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ポルシェ・ボクスターGTS(MR/7AT)

いいクルマの“いいとこ取り” 2015.01.19 試乗記 清水 草一 シリーズ随一のハイパフォーマンスを誇る、オープンスポーツカー「ボクスターGTS」。実際の走りは、どうだった? 燃費もあわせて報告する。

優等生だと思ったら……!

何を隠そう、新型ボクスターに乗るのはこれが初めて。初試乗でいきなり頂上グレードのGTSに乗ったので、他のグレードとの比較はできない。申し訳ありません。
しかし、多くのユーザーはすべてのグレードを試乗した上で買うわけでもないので、取りあえず1台乗って、あとはスペックや試乗記を見て詰めていきましょうという、通常の消費行動に近い試乗だと捉えていただきたい。

私の場合、あまりポルシェに乗る機会がない分、先入観が強かった。それは、「ボクスターはよく出来過ぎていてつまらないクルマ」というものだ。下取り時の値落ちが激しいのも、大いなるマイナスポイントだ。ボクスターを下取りに中古フェラーリへ進む方(偉い!)をよく拝見するのだが、かわいそうなほど買い取り価格が安いのが実情だ。

ミドシップのオープン2シーターといえば、地上で最もとんがった存在のはずだが、実際ボクスターに乗るとなんだかぼんやりと万人向けで華やかさも中途半端、ハンドリングオタクは「ケイマン」に流れ、ポルシェ買ったよと自慢すればボクスターでしょと突っ込まれ、結局どっちつかずの「こんなもん?」。それが先代ボクスターの印象だった。
つまり私の認識は、いい人だけどパンチが弱くて恵まれないボクスター、だったのである。新型はさらに優等生的になっているんだろうから、さらにつまらなくなってるんじゃないか。そんなことまで予想していた。

まったくの間違いであった。
初めて乗った新型ボクスター(GTS)は衝撃的だった。少なくともこのクルマは、ソツのない優等生ではない。それどころかこのクルマには、世界のスーパースポーツの美点(あるいは幻影)が、いいとこ取りでちりばめられていた。

「ボクスターGTS」は、オープン2シーターである「ボクスター」の最上級モデル。日本では2014年春に導入が発表された。


    「ボクスターGTS」は、オープン2シーターである「ボクスター」の最上級モデル。日本では2014年春に導入が発表された。
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ポルシェ・ボクスターGTS(MR/7AT)【試乗記】の画像 拡大
ヘッドレスト一体型の、スポーティーなシート。テスト車には、オプションのシートヒーターが備わっていた。
ヘッドレスト一体型の、スポーティーなシート。テスト車には、オプションのシートヒーターが備わっていた。
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サイドシルも、モデル名入りのプレートで飾られる。
サイドシルも、モデル名入りのプレートで飾られる。
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ルーフの開閉は電動式になっている。(写真をクリックすると、ルーフのオープン動作が見られます)
ルーフの開閉は電動式になっている。(写真をクリックすると、ルーフのオープン動作が見られます)
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いままでのとは違いすぎる

まず見えたのは「ポルシェ911」の美点だ。なにしろ水平対向6発3.4リッターのエンジンブロックは、新型「911カレラ」と同じもの。これまでとは腹に響くドンという重みのようなものが違う。おかげで廉価版ポルシェという印象はまったく感じられなくなった。逆に本物をギュッと凝縮した感覚さえある。
試乗車は7段PDKだったので、その点もカレラと同じ。MTは6段でカレラの7段にはかなわないが、特にハンディにはならないだろう。

これまでのボクスターは、小排気量モデルの方がシュワーンと小気味よく回って、小粒でピリリと辛い好印象があったが、今度のトップグレードは違う。この3.4リッターは本当の本物だ。ただ、15ps低い「S」でもパワー感はほぼ変わらないらしい(伝聞)。

次に見えたのはフェラーリ的な美点だ。スポーツプラスモードおよび、スポーツエキゾーストシステム(爆音スイッチ)ON時のサウンドの雄たけびは、本気でフェラーリを意識しているのではないだろうか?
とにかくとてつもない音だ。特にトンネル内+オープン状態だとハンパじゃない。シフトダウンした瞬間のブリッピングだけでドライバー自身がビビる。自分が出した音でビックリしてブレーキを踏んでしまいたくなる。
ボクスターでこんな快音が楽しめるなら、もうフェラーリはいらないネ! そんな感じなのである。このすごすぎるサウンドに関しては、「S」より「GTS」の方が一段上らしい(伝聞)。この快音のスケールの大きさは、従来のボクスターの概念を完全にブチ壊すものだった。


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メーターは3眼式。中央はエンジン回転計で、右隣はマルチインフォメーションディスプレイになっている。
メーターは3眼式。中央はエンジン回転計で、右隣はマルチインフォメーションディスプレイになっている。
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走行モードの選択スイッチや、排気音の調節スイッチなど、各種の機能ボタンが整然と並ぶ、センターコンソール。中央に見えるのは、ルーフの開閉スイッチである。
走行モードの選択スイッチや、排気音の調節スイッチなど、各種の機能ボタンが整然と並ぶ、センターコンソール。中央に見えるのは、ルーフの開閉スイッチである。
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マフラーエンドはセンターの2本出し。周囲をディフューザーが取り囲む。
マフラーエンドはセンターの2本出し。周囲をディフューザーが取り囲む。
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楽しめる範囲の高性能

で、動力性能だが、これはあえてギリギリちょうどいいと言っておこう。なにしろボクスターGTSのライバルは911系やフェラーリなので、そう考えれば、330psは適度にアンダーパワーなのである。

今や世界のスーパースポーツは、アクセルを全開にするだけで命懸けというレベルが普通だ。もう通常の神経では、例えば首都高でアクセル全開など、一瞬でも自殺行為というくらい加速が鋭すぎる。結局踏むことを諦めて流してしまったりする。それに比べるとボクスターGTSはなんとか全開にでき、これならギリギリ普通に楽しめるよ、と思えるのだ。

この、首都高でもギリギリ楽しめる裏には、さすがポルシェというべきスタビリティーの高さもある。ミドシップ後輪駆動だが危うさはほとんど感じない。そういう意味では4WDの「ランボルギーニ・ウラカン」にちょっと近い。なんだかムリヤリ誘導しているみたいたが、とんがってるけど安心というこの感覚はウラカンに似ていなくもない。サウンドも腹に響く甲高さだから、フェラーリよりランボに近いかもしれない。クルマの性別を判定すれば間違いなく男性なのもランボルギーニと同じ。もちろんフェラーリは女性ですね。

ハンドリングはそんなにとんがっていない。「フェラーリ458」もランボルギーニ・ウラカンも、ステアリングのロック・トゥ・ロックは2回転。フォーミュラマシンのようにシャープで、いくらなんでも一般ドライバーには危険! といえるが、ボクスターGTSは3回転。50%もスローだ。ボディー剛性も高いといえばメチャ高いが、やっぱりクローズドボディーにはないねじれ感があって、その分Gが逃げる。そのあたりの感じが実にちょうどいい。
458やウラカンだと、あまりにもステアリングを少ししか回せないので、公道では物足りなく感じてきたりする。もうちょっとズバッと切った感覚を味わわせてくれ! という、おかしな欲求不満がたまってくる。しかしボクスターなら心配ない。旋回性能のキレはごくフツーのシャープさだ。これがポルシェの良識だろうか。

ただGTSには、オプションでPTV(ポルシェ・トルクベクタリング)も装着可能で、そうするとターンインでコーナー内側の後輪にブレーキトルクをかけ、さらに俊敏に反応するという。458のEデフと効果のベクトルは同じだろう。となるとステアリングにもフェラーリの幻影が見えてくるのかもしれないが、試乗車は非装着だった。いやこれで十分です。これ以上ターンインが鋭いと宇宙船になってしまう。PTV非装着のボクスターGTSには、まっとうなスポーツカー感があって好ましかった。

7段PDK仕様の「ボクスターGTS」が0-100km/h加速に要する時間は、4.9秒。最高速度は279km/hと公表される。
7段PDK仕様の「ボクスターGTS」が0-100km/h加速に要する時間は、4.9秒。最高速度は279km/hと公表される。
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7段PDKはシフトパドル付きである。向かって右がシフトアップ用で、左はシフトダウン用。
7段PDKはシフトパドル付きである。向かって右がシフトアップ用で、左はシフトダウン用。
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「ボクスターGTS」を駆る筆者。
「ボクスターGTS」を駆る筆者。
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速度にあわせてせり上がる、リアウイング。センターコンソールのスイッチを介し、手動で操作することもできる。
速度にあわせてせり上がる、リアウイング。センターコンソールのスイッチを介し、手動で操作することもできる。
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ミドに搭載される330psのエンジンは、直接は見られない。その後方に設けられたラゲッジスペースの容量は130リッター。
ミドに搭載される330psのエンジンは、直接は見られない。その後方に設けられたラゲッジスペースの容量は130リッター。
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エコカー的な側面も

さらなる驚愕(きょうがく)。実はボクスターには、「フォルクスワーゲン・ポロ」の背後霊まで見えるのだ。
スタンダードモードで普通に流していると、エンジン回転は2000rpm程度でシフトアップしていく。ヘタすると1000rpmあたりにとどまっていたりする。実際その回転からでもなんとか加速するし、2000rpmも回っていれば、かなりスポーティーな加速を見せるほどのフレキシビリティーがある。この感覚はフォルクスワーゲンのダウンサイジングターボ、ポロの1.2リッターターボに近い。

もちろんアイドリングストップも付いていて、エンジン始動のたびに「ガオーン」とどう猛なサウンドも轟(とどろ)く。その点は今や現在のスーパースポーツの標準だが、ボクスターの場合、スタンダードモードでアクセルを離すと、7段PDKは瞬時にニュートラルに入り、コースティングを始めるのだ! さすがにコースティングモードは、フェラーリにもランボルギーニにもない。ゆるゆると首都高を巡航中、燃費計は16km/リッター前後を示した。

このようにボクスターGTSは、世界の名だたるスーパーカーおよびエコカーのいいところ取りをしたクルマ、というのが私の結論となった。この1台で911や458スパイダー、ウラカン、そしてフォルクスワーゲン・ポロが同時に楽しめる。実にすごいことである。もはやポルシェはさじ加減ひとつで、どんなクルマも再現できるのかもしれない。これは、911やフェラーリやランボルギーニに憧れている方にとって、すばらしいプレゼントになる。これが1台あれば、近所のお買い物からロングドライブ、あるいは深夜の首都高での気分転換まで、あらゆるシーンで万能だ。冬の夜の首都高オープンドライブ、寒かったけど刺激満点でした。

試乗車の定価は949万円、オプション込みで約1065万円。ボクスターにしては高いが、わずか1000万円少しで1億円分近く味わえると思えば激安だ。若干予算をプラスすれば911カレラが買えるが、カレラにはこれほどの凝縮感や欲張り感はない。もっとサラッと自然体である。
ゆえに私は、「じゃボクスターGTSって何?」という印象も抱いた。テンコ盛りすぎて個性が見えづらくなっている。
ボクスターGTSは、スーパースポーツカーの大バーゲンだ。それをどう捉えるかは乗り手次第である。

(文=清水草一/写真=田村 弥)


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「ボクスターGTS」には、今回テストした7段PDK車のほか、6段MT車も用意される。
「ボクスターGTS」には、今回テストした7段PDK車のほか、6段MT車も用意される。
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オプションの「ブラックペインテッドホイール」は、21万4000円のオプション。サイズは20インチ。
オプションの「ブラックペインテッドホイール」は、21万4000円のオプション。サイズは20インチ。
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フロントには、リアよりも20リッター分広い、容量150リッターのラゲッジスペースが確保される。
フロントには、リアよりも20リッター分広い、容量150リッターのラゲッジスペースが確保される。
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テスト車のデータ

ポルシェ・ボクスターGTS

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1800×1270mm
ホイールベース:2475mm
車重:1375kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:330ps(243kW)/6700rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/4500-5800rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.2リッター/100km(約12.2km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:949万円/テスト車=1064万7000円
オプション装備:エクステリアカラー<サファイヤブルーメタリック/ブラウン>(15万円)/エクステリアパッケージ<ブラック仕上げ>(18万2000円)/電動ミラー(5万5000円)/ブラックペインテッドホイール(21万4000円)/GTSコミュニケーションパッケージ(48万円)/シートヒーター(7万6000円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5153km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:214.0km
使用燃料:25.5リッター
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)

ポルシェ・ボクスターGTS
ポルシェ・ボクスターGTS
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ヘッドレスト部に見られる「GTS」のロゴマーク。
ヘッドレスト部に見られる「GTS」のロゴマーク。
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運転席用、助手席用ともに、カップホルダーはグラブボックスの上方に折り畳み収納されている。
運転席用、助手席用ともに、カップホルダーはグラブボックスの上方に折り畳み収納されている。
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清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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