ランドローバー・レンジローバー(4WD/8AT)【海外試乗記】
その世界観に揺るぎなし 2012.12.23 試乗記 ランドローバー・レンジローバー(4WD/8AT)その地位に甘んじることなく、果敢に進み続ける「レンジローバー」。オールアルミモノコックを採用し、悪路走破性をさらに高めるなど、先代から大幅な進化を成し遂げた。しかしその世界観は揺るぎない。モロッコからのリポート。
伝統をモダンに解釈
もし、自分がミリオネアだったら、クルマを降りたその場で新型「レンジローバー」を注文していただろう。それほど先月モロッコで乗ってきた新型レンジローバーは素晴らしかった。
一般道とハイウェイ、砂浜、凸凹の激しい未舗装の山道、岩場などあらゆるシチュエーションを走り込んできたが、そのまま日本まで運転して帰りたくなった。飛行機に乗せられて帰国する何十倍もの時間が掛かるけれども、地上を走る限り、これ以上に甘美な乗り物を他に知らない。
モロッコの港町エッサウィラで対面した新型レンジローバーは、歴代レンジローバーのデザインディテールを巧みに盛り込みながら、現代的な造形にまとめ上げるのに成功していた。
「新世代のレンジローバーをデザインするということは、40年間の足跡と成功に対して大きな責任を負うということだ。しかし、われわれのチームは驚異的なハードワークをこなし、エレガントなプロポーションとピュアな外観を造り出すことに成功した」
ランドローバーのデザインディレクターでありチーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバンは新型レンジローバーに絶対の自信を持っているようだった。
左右両端が盛り上がっているボンネットフード、フロントドアの縁のエアアウトレット、ウィンドウでカバーされ、後ろにエッジを少し付き出すかたちのDピラー、二分割して開閉できるガラスハッチとテールゲートなどはすべてモダナイズされて織り込まれている。初めて見る小さなテールランプユニットと絞り込まれたテールがエレガントだ。
運転席に座り込んでも、これがレンジローバーであることを体が思い出した。「コマンドポジション」が守られているのだ。ステアリングホイールをホンの気持ち上から抱え込むようにして、ボディーの四隅を直接目視とミラー越しに確認できるのは安心感につながる。これは、ボディーを右に左に斜めに倒しながら進むような過酷なオフロードに入った時に、さらなる安心感をもたらしてくれることになる。
インテリアの趣味と品質も変わらない。ふたつ前の2代目まではヴィクトリア朝のオールドワールドなセンスだったが、3代目に一気にモダナイズされ、この4代目も一層の磨きが掛けられている。
インテリアで最も大きく変わって見えたのはメーターパネルだ。先代も“メーター”は存在せずに、モニタースクリーンにメーターが描き出されていたが、新型はそれがフルカラーで粒子が細かく、細かく動く。フェイズを切り替えてさらに多くの情報が表示できるようになった。
ヨーロッパ向けには3リッターV6と4.4リッターV8のターボディーゼルエンジンもラインナップされているが、日本仕様は5リッターガソリンV8の自然吸気とスーパーチャージャー付きの2種類。最高出力は375psと510ps。トランスミッションは8段化されたATとなる。
さらに強化された走破性能
新型レンジローバーの大きな技術的ハイライトはふたつある。ひとつはアルミモノコックボディーの採用による大幅な軽量化だ。V6ターボディーゼル搭載モデルでは最大で420kgも軽量化されている。ガソリンモデルでも、400kg近くも軽くなっているというから、もはや別物かもしれない。
シャシーエンジニアリングマネージャーのロイド・ジョーンズに、試乗の前の晩に力説された。
「軽量化は省燃費のためでもあるが、オンとオフロードでのドライビングダイナミクスの革新でもある。そこを感じ取ってほしい」
もうひとつが、ランドローバー全車に装備されている走行モードシステム「テレインレスポンス」のバージョンアップだ。新たに「オート」モードが加わり、通常はそれで走ればいい。同システムは、「オンロード」「草地/砂利/雪」「泥地/わだち」「砂地」「岩場」と5つの走行モードが用意され、これまではドライバーが選択しなければならなかった。
しかし、新たに加わったオートモードはタイヤのグリップ具合を1秒間に100回の速さで瞬間的に判断し、最適なモードを自動的に選んでくれる。
10年前にスコットランドで行われたランドローバーのメディア試乗会で、「テレインレスポンスは、なぜいちいち手動で選ばなければならないのか? 『ポルシェ・カイエン』などはトルク配分やエンジン回転制御、ATのシフト制御などを走行状況に合わせて自動化しているではないか」と質問したことがある。
答えは、「オフロードドライビングでは、舗装された道からフィールドに立ち入る時にはいったん停止して、場合によってはクルマから降りて、路面状況を確認する必要がある。だから、一度考えて、選ぶようにしているのだ」
工学的な理由からではなくて、経験的かつ高尚な答えが返ってきたのに感心させられたことをよく憶えている。
「外向き」のクルマ
今回のオートモードの追加はその哲学を否定するものではなくて、オンロードモードの範囲を広げたものだと解釈できるだろう。なぜならば、本当に過酷な砂地や岩場を走る時にはボタンを押して車高を上げ、状況によってはさらに副変速機のローレンジモードを組み合わせなければ走破できないことがあるからだ。
そうした状況では、メータースクリーン中央に、シャシーとサスペンション、およびアクスルの状況がイラスト化されて表示される。岩場を越えている最中は、前後アクスルと仮定された軸がどれだけねじれ、4つのサスペンションがどれだけ縮んでいるかもリアルタイムで把握することができるのだ。とても助けになる表示だ。
スタックしそうになるほどの、さらに過酷な岩場や砂地などでは、スクリーン上のセンターデフとリアデフのロック量までも表示され、これも大いに運転の助けとなった。ガジェットではない。
他にも、超絶的な走破能力をエッサウィラからマラケシュにいたるまでのオフロードで見せ付けてくれたが、スペースの制約があるのでそのスペックと併せて詳述するのは次の機会に譲りたい。それにしてもスゴかった。
オンロードでの走りっぷりも文句の付けようがなかった。スーパーチャージャー付きモデルの0-100km/h加速は5.1秒という韋駄天(いだてん)ぶりだ。自然吸気モデルだって6.8秒だから速い。
しかし、アルミモノコックボディーの剛性は高く、静かで乗り心地も快適だから、あまりスピードを感じさせない。これなら、長距離を走っても疲れがとても少ないだろう。スーパーチャージャー付きエンジンのパフォーマンスは万能だが、自然吸気のスムーズで静かな回転感覚も好ましい。どの速度域でも、あらゆる走行感覚が滑らかで繊細だ。
初めに、「ミリオネアだったら注文する」と書いたけれども、レンジローバーが素晴らしければ素晴らしいほど、価格だけではない敷居が高く立ちふさがってくる。それはライフスタイルである。都心の込み入った地域に建つ賃貸マンションに住んで、せわしなく日々を送っている身には宝の持ち腐れもいいところだ。レンジローバーがかわいそうになる。
自然豊かなところにセカンドハウスでも持ち、そこと都心を頻繁に往復しながら、他の土地にも積極的にクルマで旅をするようなライフスタイルを送らない限り、このクルマの真価の一端すらつかむことはできないだろう。そんなことまで考えさせられるクルマだった。先代から大幅な進化を成し遂げ、それでいて世界観は揺るぎない。
広い範囲でのSUVというカテゴリーに収まる世界中のクルマが内向きになりつつあったところで、レンジローバーは大きく目を見開いて外を向いていることがよくわかって、とてもうれしかった。
(文=金子浩久/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)