第254回:「シトロエン・メアリ」復活!? プジョー・シトロエン8000人解雇で考えた処方箋
2012.07.20 マッキナ あらモーダ!第254回:「シトロエン・メアリ」復活!? プジョー・シトロエン8000人解雇で考えた処方箋
バカンス前に投下された“爆弾”
フランスで7月14日は「Quatorze Juillet」といわれ、革命記念日である。毎年このあたりからバカンスの雰囲気が一気にブーストする。しかし今年は浮かれムードを吹き飛ばすニュースがその2日前にフランス中を駆け巡った。発表したのは、PSAプジョー・シトロエン(以下PSA)だ。
同グループはフランス国内で8000人の従業員を解雇するとし、その一環として現在3000人以上が働くオルネー・スー・ボワ工場を2014年に閉鎖するとしたのだ。
オルネー・スー・ボワ工場は、パリ郊外にあるPSAの主要生産拠点である。シャルル・ド・ゴール空港から市街に向かう高速道路沿いにあるので、空港バスの車窓から見たことがある読者もいるのではないだろうか。
歴史をひもとくと、旧シトロエンによって創業地ジャヴェルに代わる工場として、1973年に「シトロエンDS」の生産で操業が開始され、現在は「シトロエンC3」を生産している。
また、現在「プジョー508」「シトロエンC5」「シトロエンC6」を生産しているレーヌ工場でも1400人級の人員削減が行われ、研究開発部門などでも3600人の削減が実施されるという。
フランスでは1992年にルノーがビヤンクール工場を閉じて以来20年ぶりの自動車工場閉鎖となる。今回の従業員解雇の背景にあるのは、欧州における販売台数の低下だ。PSAの2012年上半期の販売台数は前年同期比でマイナス13%。特に南欧での不振が影響した。それを受けて、欧州全体のPSAの工場稼働率は2011年の86%から76%にまで低下している。
PSAとしては、「シトロエンDS3」や「シトロエンC3」「プジョー208」を製造しているポワシー工場に1500人を配置転換させることも検討しているといわれる。またフランス国鉄SNCFなどは、解雇されるPSA従業員の一部を雇用する旨を公表しているが、本稿執筆時点までに詳細な説明はない。
人件費はルーマニアの8倍以上
PSAによる大量解雇は、発表当日の晩、フランスの各テレビ局でトップニュースとして報道されたのはもちろん、近隣各国でも大きく採り上げられた。
テレビでは泣きながら話すオルネー工場の女性従業員を映し出した。翌日の朝にはラジオ局「RMC」が、同じくオルネーで働く男性の失望した声を伝えた。移民だった父の時代から2代にわたってオルネー工場に勤め、今は生産ラインのコーチとして月給1600ユーロで働いているという。
一方、公営テレビ局「フランス2」のニュースは12日、13日の両日、さまざまなデータを示しながら解説していた。それによると、PSAのフランス国内販売台数はルノーを上回るものの、2011年の世界販売でみると日産とアライアンスを組んだルノーが800万台で3位に浮上しているのに対して、PSAは350万台で7位にとどまっている。
欧州市場への販売依存度もルノーが53%に抑えられているのに対し、PSAはいまなお60%にもなっている、という。
引き続きフランス2の解説を用いれば、欧州の自動車工場における1時間あたりの一人の人件費は、フランスの34.2ユーロに対して、ルーマニアはわずか4.2ユーロである。フランスはルーマニアの8倍の人件費がかかるわけだ。PSAはそうした高コストのフランス国内工場に、いまなお44%も生産を依存している。ちなみに同じPSAのスペイン工場は、15〜20%の賃下げ要求を労働組合が受け入れたと報じている。
なるほど、これではPSAもフランスの工場の存続を再考するわけだ。フランスには週35時間労働の壁がある。加えて、中国市場でPSAは、フォルクスワーゲングループには及ばずとも地歩を固めているだけに、本国の工場は「お荷物」なのだ。
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ローコストカーと高級車
次にクルマそのものの観点から、PSAがこのような結果となった原因を探ってみよう。
一つはローコストカーへの出遅れであろう。ルノーは、前回紹介した「ダチア」でいち早くその市場で販路を拡大したのに対し、PSAは持ち駒がない。あえて言えば「206プラス」がローコスト版であるが、遠く1998年発表の「206」がベースである。
また、PSAが1980年代に旧クライスラー・ヨーロッパから引き継いだブランド「タルボ」を復活させて、ローコストブランドをつくるという説が浮上したこともあるが、今日までその動きは見られない。
もう一つは高級モデルにおけるストラテジーと現実の相違だ。シトロエンの「DS」シリーズは、当時から人気を博していた「アウディA3」「MINI」などのプレミアム路線を意識して企画された。
「販売上、もっと既存のシトロエンと明確なブランド分けをすればいいのに」と筆者が疑問をある関係者に投げかけると、「この欧州の景気不振がなければ……」と、それが理想であるものの、宣伝への投資が難しい、といった含みをもたせた口調で漏らした。企画段階と現状が食い違ってしまったのだ。
プジョーの「508」にしても「プジョー=コンパクトカー」というこれまでのイメージを覆すことはできずにいる。
「ヴェルサティス」の後継車を韓国ルノーサムスン製の「ラティテュード」に切り替えてしまったルノーのほうが、もはや高級車市場でドイツ車の牙城を崩せない欧州市場においては賢明な作戦だったといえる。
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見習うべきは「フィアット500」
ふたたびフランス2ニュースに戻ると、番組では今日の国内市場でフランス車の登録は52%にすぎないことを挙げたうえで、外国車のシェア増加を語り、路上の外国車ユーザーの「信頼性が高い」「仲間が薦めたから」「燃費が良い」「スタイルがいい」といった声を集めていた。
そして「欧州車の保証が2年から3年なのに対して、日本車、韓国車はより長いのが人気の秘訣(ひけつ)」というセールスマンの話も加えていた。また、あるコメンテーターは「フランス車がドイツ車風になってしまったのが、失敗の原因だ」と語った。
それを聞いてボクが思い出したのはフィアット車の失敗と反省である。打倒「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を目指したあげく、無国籍なスタイルをまとって2001年に登場した「フィアット・スティーロ」は、その初期品質の低さもあって大失敗した。その悲惨な販売実績を見ながら開発が進められた2007年の新型「500」は、イタリアニタ(イタリアらしさ)を極限まで追求し、世界各国の市場で大成功を収めた。
アルファ・ロメオもしかり。ドイツのライバルたちを仮想敵にした「166」や「159」を送り出したものの、その大きなサイズは、官公庁需要はともかく一般ユーザーからの賛同を得たとは言いがたかった。一方で、本来のアルファ・ロメオの小気味よく走れるコンパクトさを守った2010年の新型「ジュリエッタ」は、欧州各国でそこそこ好評だ。
そこで「PSAも、イタリアらしさを追求した500に範をとってフランスらしさを追求する」というのが、ボクが書きたい処方箋である。
自由を輸出せよ
ただ注意しなくていけないのは、イタリア車とフランス車のキャラクターの違いだ。イタリア車は得だった。たとえばフィアット系各車の人気が散々だった時期でも、フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニといったスーパースポーツカーが後押ししてくれて、イタリア車全体に対する好イメージは継続していた。
対するフランス車にはそれがない。欧州各国では一般的に、フランスのブランドだからといってルノーやプジョー、シトロエンを買う人は極めて少ない。フィアットやオペル、フォードあたりと同列にして比較し、決定理由は「近くになじみのディーラーがあるから」「値引きやオプションが好条件だったから」といったものであることが大半だ。
近年唯一の例外はプジョー206だが、これもユーザーたちに尋ねてみると、別にフランス車だからということではなく、「きりっと引き締まっていてスタイリッシュだから」という理由が大半だった。といって、206のリニューアル版を造っても、かつて日産が名車「510ブルーバード」をイメージして造ったA10型「バイオレット」「オースター」「スタンザ」のように、あまりパッとしないものになってしまうだろう。
せめて、もっと古いフランス車で記憶に残っているモデルはないのか? ということで、周囲のイタリア人やドイツ人に聞いてみた。すると「スクワロ(鮫。旧「シトロエンDS」のことをイタリアではこう呼ぶ)」「ルノー8 ゴルディー二」「ルノー4」といったところが挙がってきた。ただし、こうした往年の個性的モデルをすらすらと言えるのは、60代以上の人である。今でも時折チョロチョロ走っている2代目フィアット500と違い、若い世代は実物を知らない人が多い。これまたイタリア車より不利である。
なにか良い案はないものか。
そう考えて到達したのは、やはり「シトロエン2CV」の復活版である。たとえ実物を見たことはなくても、なんとなくみんなが知っている。過去に何度か計画説が流れた、あの復活企画を今こそ再スタートさせるのはどうか。
また姉妹版として、かつてレジャーカーとして活用されていた「メアリ」の復活版もいいかもしれない。フランスのコートダジュールやコルシカ島、そしてイタリアの島などでは、今でも古いメアリを見かける。ときには、大きな別荘のガレージに収まっていたりする。いまだそれに代わるものがないためだ。そうしたかつてのフランス車が漂わせていた「自由」は、十分に輸出商品になるだろう。
もちろん、どれだけお気楽なボクでも、そうしたニッチカーで8000人の雇用を維持できるなどとは考えていない。しかし高コスト国フランスで生産し、かつ「フランス製であること」を前面に打ち出せるプレミアムカーの帰着点とは、けっして疑似ドイツ車ではない気がするのである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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