スバルBRZ R(FR/6AT)/RA(FR/6MT)【試乗記】
BRZにしかないもの 2012.06.14 試乗記 スバルBRZ R(FR/6AT)/RA(FR/6MT)……268万2750円/225万7500円
水平対向エンジンを搭載したFRスポーツカー「スバルBRZ」。兄弟車となる「トヨタ86」との違いについては方々でリポートしているが、今回はその“違い”の重要性について考えた。
自分が主人公
新しい「BRZ」、なかなか印象がよろしい。今スバルが目指しているのは「まるで運転がうまくなったように感じる」こと。だからAWD(4WD)にこだわってきたんだが、FRであるBRZも「後輪駆動のAWDです」なんて訳わからんことを誇るのもわかる気がする。共同開発の「トヨタ86」とどう違うのか、みんな大騒ぎだが、簡単に言い切ると、86はヒラヒラ、BRZはしっとりしなやか。でも差はわずかなもので、ちょっと元気っぽく飛ばす程度じゃわからない。ヒラヒラの86だって、そこらで簡単にケツ振ったりしないし。
そんな僅差のポイントは、たぶんリアサスペンションの味付けにある。感じとしてBRZの方がリアスタビライザーを突っ張らせていないようなのだ。だからコーナーで内側のサスペンションが楽々と伸びて執拗(しつよう)に路面を捉える。路面の荒れたコーナーで、86の内輪が接地圧不足になり、一瞬シュッと空転してVSC(横滑り防止装置)が働くのと対照的だ。それによるリアの踏ん張り感を、シートを介して体感しやすいぶん、BRZ の方が“深く”思える。
それ以外は、ちょっとした外装やインテリアの違いだけで、両車まったく同じ。スバル育ちの水平対向エンジンゆえ重心もボンネットも着座姿勢も低く、最初のコーナーを駆け抜けただけで、ジワッと地面に貼りついてくれるのを実感。
全体のサイズも手頃だし、操作系も自然な位置で使いやすいし、これならクルマ好きは全員バンザイで大歓迎なのも当然だろう。NAの2リッターで200ps は頑張ったが、それ以上をターボなどで出そうとしなかった見識もマル。「クルマに走ってもらってる」んじゃなく、あくまで「自分が主人公として操作している」という実感も濃い。
![]() |
![]() |
![]() |
ATも楽しめる
そのうえで、取りあえず走り最優先のマニアは6段MTにこだわるだろうが、一見スポーツカーらしくなさそうな6段ATも意外な収穫だ。普通に乗れば普通で、都会のおしゃれパーソナルカーとして最適だが、スポーツスイッチ(シフトレバーの後方なので、大きく下を向かないと操作しにくい)を入れると性格も激変し、慣れたドライバーならMTより機敏に楽しめる要素もある。
このモードでコーナーに進入すると、ブレーキングの後半で「そうだよ、このギアまで落としたかったんだよ」と、まるで気持ちを読まれたかのように、一瞬「ブンッ」と吹けてシフトダウンが起き、そのまま次の加速に移れる。大げさに言えば、フルオートが許されていた時代のF1みたいだ。
これを利用すると、安心して左足ブレーキングを駆使できるから、チョンチョン前輪荷重を調節しながら、素早い曲がり込みのきっかけもつかめる。
もちろんMTにはオーソドックスなドライビング感覚の良さが濃いが、それならアクセルペダルをもっと下まで延ばすとかオルガン式にしてくれた方が、ヒール・アンド・トウが容易になる。
そんなスバルBRZ 、もうちょい景気が回復すれば衝動買いできそうな価格帯も魅力で、特に気になったのが本体200万円(税抜き)を切る「RA」というグレード。エアコン、オーディオもなしが標準で、ホイールがスチールならタイヤも205/55R16と小さめだ。しかし、そのぶん上級グレードより40kg軽く、重量配分も前55.8:後44.2(上級車は前56.4:後43.6)と少〜しだけ50:50に近い。
何か違いを体感できるわけではないが、“スバリスト”は細部にこだわる。乗ってみても、細めのタイヤならではの素直さが好ましかったりする。本来は、あれこれ気に入った部品と交換して競技車両を仕立てるためのベース車という位置付けなのだが、これはこれでスポーツカーとして“あり”だ。
ブランドごとの魅力の明確化
もう1台テストしたのは、標準グレード「R」に17インチタイヤを装着したモデルだったが、前述の秀作ATのためもあり、瞬間芸のスポーツカーというより快適なGTという印象が強い。これに大きなダッフルバッグを放り込んで、長〜い旅に出たいなあとか、ついつい思ってしまった。
そこで気になったのが、BRZと86が双生児であることを、果たして熱心な“スバリスト”が容認するかどうかということ。軽いベースグレードが最もスポーティーで、上級グレードがGT的なのは86もまったく同じ。共同開発で得たものは多いだろうが、薄まった要素もあるだろう。
だったら、せめてBRZだけはハッチバックにするとか、思い切って違いを出してほしかった。トヨタ関係者は「スバルさんはコスト意識が薄いですねぇ」と苦笑するが、だからこそ、こんな面倒くさいエンジンを今まで守ってきたのではないか。
そのうえで「BRZにしかないもの」と「86だけのもの」をもっと明確にすることによって、それぞれの魅力も増幅するに違いない。たしかに、そうすればトヨタ側が顔をしかめるほど高価になるかもしれないが、いいじゃないか、「買いやすい86」と「高いけどスバルだぜ」が両方あっても。“スバリスト”としては、ちょっとやそっと余分に払っても、少数派であることが自尊心の源だったりする。
これからのクルマ界、共通プラットフォーム戦略はますます常識化するだろうから、なおさらブランドごとの雰囲気作りが重要度を増すと思うんだが。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。