フランス勢の自由な発想に脱帽(後編)【ジュネーブショー2013】
2013.03.11 自動車ニュース【ジュネーブショー2013】フランス勢の自由な発想に脱帽(後編)
魅力的な展示車両はもちろん、心地よさも大きな魅力だった今回のルノーブース。フランス勢のトリを飾る同社の注目モデルとともに、他のヨーロッパメーカーには見られなかった、フランス勢ならではの魅力を紹介しよう。
■心地よい空間に注目のモデルをずらり
今回のジュネーブでは、個人的にルノーのブースが最も心地よい空間を演出していたと思う。カーペット敷きの広いスペースは中央が盛り上がったなだらかな傾斜が設けられ、市販版の「キャプチャー」が何台も並べられていた。
巨大なモニタースクリーンの前には掛け心地の良い柔らかなクッションがたくさん置かれていたので、ショー取材の合間の休息を取るメディア関係者がリラックスしていた。もちろん、筆者もお世話になったひとり。凝った間接照明で、実に居心地が良かった。
そのキャプチャーだが、一昨年のジュネーブや東京のモーターショーでコンセプトカーとして出展されたものが市販版として登場した。最低地上高200mmで全高1570mmと少し背の高いディメンションを持つが、SUV風のオフロード走行を想起させられるディテールはない。あくまでも都会風のクロスオーバーといった感じだ。全長は4120mm、全幅は1770mmだから、同じルノーの「ルーテシア」のバリエーションのひとつと位置付けられるだろう。エンジンは1リッター前後の3気筒と4気筒のガソリンとディーゼルが複数そろえられている。ボディーカラーをディテールに反復したインテリアの造形レベルも高く、商品力は高そうだ。
ルノーの出展でもう一つ注目だったのが、ブースの一方の端にズラリと並べられていた電気自動車の「トゥイジー(TWIZY)」。すでに発売されていて、9600スイスフランから。運転席の後ろに小さなシートを備えたタンデム1+1シートアレンジが斬新だ。宅配ピザの配達バイクのようだが、立派な4輪を備えている。
ドアは「カウンタック」のように上方に開くが、重量と開閉メカニズムがかさむ窓ガラスは省略されている。雨よけ用にファスナーで取り外す透明ビニールが用意されており、これはこれで十分だろう。航続距離は明らかにされていなかったが、リチウムイオンバッテリーの満充電に要するのが3時間30分と短いところを見ると、それほど長いものではないだろう。クルマの構造からしてコミューターであるのは間違いなので、航続距離よりも充電時間の短さを優先させたのは理にかなっている。
電気自動車は、これまでの内燃機関エンジン車の延長線上にあるような設計を行ってしまうと大きく重くなってしまうことは避けられないので、このトゥイジーのように発想を大胆に組み直したものの方がかえって普及が早いのではないか。ルノーは電気自動車に積極的で、「カングー バンZ.E.」や「ゾエ」などもラインナップしている。
■常識にとらわれない自由な発想こそが魅力
他の自動車メーカーが自らの技術特性とブランド価値をライバルから峻別(しゅんべつ)し、自律的に高めていこうとしているのに対して、フランスの自動車メーカーはもっと開かれていて、発想が豊かで自由だった。自動車という移動手段の再定義付けを時流に則して素早くキメ細かく行っている。
「ルノー・キャプチャー」と「プジョー2008」が、背の高いコンパクトクロスオーバーとして同時に登場したのは単なる偶然ではないだろう。ひと昔前のフランスの自動車メーカーだったら、最大多数のユーザーに最大幸福をもたらすクルマは前輪駆動による2ボックスコンパクトハッチに限られていた。そこにキャプチャーと2008というハイトクロスオーバーを追加した。
新しいパワートレインへの取り組み方も貪欲だ。既存の常識にとらわれない自由な発想によるものが生まれ、ディーゼルハイブリッドは世界に先駆けて実用化した。プジョー・シトロエンによる「Hybrid Air」も面目躍如たるものがある。
イギリスなどのプレミアムブランドが、クルマをタテ方向に推し進めることによって自らの存在価値を高めようとしているのに対して、フランス車はヨコ方向に広げるというか、今まで見落としてきたり技術的に実現できなかったスキマを埋めようとしているように見えた。どちらも自動車と人間の関係をより密になるように推し進めていこうとしている。どちらも人間の行っていることで、どちらも前向きでエネルギッシュだった。
もちろん、そんなに単純かつキレイに分けられるものではないのだけれども、今年のジュネーブ自動車ショーに出展されていたフランス車とその先行技術を見ていたら、そんなことを考えさせられた。
(文と写真=金子浩久)
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