第286回:ヒトもクルマも「サマータイム」に備えよ!
2013.03.08 マッキナ あらモーダ!第286回:ヒトもクルマも「サマータイム」に備えよ!
イタリアのサマータイム
「サマータイム」と聞いて、ボクがとっさに思い出すのは、3代目「ホンダ・アコード」(1985-89年)だ。なぜならそのテレビCMソングは、オペラ「ポーギーとベス」のためにG.ガーシュウィンが作曲したアリア「Summertime」で、歌っていたのは、なんとあの演歌歌手、森進一だったからである。
今回はサマータイム(夏時間)の話だ。「まだ夏でもないのに、サマータイムの話かよ」と言うなかれ。イタリアの夏時間は、毎年3月の最終日曜日から始まる。イタリアにやってきてすぐ、サマータイムは夏真っ盛りだけだろうと思っていたボクは、その始まりの早さに驚いたものだ。そして夏時間は10月最終土曜日まで続く。こちらも最初は「こんなに時期まで続くのか」とびっくりした。つまり、1年のうち半分以上にあたる7カ月間が夏時間なのである。
冬時間から夏時間への切り換えは、時計を1時間進める。毎朝7時起床を守っていた人は、夏時間になった日から、前日でいう6時に起きることになる。そして6時に仕事を終えていた人は、夏時間になった日から冬時間でいう5時に仕事を終えることになる。だから夏は日が長くなることと相まって、夜がかなり長く明るいことになる。
ボクが住むシエナの場合だと、最も日が長い時期は、夜の9時半近くまで明るい。人々は会社を終えてそのまま街中を散歩し、一旦家に帰って家族と夕食を食べてから、ふたたび街で友達と待ち合わせ、一緒にジェラートを食べたりする。
テレビも教えてくれる
日本ではあまり知られていないが、実際にサマータイムに切り替えるのは0時ちょうどではない。午前2時である。0時ぴったりよりも、活動している人や交通機関が少ないので混乱が少ないという配慮によるものだろう。
テレビのニュースでは公営・民放ともに、前々日くらいから頻繁に「まもなくサマータイムです」といった告知を時計のイラストとともに放映し、注意を促す。
わが家の場合、サマータイム最初の朝は、ボクが起きがけに脚立に登って掛け時計を調整する。それでも最近は、パソコン、電波置き時計など勝手にサマータイムに移行してくれるデバイスが増えたので、ずいぶん楽ちんである。
世の中はどうなっているのかというと、鉄道駅はボクが知る限り、きちんと調整されている。いっぽう広場の時計、郊外行き路線バスの車内時計は、かなりの確率で数日間冬時間のままなので要注意だ。
ただしそのあたりイタリア人は慣れているらしく、混乱は生じない。 もちろん、夏時間から冬時間に切り替わったのをうっかり忘れて勤め先に1時間早く着いてしまい、「みんな遅いな。なっとらん!」としばらく怒っていた知り合いのおばちゃんのような人もいることはいる。だが、たとえ時計が未調整だからといって、ブーブー怒っている人間は見たことはない。
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高級モデルは心配要らずだった!
夏・冬時間の切り替えでボクが結構困っているものといえば、実は「自家用車の時計」である。冬時間から夏時間に切り換わったあと、うっかり調整を怠ると、約束に1時間遅れる危険がある。
いっぽう冬時間に切り換えるのを忘れ、目的地にかなり早く到着し「今日は飛ばしすぎたかな」と思ったら、時計が1時間進んでいただけだった、なんていうこともあった。
こうしたことを体験するたび、往年のテレビドラマ『スチュワーデス物語』で時差の習得に苦しむ主人公・松本千秋の気持ちになる。
さらに困ったことに、車内時計の操作方法など、1年365日中たった2回のことゆえ、覚えてなんかいない。加えて、クルマを買い替えるごとに、時計の操作が複雑になってゆく。したがって、説明書をグロープボックスから引っぱり出して首っ引きで調べることになる。
みんなこんな苦労をしているのか? そう思ったボクは、メルセデス・ベンツのミラノ支店に勤める知人ベッペに聞いてみた。
彼の持ち場は納車ラウンジ。毎日顧客相手に操作を説明している。それだけに、答えは一発だった。
「GPS連動のCOMANDシステム(メルセデス・ベンツのマルチメディア・システム)で、かつ設定をユーザーが画面で選択している場合、夏時間/冬時間は自動的に切り替わるよ」
加えて、「サマータイムを実施していない東欧諸国に行った場合も、自動的に調整してくれるんだ」と教えてくれた。
ダッシュボード中央に付いているアナログ時計も、夏/冬時間に合わせて、針がぐるっと回って調節してくれるのだそうだ。高級モデルに乗っている欧州にユーザーは、ボクのような苦労はしていなかったのである。
それはともかく、もっと悔しいのはイタリアに16年も住んでいて、一度もパソコンの時計や電波時計が進んだり、戻ったりする瞬間を目撃できてないことである。
まあ、子どもの頃、テレビの洋画劇場を観始めてもすぐ眠くなってしまい『ベン・ハー』も『マイ・フェアレディ』もいまだまともに結末を知らないボクゆえ、仕方ないのかもしれないが。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。