第32回:最新バットモービルが登場……その驚異の性能とは!? − 『ダークナイト・ライジング』
2012.07.26 読んでますカー、観てますカー第32回:最新バットモービルが登場……その驚異の性能とは!?『ダークナイト・ライジング』
これはクルマではない?
今年のルマンでは、日産の「デルタウイング」が注目された。デザインが「バットモービル」みたいだと評判になったのだ。残念ながらクラッシュでリタイアしてしまったものの、見た目の存在感では一等賞だったかもしれない。
クリストファー・ノーラン監督とクリスチャン・ベイルがコンビを組んだバットマンシリーズ1作目の『バットマン・ビギンズ』では、「タンブラー」と名付けられた斬新なフォルムのバットモービルが採用された。2作目の『ダークナイト』でも、この異様にタイヤの太い高性能なマシンが引き続き活躍した。
コンビ最終作となる『ダークナイト・ライジング』ではどうか。ダークナイトが、こんなことを言う。
「これはクルマではない」
なんと、今回ダークナイトの相棒となる乗り物は、空を飛ぶのだ。かといって、飛行機でもない。垂直に離着陸し、自在に空中を移動する。岩国への配備で大きな問題になっているオスプレイに似ている。もちろん、すぐ墜落するあんなポンコツではなく、小型で高性能なマシンだ。名前はシンプルに「バット」と呼ばれる。
実は、タンブラーも出てこないわけではない。ただ、敵側に乗っ取られてしまうのだ。塗装も変えられて、軍用の迷彩柄である。これがなんともかっこ悪い。やはり、バットモービルはクールな黒でなくてはいけないのだ。
大富豪はランボルギーニ好き
バットモービルの二輪版である「バットポッド」は健在だ。これも極太タイヤで、極端な前傾姿勢で乗るのが難しそうだが、実際に動かして操縦しているというから驚く。キャットウーマンことセリーナ・カイルが乗るシーンでは、さすがに女優のアン・ハサウェイには無理なので、女性ライダーがスタントを務めたそうだ。このアンのコスチューム姿のセクシーさは、完璧としか言いようがない。とっても悪い女で、それがまた魅力的だ。
バットマンの表の顔は大富豪のブルース・ウェインだから、普通のクルマだってちゃんと持っている。いや、普通じゃないか。「ランボルギーニ・アヴェンタドール」なのだから。『バットマン・ビギンズ』では「ムルシエラゴ・ロードスター」に乗っていたから、闇の騎士はランボルギーニ好きなのかもしれない。
3部作の完結編ということで、やはりできれば前2作を見ておいたほうがわかりやすいだろう。最初のシーンはハービー・デントの追悼式から始まるのだが、このデントというのが前作で善悪のはざまからダークサイドへ落ちたエピソードを知っておいたほうが理解しやすいはずだ。
『ダークナイト』では、故ヒース・レジャー演じるジョーカーの“悪の哲学”にバットマンが追い詰められていった。今回の敵役ベインは、ストレートに悪を追求し、圧倒的なパワーで破壊していく。野獣のような肉体が、それだけで存在感を放っている。ベイン役はトム・ハーディなのだが、最後まで顔は見えない。きつく締め付けられたマスクで、表情さえうかがえないのだ。『マッドマックス2』のヒューマンガスの荒々しさと『羊たちの沈黙』のレクター博士の禍々(まがまが)しさを合わせたような恐ろしさだ。
こいつの強さがとんでもない。ザコが相手だと、フリッツ・フォン・エリックばりのアイアンクローで簡単にやっつけてしまう。首をひねって殺したり、骨を砕いたり、『燃えよドラゴン』の悪役ボロのように粗野な暴力を使うのだ。対するダークナイトは、8年間引きこもり状態だったから体調が万全ではない。ゴッサム・シティーは苦境に立たされる。
社会に深く関わった映画
大作だけに、共演陣も豪華だ。執事のアルフレッドのマイケル・ケイン、ゴードン市警本部長のゲイリー・オールドマンは、前2作と変わらない。ルーシャス・フォックス役のモーガン・フリーマンも同様だ。新たに加わったのは、ミランダ・テイト役のマリオン・コティヤールだ。そして、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット。『(500)日のサマー』『50/50』ではヘタレ男が似合っていた彼だが、今回は勇気ある警官ジョン・ブレイク役で頑張っている。最後には彼の本名が明らかにされて、今後の役割が示される。
アメリカでは、この映画の上映は不幸な出来事とともにスタートした。封切り初日にコロラド州オーロラの映画館で乱射事件が起き、多くの犠牲者を出したのだ。犯人が自らを“ジョーカー”と名乗ったことで、映画の影響が取り沙汰されたりもした。また、ベインの行動をニューヨークの“ウォール街を占拠せよ”運動になぞらえ、金持ちのダークナイト=ブルース・ウェインを保守派に見立てる批評もある。映画のストーリーが、現実の社会に深く関わりを持ってしまったわけだ。ただ、日本から見ると、少し違う解釈も可能だ。
ベインは核融合を用いた新エネルギーシステムを乗っ取り、ゴッサム・シティーの市民を人質にして絶対的な力を手に入れる。ただの独裁者ではない。彼は、犯罪が減少して一見平和が訪れたように見えるゴッサム・シティーには、抑圧が満ちていると説く。市民が自分の手に街を取り戻さなければならないと挑発し、腐った金持ちや官僚たちを打ち倒すべきだと扇動するのだ。
これは、現在日本の地方都市で発生している政治状況とずいぶん似ているような気がする。広く共感を得ることのできるわかりやすい悪役を仕立て、それを罵倒しおとしめることで人々をいい気分にさせ、善悪ひっくるめて一つの目的を遂げようとする運動だ。
核エネルギー、オスプレイ、蔓延(まんえん)するポピュリズム。まるで日本の抱える3つの大きな問題をテーマにした作品みたいだ。まあ、そんなふうに思わせる複雑な構造をエンターテインメントに仕立てたというのが、ノーラン監督の手柄なわけだが。
『キック・アス』『スーパー!』がアマチュアのスーパーヒーローの活躍を描いて以来、伝統的なヒーローは立ち位置の難しい存在になってしまった。現実は複雑すぎる。バットモービルでさっそうと現れて事件を解決するヒーローは、もういない。
(文=鈴木真人)
『ダークナイト ライジング』
7月28日(土)より丸の内ピカデリー他 全国ロードショー
<7月27日(金)先行上映決定!>
公式サイト:http://www.darkknightrising.jp
公式ファンページ:http://www.facebook.com/darkknightrising
JOIN THE LEGENDS:https://www.thelegendends.jp/
ワーナー・ブラザース映画配給

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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