ホンダ・モビリオ スパイクW Lパッケージ FF(CVT)【試乗記】
理想と現実 2002.10.19 試乗記 ホンダ・モビリオ スパイクW Lパッケージ FF(CVT) ……189.4万円 路面電車をモチーフにした3列シートのコンパクトミニバン「モビリオ」に、2列シート版5人乗りモデルが登場した。その名も尖った「モビリオ スパイク」。モビリオに感銘を受けていたwebCG記者が試乗会に赴いた。ファミリーからプライベートへ
「そこまでモビリオは売れとらんのか……」と暗澹たる気持ちになった。2002年9月18日に発表された「モビリオ スパイク」のプレスリリースを受け取ったとき。
記憶のいい読者の方ならおぼえていらっしゃるでしょう。2001年の暮れに「フィット」ベースの3列シートミニバン「モビリオ」が登場した際、不肖ワタクシは「メチャメチャ売れる!」と思ったのである。(モビリオデビュー当時のインプレッションhttp://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000011097.html)
映画『惑星ソラリス』まで持ち出して“次世代のクルマ”と持ち上げる(?)オッチョコチョイぶり。それなのに、ああ、それなのに……。
モビリオ スパイクの、デザイナーが仕事を放棄したかのごときボッテリした顔つき。2列シート、5人乗りの当たり前なシート配置。広報資料を読み進むにつれ、「これはきっと、プラットフォーム活用のために、販売不振のモビリオを加勢するモデルを急造したに違いない。大急ぎでつくったに違いない。そうに違いない」と、ひとり納得したのだ。
「何事にもこだわりを忘れず尖っていたい」を車名に表したというスパイクは、燃料タンクを後席下からセンターフロアに移した「グローバルコンパクトプラットフォーム」に、全長×全幅×全高=4110×1695×1705mmのボディを載せる。モビリオ同様、リアドアは左右スライド式だ。フリスビーをくわえた犬がジャンプしてボディを通り抜けることも……って、それはマツダMPVのテレビコマーシャルだって。
尖ったハイトワゴンの開発コンセプトは、「GARAGE BOX」。自分流にとことん使える空間を具体化した、と謳われる。同じシャシーを使いながら「ファミリー用」から「プライベート向け」へ。ホンダらしい、“振れ”の激しさである。
スペースいっぱい
山梨県で開催されたプレス試乗会に参加すると、会場には大きなテールゲートを開け放したモビリオ スパイクが並んでいた。マウンテンバイクを収納した個体、サーフボードを積んだクルマ、巨大なまな板のようなアルミ削り出し(!)の固定装置が目を引く天体望遠鏡搭載車やらがズラリと。「一人のゆったりした時間、そして、仲間との楽しい時間をもたらすとっておきの場所。」(プレス資料)を実地に表現したものらしい。テールゲートの重さ5kgまで耐えられるフックには、ウェットスーツやバイカー用のTシャツがかけられ、風にはためいている。
「“俺ジナル”なカーゴルームをつくってもらいたくって」というエンジニアの方の説明にはズッこけたが、なるほど、左右にわたされた板の上にプラモデルの戦車やラジコン飛行機が置かれ、サイドには網でつくられた本棚がつくられた車両には、心ならずもココロ惹かれた。このクルマで静かな森にでも行って、のんびりボンヤリしたい……。
7人乗りモビリオではウリのひとつだったDピラーの窓は、スパイクでは潰されている。やはり個人の部屋として、秘めたいことが多々あるからだろう。サードシートがあった場所はそっくりラゲッジルーム、ホンダいうところの「大容量カーゴ」になった。1045リッターという高い車高を活かした容量もさることながら、フロアと段差のないバンパー上面が、地上からわずか58cmと非常に低いことに感心した。これなら重い荷物も載せやすい。
「商用車にも最適!」と思ったが、タワーパーキングに入れられないことから、都市部では、クリーニング、古着、花屋さんといった、ハイトが求められる業種に限定されるかもしれない。
リアシートは、座面をバックレスト側へ跳ね上げて脚を畳めばそのまま固定され、座席があった場所に高さ1390mmのスペースが出現する。逆に、ヘッドレストを抜くことなく簡単に背もたれを倒してフラットなフロアのまま荷室を拡大することも可能だ。ラゲッジルームの床、壁、そして後席バックレストの裏が樹脂製になっているのは、濡れたサーフボードや汚れたバイクを積んでも後で拭き取りやすいように、との配慮から。最近では、日産エクストレイルが積極的に採用した手法である。
金鉱が…
エンジンは、7人乗りと同じ1.5リッター直4SOHCながら、可変バルブタイミング機構「VTEC」を得て、モビリオ比20psと1.2kgm大きい、最高出力110ps/5800rpmと最大トルク14.6kgm/4800rpmを発生する。CVTには、廉価グレードをのぞき、オートマチックのほか、ステアリングホイールのスポークに設置されたボタンでシフトできる「7速オートシフトモード」が搭載されたことが、スペック上は新しい。買った直後はうれしかろう。
グローバルシャシーの“硬い乗り心地”は、フィットより200kg以上重い車重ゆえ、じゃっかんは緩和されている。それでも、上下に揺すられる感がある。「お客さまの声を採り入れてすこしずつ変えている」(ホンダのエンジニア)ということだが……。
試乗の合間に、ホンダの方にモビリオの販売台数を聞くと、月4000台ほどとの答。「大ヒットとはいかないが、この不況のなか、けっこう売れてる……」。そう考えていたら、モビリオの試乗会に出席したおりにお話をうかがった本田技術研究所和光研究所デザインAスタジオの村上邦俊研究員がいらしたので、さっそく質問した。
−−スパイクの開発はいつから始まったんですか?
「開発スタートの定義にもよりますが、モビリオとほぼ同時期です」
そうなのか。
−−3列シートのモビリオ、もう、街に溢れるほど売れるかと思ったのですが……。
村上さんは表情を曇らせ、
「ただ、トヨタ・スパシオを買われるお客さまと比較調査しますとね、意識的に選ばれているのは断然モビリオなんです。それぞれ使い方もよく研究されていて……」と、いまひとつ歯切れが悪い。
−−でも、月4000台だったら、この時期、健闘していますよね。
思わず好意的な言葉を口にすると、
「まあ、コンパクトミニバンのジャンルにも金鉱があるんじゃないかと掘ってみたんですが、意外に少なかったというか……」と、再び歯切れが悪い。やはりデザイン担当としては、「モビリオが本命」だったのかしらん。
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現実路線
結局、われわれメディアや評論家サイドは、新奇で斬新なクルマを評価するけれど、自腹を切って購入するユーザーは、よりシビアで、現実的ということだ。「停まっていても走っているように見える」という伝統的なクルマの美学を排し、路面電車をモチーフにした垂直基調のデザインは斬新だったし、大きなガラスエリアからは「わたしを見て!」とすべての大衆が叫ぶ社会−−“ブログ”と呼ばれるインターネット上の個人日記の氾濫−−が感じられ、空中道路たる首都高速をモビリオが行くの図は、クルマが自動運転になる未来−−映画「惑星ソラリス」に出てくるような−−を暗示させる、と勝手に解釈して「いかにも世相にさといホンダらしい」と感心することしきりだったのだが、モビリオのボディサイズは、3列シートを配置するには絶対的に小さい。もちろん、ホンダのエンジニアはそんなこと百も承知で、実験的なモデルを先行させ、現実路線のクルマでフォローしたわけだ。たぶん。スパイクの次には、さらに実社会に密着した商用車バージョンが控えているという。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年10月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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