ホンダNSX(6MT)【試乗記】
新しいヴィンテージ 2001.12.27 試乗記 ホンダNSX(6MT) ……1085.7万円 2001年12月6日にマイナーチェンジが発表され、同月14日から販売が開始されたホンダNSX。3.2リッターV6ユニットを搭載する6段MTモデルにwebCG記者が乗った。目を開けたジャパニーズスーパーカーはいかに!?ヌルッとした印象
新しいホンダNSXには申し訳ないキモチでいっぱいだ。「マイチェンによる変化が、三菱GTOみたいだ」と思ったりして(GTO、好きだけど)。むしろ、「フェラーリ512TRからF512Mみたいなフェイスリフトだ」というべきでした。
2001年12月6日、ホンダのスーパースポーツ「NSX」のマイナーチェンジが発表された。1990年の発売開始以来、初めて外観に大きく手が入れられ、ヘッドランプがリトラクタブル式からプロジェクタータイプの4灯式となり、顔つきがずいぶん変わった。複雑な機構を廃止したことにより、フロント部のウェイトを約10.4kg軽くすることができたという(標準モデル)。また、3次曲面形状のレンズカバーは空力性能にも寄与し、CD値は従来モデルのライト格納時より上まわる、つまり空気抵抗が小さいのだそうだ。エアロダイナミズムの見直しはボディ全体にわたり、前後バンパーの形状変更、控えめなチンスポイラー、リアスカートの装着に加え、ドア&サイドシルガーニッシュが追加され、新型は少々ヌルッとした印象となった。
モデルラインナップはこれまでを踏襲。クーペ、Tバールーフの「タイプT」、そしてマイチェン発表時にはまだ開発中のスポーティバージョン「タイプS」の3種類である。ドライブトレインも基本的に同じで、「3.2リッターV6(280ps、31.0kgm)+6段MT」ほか、クーペとタイプTに用意される4段AT車には、3リッターV6(265ps、30.0kgm)が搭載される。
スクリーンに変わる
長いドアを開けて、ペタン、とアルミフレームを用いたレザーシートに座ると、簡易サテライト式とでもいいましょうか、ステアリングコラムから左右にスイッチ類を埋め込んだアームがのびるインパネまわりの形状はさすがに古い。オプション装備のナビゲーションシステムは後付け感が強いし、天井内張がジャージ素材になったのが気になるヒトもいるかもしれない。リポーターも正直「先日乗ったBMW M3より100万円以上も高いとは……」と思ったわけです。でもね……。
エンジンを車体中央部におくミドシップレイアウトは、いうまでもなく“曲がり”をすこしでも速くこなそうというレーシングカーの発想から発展したものだ。けれどもNSXに乗っていると、シャカリキになってカーブを攻めないでもその恩恵を感じることができる。たとえば、中央高速道路で山間の大きなR(曲率)の登りを駆け上がるとき。ドライバーズオシリの後ろあたりから、クーンとクルマが曲がっていく。独特の一体感をともなって。
VTECこと可変バルブタイミング機構を備えた3.2リッター4カムユニットは、6000rpm付近でカムを切り替え、クロースレシオの6段MTを駆使すればハイノートに浸ったままめくるめく加速を味わえる。文字通りスクリーンに変わるフロントスクリーン。ワタシを通り過ぎてゆく前景、前景、前景!! 脳天突き抜けんばかりの快感……、ただし6000rpm時、サードですでに120km/hに達するからドライバーは社会的責任をじゅうぶん考慮する必要がある。
![]() |
![]() |
やっぱりスーパーカー
BBSホイール(ワシマイヤー社)のアルミ鍛造ホイールに、フロント215/40R17、リア255/40R17と新しいサイズのタイヤを履く新型は、スポーツカーらしい硬めの乗り心地。とはいえ、アーム類の8割をアルミ化したバネ下の軽量化と、よく動くサスペンションゆえだろう、運転していて不快なことはない。よくチューニングされたブッシュ類と「コンプライアンスピボット」とホンダがよぶジオメトリー変化を最小に保つ機構が有効に働いて、路面からの大入力に対しても、乗員に直接的なショックを伝えない。また、ビンッと鈍く跳ね返すボディの感覚がいかにもアルミのスーパーカーだ。
NSX、モデル末期のマイナーチェンジで、「まだクーペフィアットの方が押しだしがきく」なんて言うヒトがいるかもしれない。それはリポーターだ。でもね、久しぶりにNSXのステアリングホイールを握って反省しました。
いまひとつ衆人の注目を浴びないという弱みはあるものの、運転中、常に感じるスペシャル感という点で、NSXはやっぱりスーパーカーだった。すくなくとも公道においては、いまだスーパーな走り、現役。古い、という第一印象も、考えようによっては「最初からヴィンテージ」ともいえよう。フェラーリ328をベンチマークに登場しながら、いつしか時は流れて、赤いライバルの進化はすでに3世代を数えた。けれどもホンダNSX、“一億総中流全体に沈下気味”の日本にあって、ラインナップされているだけでエライと思う。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2001年12月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。