ランドローバー・レンジローバー5.0 V8ヴォーグ/レンジローバー5.0 V8スーパーチャージド ヴォーグ【試乗記】
どう味わってもレンジローバー 2013.02.13 試乗記 ランドローバー・レンジローバー5.0 V8ヴォーグ(4WD/8AT)/レンジローバー5.0 V8スーパーチャージド ヴォーグ(4WD/8AT)……1282万6000円/1539万7000円
およそ10年ぶりにフルモデルチェンジされ、4代目となった「レンジローバー」。より威厳を増し、進化した新型に試乗した。
格段に増した洗練度
日本のみのサブネーム「ヴォーグ」が外れて、元の名となった「レンジローバー」。すでに実車は見ていたし、モロッコでそのステアリングを握ってもいたのだが、見慣れた日本の空の下であらためて対面すると、随分立派になったなぁ……という思いが頭をもたげてきた。
サイズがいたずらに大きくなっているわけではない。全長5005mm×全幅1985mm×全高1865mmという外寸は、従来より35mm長く、30mm広く、15mm低いとはいえ、それでも例えば「メルセデス・ベンツGLシリーズ」や「アウディQ7」などに比べればまだ小さいし、フロントノーズやウインドスクリーンの傾斜が強くなり、ボディーの四隅が微妙に絞り込まれたおかげで、フォルムはむしろ軽快感を増してもいる。
では、なぜ立派になったと感じたのかといえば……やはりそれは威厳を増したという言葉で表現するのがふさわしい気がする。前後オーバーハングを切り詰めたプロポーション、微妙な面の張り、繊細なディテール等々が相まって、下品になることなく押し出し感を強めているのだ。
インテリアも同様である。低いウエストラインと高い着座位置により圧倒的な視界をもたらすコマンドポジション、そして水平なダッシュボードに力強いセンターコンソールを組み合わせたダッシュボードの基本デザインといった、レンジローバーの基本には変わりはないが、スイッチ類が整理されたこと、そして使われているレザーやウッド、その他の部分のクオリティーが大幅に増したことにより洗練度、そして上質感は格段に向上している。室内に招き入れられると思わず息を飲んでしまう。そんな空間に仕上がっているのである。
空間自体も拡大された。特に後席の足元には大きな余裕が生まれている。一方で後席のダブルフォールディング機構は廃止された。先代はそれでも十分に快適な乗り心地を実現していただけに残念だが、これは電動シート座面長調整、リアシートクーラーといった装備が採用されたのと引き換えということのようだ。
スタンダードを塗り替えるハンドリングのよさ
こんな風に内外装を眺めるだけでも大きな変化を感じる新型レンジローバーだが、何より大胆に変わっているのは中身の方である。とりわけ注目すべきは、やはりオールアルミ製モノコックボディーの採用だろう。
あれこれ説明するよりも、走らせてみればその効能は明らか。新型レンジローバー、とにかく身のこなしが身軽なのだ。車両重量は自然吸気エンジン搭載車で従来より190kgも軽いだけあって、アクセルを踏むとすぐにクルマがグッと前に出る実感が得られる。特にスーパーチャージド・ユニット搭載車の加速感ときたら、不意に全開にするとのけ反ってしまいそうなほど強力だ。エンジンは基本的に先代の最終モデルと同じものだが、新たに8段ATを採用していることも、この加速力に大いに貢献していることは間違いない。
もちろん自然吸気エンジンでも動力性能は十分以上。日本で乗るなら、その軽やかなレスポンスの心地よさも含めて、むしろ自分ならこちらを選ぶだろう。今までスーパーチャージド派だった人も、試す価値はある。
フットワークも切れ味は上々だ。小さいとは言えない体躯(たいく)ながら動きは羽根のように軽く、すべての反応が俊敏だし、おそらく重心も大きく下がっているはずだから、グラリと傾くような不安を感じることがない。これほどまでに狙ったラインをぴたりとトレースできる快感を、まさかSUVで堪能できるなんて、乗る前には想像だにしなかった。特に可変スタビライザー機構のダイナミックレスポンスを備えるスーパーチャージド・ユニット搭載車のミズスマシのようなハンドリングは、確実にこのセグメントのスタンダードを塗り替えるものだ。
欲を言えば、電動アシストとされたステアリングの保舵(ほだ)力は、もう少し重めでもいいかもしれない。しかし、それとて力を入れ過ぎることなく、背筋を伸ばしてステアリングに手を添えるような運転を心がければ、気にならないレベルだろう。
それでいて乗り心地も極上。車重が軽くなれば、この点では不利なはずなのだが、そんなことは微塵(みじん)も感じさせることはない。しなやかでコシがあり、しかしフワフワ頼りないところなど皆無な、良好な乗り心地を速度域を問わず満喫できる。風切り音、エンジン音、ロードノイズ等々、あらゆる面での静粛性の高さも特筆もので、これらが相まって、本当に快適に過ごせるのだ。
ほとばしる威厳
レンジローバーといえば、オフロード性能にも触れないわけにはいかないのだが、今回は残念ながらそれを試す機会はなかった。筆者自身は昨年、モロッコにて砂漠から荒れ果てた山岳路まで存分に試すことができたが、おそらく今後も、日本ではその神髄に迫れるような場面はないだろう。しかしながら、大事なのはそういう本物に乗っているんだという安心感、そして満足感である。そこには疑いをはさむ余地など微塵もない。それが歴史と伝統、いわゆるブランドというものではないだろうか。
それにしても、やはり圧倒されたと言うほか無い。最初に感じた、威厳を増したというところ。これは結局、今までもベスト・イン・クラスだった内容を、確実に進化させた圧倒的な中身に寄るところが大きいのかもしれない。内面にみなぎる自信が、外見にもほとばしり出ているのだ。ほぼ、そのすべてが新しく、進化を感じさせるのに、どう見ても味わってもレンジローバー以外の何物でもない。これはすごいことである。
唯一、引っ掛かる部分があるとすれば、あまりに立派になり過ぎてしまったという感はなくもない。いちゃもんをつけるような話だが、これに乗って、でも乗せられない自分でいられるというのは、今まで以上に簡単じゃないだろうと感じたのは事実である。まあ、それもいかにもイギリス製の高級車らしくて、個人的にはイヤではないのだけれど。願わくば、品よく乗ってほしい一台だ。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎)
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