第16回:ガン見されるタクシー
2013.03.15 リーフタクシーの営業日誌第16回:ガン見されるタクシー
「リーフ」はまだ珍しい?
(第15回からの続き)
「あらやだ、ほんとにセンがないのに『電気自動車』って書いてあるんだわねェ」
あらやだお母さんは、目的地のペニンシュラホテルで降りたとき、屋根にちょこんと載っている「電気自動車」の白い看板をあらためて見ながらそう言うのだった。
あらがとうございました。
リーフタクシーの運転手(=矢貫隆)は、礼の言葉を告げて車寄せを離れ、晴海通りを左折して銀座方面へと走りだす。
「お〜い」そんな声が聞こえたような気がして、ふッとルームミラーに目をやる運転手。するとそこには、スーツ姿のサラリーマン風の2人の若い男が、それこそ「お〜い」とばかりに手を振りながら追ってくる姿が映っているではありませんか。
空車のタクシーなんて掃いて捨てるほど走っている今のご時世に、必死で手を振りながら、これを逃したら金輪際タクシーには乗れませんぜ、みたいな形相で追ってくるなんておかしい。
やだよ、俺、気持ち悪い。
と、逃げの態勢にはいった。ところが、向こうも諦めない。
逃がすもんか、なんせ空車のタクシーがここを通りかかるのは3日ぶりだ、ぐらいの勢いで、すぐ先の信号が赤になるのを見越したようにダッシュを緩めず、ついに2人は黒いリーフタクシーに追いついた……、というような一連のシーンを頭に浮かべてもらいたい。
「お〜いって呼んだのに、運転手さん、気がついてくれないんだもの……」
ゼーゼーしながら話す男に、気がついたからこそ知らんぷりしたんだとは言わず、それはどうも申し訳ありませんでしたと恐縮したふりの俺。
「いっぺん乗ってみたかったんですよ、リーフ」
「そしたら、目の前にこのタクシーがいたんで追っかけてきたんです」
空車のタクシーを走って追っかけるなんて、俺はてっきり危ない人かと思ったよ、とも言わず、それはどうもありがとうございましたと礼を言い、で、どちらまで行きましょうかと尋ねたわけである。
「豊洲までお願いします」
目的地の豊洲には、取りあえず晴海通りを直進である。銀座四丁目の交差点まではいつものとおりの渋滞だった。
となりの車線にいるタクシーの乗客がこっちを見てる。明らかにこのタクシーがリーフだと気がついての注目のようだ。
「ガン見されてる」
視線に気づいたこっちの2人が照れた様子でそう言った。
「ちょー恥ずかしい……」
ちょー恥ずかしくないから照れなくていい。あんたらをガン見してるわけじゃない。
リーフタクシーは、リーフが珍しくなくなった今も珍しい。それゆえのガン見、毎度のことなのである。
(文=矢貫隆/写真=荒川正幸)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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