メルセデス・ベンツSL500【海外試乗記】
呆れるばかりのフラット感 2001.11.27 試乗記 メルセデス・ベンツSL500(5AT)……1280.0万円 “超ド級”のシャシーポテンシャルをもつというメルセデスベンツの新型「SL500」。イタリアはフィレンツェにて行われた国際試乗会で、自動車ジャーナリスト河村康彦が乗った。正確無比な巨体
イタリアの古都、フィレンツェ。この国にある「世界遺産」の過半数がこの周辺に集中をする、新婚旅行(じゃなくても良いケド……)のメッカと呼ぶにはピッタリの風光明媚な場所である。一方、大柄なクルマのテストドライブに決して相応しいとは言えないのが、このあたりでもある。何故ならば、大勢の観光客が溢れる街中はもとより、周辺の道幅も決して広いとは言えないからだ。
郊外に抜ける高速道路も、コンクリートの分離帯は目前に迫るワ、満足な路側帯も存在しないワ……という“準首都高速”のノリ(!?)。というわけで、「新型SLの国際試乗会をフィレンツェで行う」と耳にした時は、メルセデスもよりによって変わった場所を選んだな、と思った……。
しかし、いかにもかっこ良くスタイリッシュに変身したメルセデスベンツの新型SL500は、そんなイタリアの歴史都市周辺を何の違和感もなく駆けまわった。1.8mを超える全幅はたしかに多くのイタリアの道には少々“過剰”で、正直なところときに自らの体をセンターラインの内側に収めておくのが難しかったりもした。
が、そんなシーンで最大の救いとなったのは徹頭徹尾シュアな感覚を失うことのない、正確無比なハンドリングであった。希望とあらば延々とセンターラインを踏み続けて行くこともさほど難しくない、そんな優れたハンドリングのおかげで、狭い道路でもちょっと大きめなボディをもてあますことにはならなかったのである。
効果テキメンの新機軸
前モデルのデビューから12年ぶりの登場となった新型SLのシャシー(R230型)は、大きく述べると「ABC」と「SBC」という2つの新機軸が盛り込まれたことが特徴だ。“ABC”とゴロの良い方は「Active Body Control」の略で、すでにCLやSクラスに採用されていたのを進化させたもの。油圧でストローク可能なスプリング内蔵ストラットを用いた、いわゆるセミアクティブ・サスペンションだ。
「ABC」の威力はてきめんだった。新しいSLが生み出す走りのフラット感は、それはもう呆れるばかりの高さであったのだ。
もちろん、こうした好印象を生み出す前提として、オープンカーとしては望外なレベル(それはホンダS2000、ポルシェボクスターに次ぐものだ!)の高いボディ剛性を実現したことが大きい。相当にハードなコーナリングをしたつもりでも、従来のSL500譲りの5リッターV8(306ps/5600rpm、46.9kgm/2700から4200rpm)にそれなりに鞭をくれてやったつもりでも、このクルマは気になるロールもピッチングも発生させない。
センターコンソール上のスイッチでスポーツモードを選択すれば、“ゼロロール/ゼロピッチ”の感触はさらに強くなるのだが、一方で低速域でのコツコツ感が強く現れ、ぼくとしては特にオススメしない。むしろノーマルモードでも十分高いフラット感が味わえるのだから、別にスポーツモードの設定など無くても良かったのでは、とさえ思う。スポーツモードを選ぶと、255/45というファットなシューズを履くことによるマイナス面が、少々顔を出してしまう印象があるのだ。
現在世界最高峰
“SBC”は「Sensotronic Brake Control」の略で、バイワイヤー方式(ペダルと制動部を電気的につなぐ)のブレーキシステムを示す。
コーナリング中にブレーキペダルを“ドカン”と踏んでも、それまでと変らないラインをトレースし続けるのは“SBC”のおかげによるところが大きそうだ。むろんこれはクルマの“ベース”がきちんと仕上がっているからこそ、なのはいうまでもない。
それにしても、「見えないブレーキペダルが4つ存在し、それぞれに最適なブレーキング操作を行う」ということを自動でやり遂げるこのシステムに、もはや人間の操作は到底敵うものではない。不意なコントロール不能からドライバーを救ってくれるスタビリティ・プログラム=ESPの、さらに前段階で介入する4輪独立ブレーキ・システムが「SBC」と言っていい。ちなみにメルセデスの資料によれば「世界初のバイワイヤー式ブレーキ」とあるが、それは残念ながらマチガイ。実は同様のシステムは、一足先にトヨタの「エスティマ・ハイブリッド」が採用しているからである。
見た目はチョ〜かっこ良く、インテリアはゴージャスそのもの。そして、開閉にわずかに16秒しかかからない“リトラクタブル・ハードトップ”を有し、ルーフを閉じれば完全なクーペとほぼ同等の快適性を実現する。新型SLは、現在世界最高峰のオープンカーと断言できる。さらに前述のような“超ド級”のシャシーポテンシャルを知ってしまうと「1280.0万円」というスーパーな価格も、さして高いとは思えなくなる。このクルマを知ると、“半値以下”とはいえ日本の最新フラッグシップオープンカー「ソアラ」の軟弱なシャシーの実力が、何だかとても情けなく思えてしまうのだが……。
(文=河村康彦/写真=ダイムラークライスラー日本/2001年11月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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