ホンダ・フィットGスマートセレクション(FF/CVT)【試乗記】
最後の「フィット」!? 2012.08.20 試乗記 ホンダ・フィットGスマートセレクション(FF/CVT)……141万4500円
2012年5月に最後(?)のマイナーチェンジを受けた「ホンダ・フィット」。“国民的コンパクトカー”の基本グレードの走りはどこまで熟成されたのか。
“体幹”をじわっと強化
現行「フィット」がデビューしたのは2007年。早いもので、今年で5年目になる。ウワサでは2013年にフルモデルチェンジするらしいから、このままさしたる手直しなしでいくのだろうと思っていたら、2012年5月にマイナーチェンジを受けた。女性向きの「シーズ(She's)」や「ハイブリッドRS」が新たに加わるなど、話題としてはわりと大きなものであった。
このとき、ハイブリッドではないごく普通のガソリンエンジン搭載車も改良を受けている。しかし、その内容は「シーズ」や「RS」の華やかさに比べたら地味で堅実なものだった。
今回試乗した1.3リッター「Gスマートセレクション」のCVT搭載車に話を絞れば、まずJC08モード燃費が20.6km/リッターから21.0km/リッターへ約2%引き上げられている。そしてセンターコンソールやドリンクホルダー(インパネ左右)にLEDの照明が付き、後席中央のヘッドレストが標準で装備された。VSA(トラクションコントロール+横すべり防止)については標準装備化されたグレードもあったが、Gスマートセレクションでは残念ながらオプションにとどまった。
コンパクトカーはその国のモータリングのいわば足腰。表面的な装飾などではなく、その“体幹”ともいえる基本性能の強化は賛成だ。新型は価格も頑張っていて、車両価格は従来より3万円安い132万円とされた。
では、早速走りだしてフィットの熟成ぶりをチェックしていこう。
基本は変わらない
1.3リッターエンジンのパワーとトルクは、マイナーチェンジの前後で変化はない。低速域から不満のないトルクを発生する美点も従来と同じ。都市部の道の流れに身をゆだねて走るなら2500rpm、いや2000rpmも回せば十分。一定速走行に移ると、タコメーターの針はすっと1000rpmあたりまで落ちる。そんな感じで、気が付くとアイドリングから数百回転高いだけの領域で走っているような設定だから、室内に透過してくるエンジンノイズは小さい。ロードノイズの方が目立つくらいだ。
試乗車には、フィットではおなじみのヨコハマ・アスペックが装着されていた。このタイヤはするするっといかにも少ない抵抗で転がる感触がある反面、同時に“低ころタイヤ”にありがちな踏面(とうめん)の硬さも伝えてきて、ロードノイズがやや騒々しいきらいがある……そう思って、過去にフィットに試乗したときのメモを見返したら、同じことが記してあった。
さらに、フィットは初代モデルから乗り心地が独特で、スポーティーな仕様ではないごく標準的なものでも、ヒョコヒョコとした小刻みな上下動を残す傾向がある。もうちょっとサスペンションにゆったりとしたストローク感があって、どしっと腰が据われば快適になるのに、と感じたところも、マイナーチェンジ前のモデルと変わらない。
とまあ、率直なところ、従来のフィットの美点だけでなく、気になるところもほぼそのまま受け継がれている印象を持った。
フィットは次期モデルでフロアパンを含めたアーキテクチャー(車体の骨格部分)が一新されるそうだから、きっとそのとき、大きな進化が見られるのだろう。
新型よ、どこへ行く?
ところでホンダはいま、クルマ造りの大きな転換点に差し掛かっているのをご存じだろうか。彼らは「Earth Dream Technologies」というキャッチフレーズを掲げて次世代技術の開発を行っているが、この内容がすごい。今後数年以内に、あらゆるパワートレインを一新しようとしているのである。
まずは、2012年秋に新しい2.4リッター直4と3.5リッターV6エンジンを投入し、2013年に1.3〜1.5リッター、および1.8〜2リッターが続くそうだ。すでに発表されている軽自動車のエンジンを合わせて、ガソリンユニットは5系統すべてが替わることになる。それに合わせて、次世代CVTとデュアルクラッチ・トランスミッションを発表するという。
さらにハイブリッドシステムでは新型のIMAを投入し、2モーターのストロングハイブリッドと、次期「NSX」などに用いる3モーターの「スポーツハイブリッドSH-AWD」も実用化する。
次期フィットについていえば、パワートレインだけでなく、前述のとおりアーキテクチャーも新しいものになる。ひとことで言えば、従来の先進国マーケットを意識した設計を改め、新興国におけるパーツ調達、および生産を前提とした高い競争力を持つ“真のグローバルカー”になるとのことだ。わずか数年間で、これだけの入れ替えを行った自動車メーカーがかつてあっただろうか。ホンダの決断には大きな拍手を送りたい。
しかし同時に気になるのは、これほどの大改革を実施して、すべてに高い品質を保(たも)てるのかということである。
コストを過剰に優先させると商品力が痩せるもの。新興国と先進国のニーズを同時に満たそうとしたコンパクトカーの中には、“つや”が引いてしまったように感じられるものもある。いまや国民的コンパクトカーとなったフィットには、その轍(てつ)を踏んでほしくない。そう思うのは、筆者だけだろうか。
ホンダのお手並み拝見である。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=小林俊樹)

竹下 元太郎
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。