日産マーチ 3ドア12C&5ドア14e【試乗記】
商品への昇華 2002.03.19 試乗記 日産マーチ 3ドア12C&5ドア14e ……147.5-151.9万円 リバイバルプランを1年前倒しで終えた新生日産。次なる課題は、“売れる”クルマの市場投入である。目玉がキョロキョロするTVコマーシャルが楽しい3代目マーチに、webCG記者が横浜で乗った。95.3万円から132.0万円
ホテル前の広場に、色とりどりの日産マーチが並んでいる。高い位置にあるギョロリとしたヘッドライトがほほえましい。
2002年3月9日、神奈川県は横浜で、3代目となるマーチのプレス向け試乗会が開かれた。10年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたベーシックモデルには、全12色のボディカラーが用意される。「パブリカオレンジ」「アプリコット」「ビーンズ」「フレッシュオリーブ」といった果物や野菜類にちなんだ名前がつけられた色々が春の陽を浴びているさまは、いかにも楽しげ。個人的には「オパールラベンダー」という薄い紫色がキレイだと思った。「実際に買われるお客様は、やはりシルバーといった無難な線に落ち着くようです」と日産の広報担当は言うが、結果はともかく、購入前にカタログを見て迷うのはウレシイものだ。
2002年2月26日に発表されたニューコンパクトは、従来通り3ドアと5ドアのボディがある。ドア数が違っても、見た目の印象が驚くほど変わらないのは、先代と同じ。サイズも同寸。
エンジンは3ドアに1リッター(68ps、9.8kgm)と1.2リッター(90ps、12.3kgm)、5ドアにはさらに1.4リッター(98ps、14.0kgm)が加わる。いずれも直4ツインカム。トランスミッションは4段ATがメインだが、日産が売れ筋と目する1.2リッターモデルなら、5段MTも選ぶことができる。駆動方式は、当面FF(前輪駆動)のみだが、2002年の秋には、モーターで後輪を駆動する電気式の4WDがラインナップに加わる。
価格は、95.3万円から132.0万円。
3代目の強み
新型マーチは、国内での日産車販売の起爆剤と期待されるほか、いうまでもなく欧州でのロングセラー「マイクラ」の後を継ぐ。トヨタ・ヴィッツ(欧州名ヤリス)、ホンダ・フィットとヨーロッパにおける日本3メーカーの戦略モデルが出そろったわけだ。
デザインに関わったデザイン本部第一プロダクトデザイン部プロジェクトデザインマネージャーの横関康夫さんに、ヴィッツとの違いをうかがったところ、「マーチらしさにこだわった」とおっしゃる。それはそうでしょう。で、マーチらしさとは?
「乗用車感といいましょうか。しっかりした下半身にキャビンが載るといった……」。ショルダーを通る優しい曲線、やはり柔らかいルーフラインが2代目から受け継いだところ。「一目でマーチとわかる」のがジマンだ。でも、空力性能を出すのに苦労したという。「リアガラスの下にウィングをつけられればいいんですが、デザイン上そうもいきませんから」と横関さんは苦笑いされる。結局、フロントバンパー下端に小さなエアダムを付け、ルーフエンドの形状を控えめにスポイラー状にすることで、CD値=0.32と、まずまずの数字を得た。
もう一台のライバル、フィットに関しては、「スペースユーティリティを追求すると、ああいうカタチ」になり、「キャブフォワード(フロントスクリーンが前に出ている)が新しい」としながらも、全体として印象に残らない、とバッサリ。フィットの(ロゴの失敗による)白紙からのスタートが、センタータンクという斬新なアイディアにつながったが、一方、イメージの定着という点では、ユーザーの意識に“先代”がないのがツラいところだ。
フレンドリー
最初に乗ったのは、1.2リッターの3ドア(4AT)。内装はジャージ素材の「クリークグレー」。薄緑に近い「エクリュ」、ごく明るい煉瓦色の「シナモン」と比べると地味だが、「色あわせに苦労した」というデザイナーの話通り、室内の色調はみごとに統一される。布をインパネに貼り付けたかに見える新素材「T.P.O」も新しい。先代より100mm全高が高いこともあり、広々感は高い。
エンジンは、新開発CRユニット。連続可変バルブタイミング機構を備え、低回転からのトルク重視が謳われる。1.2リッターの排気量から、90ps/5600rpmの最高出力と12.3kgm/4000rpmの最大トルクを発生する。インテリジェントキーと名付けられたデータ内蔵型の鍵(1.2リッターではオプション)を携帯していれば、メカニカルに鍵穴に差さなくても、イグニッションノブをひねればエンジンがかかる。
軽いステアリングにじゃっかん戸惑いながら走りはじめる。
40mmのシートリフターをもつシートからは高い位置にあるヘッドライトの突起が目に入り、車両感覚を得る一助となる。最小回転半径は、旧型より0.2m小さい4.4m。ロック・トゥ・ロック=3回転と少々のステアリングホイールをクルクル回しながら、知らない路地にもグングン入っていける。マーチ「3ドア12c」“売れ筋グレード”のドライブフィールは、全体に軽快。内外装から受ける印象ほどココロに残るものではないが、街なかを“ちょい乗り”したかぎり、「フレンドリー」をキーワードにしたイージードライビングの追求は成功していると思う。
コンベンショナルと新しさ
次に試乗したのは、1.4リッターの5ドア。「フレッシュオリーブ」という緑のボディに、スウェード調クロスを使ったエクリュ内装。明るく華やかで、シャレた室内だ……、と感心した後、ニューモデルに乗る興奮を抑えて観察すると、シートの座り心地はいまひとつ。サイズが小ぶりで、座面が平板でシート地の下がゴワつく感じ。リアシートに座ってみると、前席背面の生地がやけに薄いのに気が付く。ブルーバードシルフィのカフェラテ内装、シーマから積極的に採り入れられたエクリュなど、淡色のインテリアは素敵だけれど、ことベーシックカーの場合、「汚れやすい」という言葉がしきりに頭をよぎるのは、リポーターが貧乏性なためか。
エンジンは、5600rpmで98psの最高出力、3200rpmという低めの回転数で14.0kgmの最大トルクを発生する。次期ルノー・クリオ(邦名ルーテシア)とプラットフォームを共有化するため、サスペンションは、フロントはマクファーソンストラット、リアが先代の5リンク式リジッドから、ルノーが現行クリオで経験を積んだ半独立式たるトーションビームに変更された。1.4リッター「14e」には、リアサスのみならず、フロントにもスタビライザーが追加され、アウトプットの大きなパワーソースと合わせ、トップモデルらしいしっかりした走りを見せる。高速巡航にも余裕が感じられる。12cとの車両本体価格差22.5万円に説得力がある。
正攻法で欧州市場に挑戦するヴィッツ、燃料タンクをフロントシートの下にもってきたチャレンジャー、フィット。マーチは? 日産関係者のいう「トータルでヴィッツを上まわる」のは後発モデルの有利さゆえとして、デザインの新しさと内外装の仕上がり、そして今回はちゃんとテストできなかったが、インターネットとも接続可能な情報サービス「カーウィングス」が付加価値としてある。
新型マーチは、メカニカルな面ではコンベンショナルなFFコンパクトカーだ。しかし、ユーザーに一目でわかるアピール力があるところが、皮肉な言い方になるが、日産車として新しい。“乗ればわかる”“走ればわかる”技術力を、商品として昇華させることができた点が、新生日産の明るい面を感じさせる。ゴーン社長に感謝!
(文=webCGアオキ/写真=難波ケンジ/2002年2月)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。