日産フェアレディZ vs ポルシェ・ボクスターS【ライバル車はコレ】
ニューZはボクスターに追いついたか? 2002.08.27 試乗記 日産フェアレディZ vs ポルシェ・ボクスターS 「ほどほどの価格でカッコいいスポーツカーを」という初代Zのコンセプトに立ち返り、2002年7月30日に登場した新型「フェアレディZ」。商品企画、開発・生産コストといった絶対的な制約とは裏腹に、運動性能に関してはポルシェ「ボクスター」を目標にしたという。日産は、ポルシェにどこまで迫ったのか? ボクスターの最初期型をアシとする自動車ジャーナリスト、河村康彦が説く。 ![]() |
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キャラクターと価格の差
日産は、新型「フェアレディZ」を開発するにあたって、“仮想ライバル”をポルシェ「ボクスター」に設定した。
かたや本格ミドシップレイアウトをとる、オープン専用設計ボディの2シータースポーツ。こなたFR(後輪駆動)レイアウトをベースとしたファストバッククーペ……と、両者のキャラクターは大きく異なる。
価格もしかり。量販メーカーの性で、「スカイライン」のプラットフォームをはじめ、エンジン、シャシーなどコンポーネンツを他モデルと共有しているZは、300.0万円から360.0万円まで。
一方のボクスターは、2.7リッターモデルが550.0万円から。性能的にZのライバルと目される3.2リッター「S」は、690.0万円からである。
新型911(996型)とパーツを共有しているといわれるボクスターだが、ほぼ専用設計といっていい。年産5万台強の少量生産メーカーであるポルシェにとって、コンポーネンツ共有によるコストダウンの効果は微々たるもの。ポルシェが極めて高価なプライスタグを付けているのは、そのためだ。
フェアレディZとボクスターSの価格は、倍ほども違う。しかし、両者を直接比較することがまるで意味のないこととは、僕は思わない。
フラットライド・コンセプト
ボクスターは、ミドシプレイアウトがもたらすトラクションの高さや、後ろ寄り荷重が功を奏する減速フィール、リニアリティに富んだ回頭感や、微少入力でもしなやかにストロークするサスペンションなど、“走りの質感”の高さに定評がある。
日産は、パッケージングやレイアウトが異なるZを開発するにあたって、ボクスターに備わる“一級のスポーツカーの走りの質感”を手本としたのだろう。
さらに近い将来、新型Zにもオープンモデルが追加投入されるという。電動ソフトトップを備えながら、「極めて軽い重量」と、オープンカーとは思えないほどの「高剛性感を実現させたオープンボディ」。参考すべき点は多い。
実際、ニューZをドライブしてみると、ボクスターに似た走りのテイストが感じとれる。まずは、日産が主張する「フラットライド・コンセプト」が色濃く反映された乗り味だ。フラットライドとは、目線が動かないフラットなボディコントロールにより、繊細なドライビング操作ができる運転環境のこと、という。
この考えを先行して取り入れたスカイラインは、バウンス方向(前後同時の上下)の動きは許しても、ピッチ方向(前後交互の上下)の動きは徹底して封じ込めていた。しかしZでは、わずかにピッチングが目立つ感がある。この点は、両車のホイールベースの違いによるところが大きそうだ。何しろ「ピュア2シーター」に徹した新型Zのホイールベースは、スカイラインのそれより200mmも短い2650mm。これがフラット感の演出に不利に働いたと考えられる。
ボクスターと較べても、Zのフラットライド感は多少劣る。MR(ミドエンジン・リアドライブ)やRR(リアエンジン・リアドライブ)といった、重量物であるエンジンをボディ後半部にマウントするスポーツカーをつくるポルシェは、相対的に荷重が小さくなる前輪の接地性の確保に留意したモデルを造る。前輪の接地が変わることをきらい、走行中の前後配分が変化することを極力避ける。そのため、ピッチング挙動を排除した「フラットライド・コンセプト」が,“ポルシェの走り”にとって重要なのだ。
詰めの甘さ
新しいZのフットワークには、まだまだ“詰めが甘い”部分が残る。たとえば、18インチタイヤを履いた仕様は、前後グリップのアンバランス感が強い。タイヤサイズは、前225/45R18、後245/45R18。攻め込んでいくとリアのグリップが勝ち過ぎ、最終的に強いアンダーステアに見舞われてしまう。また、ターンインの際のコーナリングフォースの立ち上がりに、前後輪間に微妙な“時差”が感じられる。せっかくキャリパーとローターにブレンボが奢られたブレーキシステムも、ことペダルタッチという点では、17インチ仕様に対するアドバンテージがない。
だから、標準で17インチながら、18インチタイヤも無難に履きこなすボクスターSと較べると、少々力量の差を感じさせられる。「小さな車輪を履いた方が好印象」というのでは、一級スポーツカーとして物足りない。
クーペボディということもあり、剛性感ではボクスターにひけをとらないZだが、クローズドボディが災いし、走行中に低周波で耳を刺激するドラミングノイズが感じられたのは惜しい。大型のテールゲートが“太鼓効果”を起こし、キャビン内の空気に微妙な圧力変化をもたらすのだろう。ただし、これはすでに日産も認識しているようだから、早期に解決されることを期待したい。
新型フェアレディZがボクスターSに「範」に置いたことは、なかなかの見識であったと思う。このクルマが、決してコンパクトといえるサイズではないにもかかわらず、ボクスター同様「走り出すと実際より小さく感じられる」雰囲気を備えるているのも、ひょっとするとそうした生い立ちに一因があるのかもしれない。
(文=河村康彦/2002年8月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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