メルセデス・ベンツSL550ブルーエフィシェンシー/SL350ブルーエフィシェンシー【試乗記】
進化する「王道」 2012.06.28 試乗記 メルセデス・ベンツSL550ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)/SL350ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)……1590万円/1310万円
メルセデス・ベンツのイメージリーダー「SLクラス」。王道を行くロードスターは、フルモデルチェンジでどんな「風」に乗ったのか。「SL550」と「SL350」を箱根で試す。
6代目はフルアルミボディー
「かなりのコワモテになった?」
「SLKに似てきちゃったかなァ」
「アルミボディーと言われても新鮮味ないな……」
今にも泣き出しそうな曇り空。「メルセデス・ベンツSLクラス」のプレス試乗会へ向かうクルマの中では、なかなか厳しい言葉が飛び交っていた。参加者一同、気分が高揚して、ちょっと興奮しているのだ。ニューモデルに対する期待が大きいほど、あたかも照れ隠しのように悪態をついてしまうのは、クルマ好きの悲しい性(さが)と申しましょうか。
メルセデス・ベンツの2座オープン「SLクラス」が、11年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。シルバーアローを体現したガルウイングの「300SL」から数えて6世代目にあたる。環境と燃費に配慮して、ボディーシェルはメルセデス・ベンツ量産モデルとして初めてフルアルミとなり、パワートレインにはセダンで実績を積んだ新世代エンジンが与えられ、さらにアイドリングストップ機構も搭載される。
ラインナップは、大きく分けて3.5リッターV6自然吸気(306ps)を積む「SL350ブルーエフィシェンシー」と、4.7リッターV8ツインターボ(435ps)の「SL550ブルーエフィシェンシー」の2種類。少し遅れて、5.5リッターV8ツインターボ(537ps)をフロントに押し込んだ「SL63 AMG」が導入される。JC08モードのカタログ燃費は、順に12.8km/リッター、9.6km/リッター、10.1km/リッター。価格は、1190万円、1560万円、1980万円となる。ちなみに、「ポルシェ911カレラカブリオレ」が1359万円、同「カレラSカブリオレ」が1639万円だから、大人の2シーターとして(911は2+2だが)、ちょっぴりお安い値付けである。
それでは早速、新型SLのディテールを見ていこう。
SLの「流儀」は守られた
全体にいかついカタチとなった新型SLクラス。それでもメタルトップを閉めたプロポーションは、長いノーズに小さなキャビン。伝統的なスポーツカーのそれだ。電動ルーフを収納するトランク部分はどうしても天地に厚くなってしまうが、ウェッジ調のフォルムとリアコンビネーションランプを下げて配置することで、オシリが重く見えるのを上手に防いでいる。
ヘッドランプの形状は先代型から一転し、メインビームの周りをLEDで飾り付ける最新の流行が採り入れられた。この手のデザインは後発ほど派手になるのが常で、トーチ(たいまつ)をイメージしたというSLのそれは絢爛(けんらん)豪華、中華世界でも受けがよさそうだ。
フロントフェンダー後方には伝統のエアアウトレットが配され、キャラクターラインが後方へ駆け上がる。リアのコンビネーションランプはすべてにLEDが使われる。消費電力の抑制と長寿命がウリだという。
インテリアも見慣れたSLの流儀。エクステリアのイメージを反復してやや四角張った意匠となるが、操作面では、旧型から買い換えたオーナーもとまどうことなく使えるだろう。
目に付く変化は、まず、7インチの大きな液晶画面がダッシュボードの高い位置に移され、トンネルコンソールにはCOMANDシステムのダイヤルが設けられたこと。そして、シフトゲートのポジションが、「R」「N」「D」しかないことだ。意図的なギアチェンジは、ステアリングホイール裏のパドルで行うしかない。手をセンタートンネルのシフトレバーに伸ばしてギアを変えるという、3ペダル式マニュアルギアの行動様式を模す必要がなくなったのだろう。マニュアル車の記憶は薄れるばかりである。
「ギミック」の採用に意欲的
新しいSLには、かつてのジャーマンメーカーなら「ギミック」の一言で片付けられたであろう細かな新機軸がいっぱい。全自動折り畳み屋根とワンタッチで開閉できるトランクリッドは今や常識だが、新型SLでは、リアフォグランプ下部に足を近づけるだけでトランクを開閉できる「ハンズフリーアクセス」が新たに採用された。
オープン走行時にありがたい、ヘッドレスト後方の巻き込み防止デバイスは、電動で出し入れできる「電動ドラフトストップ」に進化。冬のオープンライフの強い味方、乗員の首のまわりに温風を吹き出すエアスカーフは新型にも引き継がれた。音が飛び散りやすいオープンモデルゆえ、足元に低音域用スピーカーを配したオーディオシステムもジマンだ。
ハリーポッターの映画に出てきそうな装置は、多数の小さな穴が開いたワイパーブレードから、ワイパーの動きに合わせてウォッシャー液が噴出する「マジックビジョンコントロール」。スイッチひとつでガラスの濃淡を変えられる「マジックスカイコントロールパノラミックバリオルーフ」も新しい(30万円のオプション)。
いつの世でも、リッチ層の快適性への要求は限りがないものだが、何もスリーポインテッドスターのイメージリーダーが孫の手の自慢をしないでも……というやや皮肉な気持ちは、しかし屋根を開けたSL550ブルーエフィシェンシーで走りだしたとたん、吹き飛んだ。
軽さの「SL350」、パワーの「SL550」
雨が降り始めるのと競走するかのように、峠道へ向かう。まずは「SL550ブルーエフィシェンシー」に乗って感じたのは、軽いな、ということだ。4663ccのキャパシティーをもつV8ツインターボは、5250rpmで435psの最高出力を発生し、71.4kgm(700Nm!)の最大トルクは、アイドリングのわずか上、1800rpmから湧き出してくる。曲がりくねった急坂でも、1870kgのボディーをわけもなく駆け上がらせる。
SL550には電制サスペンションのABC(アクティブ・ボディー・コントロール)が標準で装備され、舗装が荒れた山道でもスムーズな乗り心地を提供する。一方、スポーティーな走りでもしっかりボディーを支える。「大きめのボディーを持てあますか!?」と危惧した細かい峠道でも、メルセデスのオープンモデルはドライバーの体の延長と化して軽々とカーブをこなしていく。ニューSL、スポーツカーしてる!
それに対して、SL350の試乗車はAMGスポーツパッケージ装着車。SL550より100kgほど軽い1685kgの車重は魅力だが、V8ツインターボのパワーに圧倒された後なので、「SL買うなら550を……」と夢想してしまう。もっとも、SL550は車両本体価格だけで370万円も高いわけですが。
SL550ブルーエフィシェンシーをオープンで走らせて「いいな」と思ったのが、「クルマを運転している」ことを強く感じさせること。サイドウィンドウと電動ドラフトストップを上げると、運転者はバスタブに浸(つ)かったかのようになり、頭頂部の髪がそよぐばかり。それでもあたりの湿った空気、木々の香り、そして野太いエンジン音が存分に入ってくる。
4.7リッターV8は存在感満点で、右足のスロットル操作に骨太に応えてくれる。細身の運転者にはドライバーズシートの横幅が少々広いが、シュアなステアリングを繰る楽しみは十分享受できる。革巻きのそれを握って走っていると、「さすがは自動車の歴史とともに歩んできたメーカーだ。クルマをクルマとして堪能させてくれる」と、いささか大仰な感想を抱かせるのが、メルセデス・ベンツのズルいところ(!?)である。
新型SLを試乗するにあたって、表面上のスペックや細かい装備にばかり気が行っていた自身に反省しながら、プレス試乗会基点への道を急いだ。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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