トヨタ・イスト 1.3F Lエディション/1.5S Lエディション(4AT/4AT)【試乗記】
遅れてきたキューブ 2002.05.17 試乗記 トヨタ・イスト 1.3F Lエディション/1.5S Lエディション(4AT/4AT) ……151.3/174.3万円 「SUVテイストとモノフォルムを融合させた新感覚のスタイリッシュ2BOX」と謳われるトヨタのニューモデル「イスト」。“……をするヒト”の接尾辞“ist”を名前にしたコンパクトモデルやいかに?ランクスとヴィッツの間
「ヴィッツにお乗りになるのは20代前半の方が多いので、イストでは20代後半から30代前半のユーザーをターゲットとしています」と、トヨタの製品企画担当員の人が説明してくれる。「荷物が積みたければファンカーゴ、それにbBもありますが、もうすこし別のスタイルがいい、という消費者もいらっしゃいますので……」。
どこかで聞いたフレーズだなァと考えていて、思い出した。神奈川県は逗子マリーナで開催されたカローラ・ランクス/アレックスのプレス向け試乗会で、開発担当者が主張していたことと同じだ。
「……ランクスは少々大きいので」と製品企画担当員。ヴィッツとランクスの間! トヨタは、わずかな隙間(ニッチ)も逃さないということだ。
「ヴィッツの売れ筋グレードは何リッターですか?」とリポーター。
「1リッターです」。
つまり、イストはヴィッツと同じ車台を使いながら、より利幅の大きい1.3、1.5リッター車としてお買いいただくわけですな、とは、もちろん口にしなかった。
2002年5月15日、山梨県は河口湖付近で開かれたイストの試乗会に参加している。イストは、同年5月18日に発表された5ドアハッチ。ヴィッツのプラットフォームを用い、全長×全幅×全高=3855×1695×1530mmと、20cmほど長く、3.5cm太く、3.0cm高い上屋を載せる。エンジンは、1.3と1.5リッターの2種類。トランスミッションは4段ATのみで、FF(前輪駆動)のほか、1.5リッター車には4WDも用意される。
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内外装の感想
イストは、いかにもトヨタ車らしい、そつないデザインを採る。サイドシルや前後バンパー下端の黒いガーニッシュで「SUVテイストのアクティブ感」(広報資料)を出すとともに、背を高く見せる。一方、実際の車高は、じゅうぶんタワーパーキングに収まる数値に抑えられた。
スペースユーティリティは高いけれど退屈になりがちな四角いキャビンをもつボディを、ヴィッツ以上に寝かしたAピラーでノーズ部分と一体化し、全体の塊感を出す。四隅のタイヤを強調した円状に膨らんだフェンダーはアクセントとなり、最近の自動車デザインのトレンドのひとつでもある。リアにまわり込んだサイドクオーターウィンドウも、オ・シ・ャ・レ。あと足りないのは、天才のヒラメキか。
ヴィッツの、あふれんばかりの有機デザインとは対照的に、イストの内装はシンプルだ。黒とシルバーを基調にクールに決める。センタークラスターの、半透明のフタを通して中の照明が見えるCD入れ、「イルミネーテッド・マルチボックス」はご愛嬌。
ただ、ヴィッツをドライブした経験があると、どうもインテリアが、前提となる骨組みにニューデザインのインストゥルメントパネルを無理に被せたような、つまりハリボテに感じられて困る。いや、別に困りはしないが、その原因を分析するに、ベースモデルと同じ位置に、同じステアリングホイール、エアコン吹き出し口、そしてセンターメーターがあるのがイカンと思う。イカンのは、イストではなくて、勝手にベースとなった内部構造を感じるリポーターなのだが。
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イマ風のスパイス
1.5リッター(109ps、14.4kgm)モデルのドライブフィールは、乱暴な言い方をすると、ちょっとヨーロッパ車っぽい。ステアリングは(予想より)重く、足は硬め。路面が悪いと、けっこう突き上げる。
エンジニアの人にうかがうと、「ヴィッツよりヤリス(ヴィッツの欧州名)に近い」という。具体的には、前後にアンチロールバーがつく。ダンパー、スプリングのセッティングは、ひとクラス上のbBに準じる。なぜなら、デザイン上の要求からタイヤサイズが「185/65R15」と大きめだから。
「14インチと比較すると、半径で19mm大きくなるんですよ」とエンジニア氏は顔を曇らせる。「それだけ重心高も高くなるわけで……」、転倒の危険性を減らすため、ややハードなサスペンションとなった。「本当は、175(の太さ)でもいいと思うんですけどね」とおっしゃったのは、コーナリングスピードが上がりすぎて、過大な横Gがかかるのがイヤだから。「せめて、アルミホイールのリムを狭く」設定したそうだ。イストのオーナーは、あまり太いタイヤを履かないように。
1.5リッターモデルとは20kgしかウェイトが違わないが、それでも1.3S(87ps、12.3kgm)は相対的に軽やかだ。どちらの直4エンジンも連続可変バルブタイミング機構「VVT-i」を備え、スムーズで実用的で無個性だが、それでもストロークの短い1.3リッターを積んだ13Fの方が、ステアリングホイールを握っていて楽しい。
イストは、思いがけぬ大ヒットとなった日産キューブやヒットしたマツダ・デミオやヒットしなかったホンダ・キャパなどをブラッシュアップして、コンセプトとスタイルにイマ風のスパイスをまぶしたクルマだ。bB以来磨きをかけた、ニューモデルの開発期間短縮と(おそらく)低い採算分岐点を武器に、ホンダ・フィットや日産マーチを迎えうつヴィッツを加勢するドメスティックカー。それ以上でも以下でもない。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年5月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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