BMW X3 xDrive20dブルーパフォーマンス(4WD/8AT)【試乗記】
エンジン談義が盛り上がる 2013.01.22 試乗記 BMW X3 xDrive20dブルーパフォーマンス(4WD/8AT)……674万7000円
急速なラインナップ強化により、日本のディーゼル市場におけるプレミアムブランドの主役となりつつあるBMW。その実力を、ミドルサイズSUVの「X3」で試した。
燃費もトルクも一枚上手
石原慎太郎(元)東京都知事が、ディーゼル車から排出される黒いススをペットボトルに入れて振ってから10年余り。すっかり沈滞したわが国の乗用車ディーゼル市場において、メルセデスが地道に種をまいてきた“プレミアムブランドのディーゼル”の主役を、昨今、横から一気にかっさらう勢いなのが、バイエルンのエンジンメーカーことBMWである。「3シリーズ」「5シリーズ」「X3」そして「X5」にディーゼルモデルがラインナップされる。
「BMW X3 xDrive20dブルーパフォーマンス」は、2リッターディーゼルターボを搭載する、バイエルンのコンパクトSUVである。ボディーサイズは、全長4650mm、全幅1880mm、全高1675mm(Mスポーツパッケージ装着車は全長4660mm、全幅1900mm)と、「マツダCX-5」を10cmほど伸ばして、低く構えた感じ。2810mmのホイールベースは、3シリーズと変わらない。
2リッターディーゼルターボのアウトプットは、最高出力184ps/4000rpm、最大トルク38.7kgm/1750-2750rpm。「X3 xDrive20i」が積むガソリンエンジンの2リッター直4ターボが、最高出力184ps/5000rpm、最大トルク27.5kgm/1250-4500rpmだから、パワーでは同等、トルクでは20dが20iを圧倒する。上級モデル「28i」(2リッター直4ターボ搭載)の最大トルク35.7kgmをも上回る数値だ。JC08モードのカタログ燃費を見ると、20dが18.6km/リッター、20iが13.4km/リッターと、ここでも20dが大差を付ける結果になる。
「バイキセノンヘッドランプ」「フロントフォグランプ」「マルチファンクションレザーステアリングホイール」「電動フロントシート」「HDDナビゲーションシステム(8.8インチワイド液晶)」「リアビューカメラ」「リモートコントロールキー」「オートエアコン」といった標準装備は両者等しく、気になるお値段は、ガソリンの20iが541万円なのに対し、ディーゼルの20dは23万円高に抑えられた564万円と、なかなか魅力的な設定だ。
SUV色の強い乗り味
X3のドライバーズシートに座ると、相変わらず「ちょっと視点の高い3シリーズ」。セダン/ワゴンと、上手に室内イメージを共有している。というか、標準の8.8インチワイドディスプレイをセンターコンソール上部に埋め込んだX3のほうが、ダッシュボードまわりは整理された印象だ。試乗車は、オプションの「Mスポーツパッケージ」(39万8000円)が装着されているので、随所にアルミパーツが用いられ、スポーティーなイメージがいや増している。スポーツシートは、レザーとクロスのコンビネーション。
メーターナセル内の回転計を見ると、5400rpmあたりから早くもレッドゾーンになっているのが、ディーゼルを感じさせる。メーター下部の燃費計には、「START STOP」の文字。ディーゼルのX3にも、アイドリングストップ機能に加え、制動時に運動エネルギーを熱として放出するだけでなく、電力として回収する「ブレーキエネルギー回生システム」が搭載される。オルタネーターの発電を制御して、加速時のパワーロスを減らすことができる燃費向上のための工夫だ。
エンジンをかけると、軽微ながらディーゼル車特有の振動と音が出る。車内はもちろん、車外からも、ディーゼル車と知ることができよう。
走り始めると、事前に「まんま3シリーズ」と勝手に予想していたためか、「意外に横方向に揺れる」と感じた。ちょっとカテゴリーが異なるけれど、「三菱アウトランダー」「スバル・フォレスター」といったクルマと比べると、クロスオーバーというより、SUV色の強いクルマである。より乗用車テイストを求めるなら「『X1』を購入ください」ということだ。
試乗車には、エンジン+トランスミッションを「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」と段階的に設定できる「ドライビングパフォーマンスコントロール」に加え、アシの硬さを制御する「ダイナミックダンピングコントロール」(オプション)が装備されるので、駆動系はノーマル(コンフォート)のまま、サスペンションだけ硬め(スポーツ)に設定することも可能だ。
時代に即している
X3 20dが「BMWだなぁ」と実感させるのが、高速道路での安定性で、やや大きめの前面投影面積などものともせずに、すばらしい直進性を見せる。日本の交通事情なら「コンフォート」で十分だが、試しに「スポーツ」にすると、100km/hで1600rpmほどだったエンジン回転数が800rpmほど跳ね上がり、足まわりもグッと締まって、クルマがハイスピードクルージングに備えるのがよくわかる。100km/hの速度制限がうらめしい!?
アップダウンや“曲がり”が多い山道でも、X3 20dは順当な走りを見せる。4WDシステムを採るためか、運転席左足付近の余裕がないのが少々気になるが、オプションのスポーツシートは、あたりがソフトでいながら、しっかり上体を支える秀逸なもの。ハンドル操作に集中させてくれる。重いディーゼルエンジンを積んでいるので、前後重量比は……と車検証を参照すると、前:後=910kg:930kg。ノーズヘビーになっていないのがさすが。
登りの緩いカーブなどでは、涼やかに、スムーズに吹け上がるガソリンエンジンを懐かしく感じたりもしたが、燃費重視の今は、低回転域からトルクにのせてクルマを走らせるのが時代の流れだから、むやみに過去を思い出しても詮ないことだ。
ちなみに、ガソリンユニットの20iのほうが、20dよりやや高めの回転数でピークパワーを発生するのは当然として、ちょっと意外なのが最大トルク。発生回転域が、20iのガソリンターボが1250-4500rpm、ディーゼルの20dは1750-2750rpm。20iが、20dより低い回転数から幅広く最大トルクを発生する。ヒュンヒュン回りたがるガソリンエンジンを、BMWの開発陣がよくなだめて、ディーゼル調のフラットトルクを与えた様子がうかがえる。そんな風に、いつのまにかエンジンに思いを馳(は)せてしまうのが、やはりBMWのクルマなのだろう。
(文=青木禎之/写真=河野敦樹)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。