フォルクスワーゲンCC 1.8TSI テクノロジーパッケージ(FF/7AT)【試乗記】
マジメなおしゃれ着 2012.07.24 試乗記 フォルクスワーゲンCC 1.8TSI テクノロジーパッケージ(FF/7AT)……524万円
“4ドアクーペ”をうたうフォルクスワーゲンの最上級セダンが、新たな名前で登場。その走りは、乗り心地は、どんな進化をとげたのか?
「カッコいいセダン」ができるワケ
低くてワイドなかっちょいい4ドアセダンが続々登場するのを見て、この動きは何かに似ている、同じことが起きているジャンルがほかにある、とピンときた。
それは、スーツだ。スーツもやはりシルエットがタイトになったり、ツヤのある素材になったり、実用性よりオシャレな方向に振れている。
以下、「セダンとスーツは地下水脈の深〜いところでつながっている」という仮説である。
昔は、大人の男はスーツを着て4ドアセダンに乗るのがあたりまえだった。それが80年代に入るとハッチバックが流行(はや)り、90年代にはRVブームがあり、ミニバンの時代に至った。
いまはもう、無理にセダンに乗る必要はない。便利で楽ちんなクルマがよければ、ほかにいくらでも選択肢がある。いまあえてセダンに乗る理由は、そのスタイルを選ぶということだろう。だからセダンはどんどんカッコよくなる。
少し遅れて、スーツにも同じようなカジュアル化が起こった。ノータイがOKになり、ジャケパンもアリになり、特に夏の季節はポロシャツ+チノパンも許されるようになった。業種によってはジーンズだって珍しくない。
だから昔の背広といまのスーツは、立ち位置が違う。「通勤用」「労働着」「オフィスワーカーの制服」としての役目は終わり、パーティーやレストランに出掛ける時の「おしゃれ着」になった。だからスーツはどんどんカッコよくなる。
というわけで、セダンもスーツも、もうお仕事はしなくていいのである。ひたすらカッコよさを追求すればいい。というなかで、フォルクスワーゲンのかっちょいい4ドアセダン、「フォルクスワーゲンCC」の日本への導入が始まった。
排気量は小さくなれど
「フォルクスワーゲンCC」は、もともとは「フォルクスワーゲン・パサートCC」という名称だった。そしてこのたび、デザインの変更を機に、名前を変えたのだ。
名前を変えた理由は、「パサート」より上級で「フェートン」(日本未導入)の真下に位置するという、フォルクスワーゲンのピラミッドの形を明確にするためだ。したがって日本を含めてフェートンが導入されない地域では、「フォルクスワーゲンCC」が最上位モデルとなる。
確かに、目をツブって「ぱさーと・しーしー」とつぶやいてから「ふぉるくすわーげん・しーしー」と声に出してみると、立派になったような気がする(しませんか?)。フロントマスクも、「フェートン」に似た押し出しの強いものになった。
日本仕様の「フォルクスワーゲンCC」は、1モデル2グレード展開。すなわちエンジンは1.8リッターのTSI(160ps)のみ。ベーシックモデルたる「1.8TSI」と、プリクラッシュブレーキやレーンチェンジアシストといった進んだ安全装備を持つ「1.8TSI テクノロジーパッケージ」の二つのグレードが用意される。
従来の「パサートCC」のエンジンは、2リッター直4ターボ(211ps)と3.6リッターV6(299ps)だったけれど、新型に積まれるのは直列4気筒1.8リッター+ターボ。とはいえ、試乗前に「排気量半分でダイジョーブ!?」的な不安を感じることはなかった。現行「パサート」に積まれる122psの1.4TSI(1.4リッター+ターボ)の出来がよかったからだ。
予想通り、1.8TSIはいい仕事をする。発進加速のスムーズで力強い加速が、力に余裕があることを物語る。
従来型の6段から格上げされた7段DSGは「す、す、す」と素早くスムーズにシフトアップを重ねるから、それほど回転は上がらないのに力強くスピードが上積みされていく。回転計の針が2000rpm付近に貼り付いていながら速度計の針がぐいぐい上昇するのは、CVTみたいで面白い。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
安全装備はお買い得
足まわりのセッティングを「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3段階に変更できる「アダプティブシャシーコントロール(DCC)」は全車標準装備。結論から書くと市街地は「コンフォート」、高速は「ノーマル」が快適だった。
快適なだけでなく、しなやかにロールをしながら、いかにも正確に路面をとらえている感触が伝わってくるから、コーナリングも楽しい。「ドキドキする!」タイプのファンではなく、いいものを落ち着いて操作できる喜びだ。
前述したように、普通に乗る限りはエンジン回転数がそれほど上がらないので、車内も静か。後で資料を確認すると、「随所に遮音材を追加した」とあった。確かに効果アリ。「CC=コンフォートクーペ」の名にふさわしい、快適性と楽しさを兼ね備えている。
ただし「スポーツ」モードはかなりゴツゴツするから、日本のスピードレンジよりもっと高い領域か、あるいは本格的なスポーツ走行用だという印象を受けた。
試乗車は「テクノロジーパッケージ」だったのでプリクラッシュブレーキ、レーンチェンジアシスト、レーンキープアシスト、アダプティブクルーズコントロールが備わる。この中で、プリクラッシュブレーキ以外は試すことができた。どれも現代の高級車にあっては標準的な出来栄えだったけれど、特筆すべきはノーマルモデルにたった25万円をプラスするだけという価格設定。これはお買い得でしょう。
短時間の試乗会だったので燃費は計測できなかったけれど、JC08モード燃費は13.4km/リッター。先代の「2.0TSI」は10・15モード燃費の数字しか残っていないので直接比較はできないけれど、ざっくり2割は良くなっているという。
スタイリングから性能まで、好バランスである。ただ、「セダンはカッコよければいい」と思う立場からひとこと言わせていただけば、メルセデスの「CLS」やBMWの「6シリーズ グランクーペ」に比べると、まだ背広の匂いが残っている。良くも悪くも、お仕事にも使えそうだ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。