用して渋滞情報を取ったり、メールを確認するのは、時間的に難しい。走行中はパネルでの操作ができなくなり(データの受信は継続される)、音声認識で対応することになるのだが、リポーターのくぐもった声はマイクにのりにくいらしく、なかなか思うようにならなかった。
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育てられる、のか?
試乗を終えて、VVCのプランナー、本田亨さんと話す機会を得たので、聞いてみた。
−−サイファの情報システムは、たとえば「AirH"(エアーエッヂ)」を付けたノートパソコンを車内に持ち込むのより、ドコが優れているんですか?
「ナビ(ゲーションシステム)と連動できるところです」
なるほど。G-BOOKから採り入れた情報をもとに、ルートを設定できるということだ。たしかに、パソコンの「ブックマーク」や「お気に入り」に登録されたサイトで目的地の電話番号を調べてナビに登録するより、G-BOOKと連携させた方がズッと簡単……か!?
本田さんとお話ししていて感じたのは、トヨタが、なんとかヤングな皆様にクルマに興味をもってもらうよう、懸命な努力をはらっているということだ。サイファをして、「携帯電話と共存する、コミュニケーションツールにしたい」と考えている。WiLL1号、2号では“トンだ”スタイルで若者に振り向いてもらうことを狙い、3号ではケータイの延長としてクルマを捉えてもらおう、と。
もうひとつ感心したのは、一度トヨタ車を買ったユーザーを、なんとか手放すまいとする執念である。「当面、G-BOOKで儲けることは考えていません」というコメントの真意はともかく、何年かに1回の、次の「自動車購入」まで個々のユーザーにヒモ付けしておく。言葉を換えると、便利な情報サービスで顧客を囲い込んでおく。私事で恐縮だが、リポーターなんて、毎月の振り込み先が登録されているという一事だけで、不満いっぱいの銀行を変えられないでいるもんなァ……。
G-BOOKのサービスが本格化して、あたかもケータイに蓄積された「電話番号」やら「待ち受け画面」やら「写真」みたいになったら、次に買うときも、“過去の遺産を活かせる”G-BOOKが付いたクルマを検討するようになる、のかもしれない。そう考えていくと、クルマを育てていくのか、ユーザーが育てられるのか、わかりませんな。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年11月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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