トヨタ86 G(FR/6MT)【試乗記】
ハチロクに乗るということ 2012.06.10 試乗記 トヨタ86 G(FR/6MT)……253万5580円
ドライバーの感覚ひとつで自由自在に操れる“手の内感(てのうちかん)”が心地良い「トヨタ86(ハチロク)」。造り手がこのクルマに込めたメッセージを体感するために、ショートツーリングに出た。
奇跡的な経緯
道行く人の視線をビシバシと感じる日本の新型スポーツカーに乗るのはいつ以来だろうか? 500台限定の「レクサスLFA」は特殊だから除くとすると、「日産GT-R」以来で約4年半ぶりということになる。GT-Rは一部の人から熱狂的な視線を感じる反面、どこか遠巻きに見られていたが、「トヨタ86(ハチロク)」はもっと微笑(ほほえ)ましく迎え入れられているように思えるところが違う。
実際にステアリングを握ってみても、そういった感情はよくわかる。あえて、ターボエンジン、4WD、ハイグリップタイヤなどを排除したフレンドリーなスポーツカーは、手の内に収められそうな親近感がわくのだ。
いまさら説明するまでもないが、86はトヨタが企画を立ち上げ、スバルがエンジニアリングを請け負っている。最大の特徴は重心の低い水平対向エンジンを搭載したFRということ。スバルのお約束だった4WDではないため、より低重心化されて、メリットが強調されることになった。
スバルだけではFRスポーツカーをリリースするには相当の勇気がいっただろう。一方、トヨタは水平対向エンジンを持っていないだけではなく、スポーツカー造りから遠ざかっていたので、細かな部品も含めたコンポーネントや人材が不足気味。単独で86を造り上げようとすればもっと難航したはずだ。
その他、トヨタが抱いていた若者のクルマ離れに対する危機感、スバルがGMと別れてトヨタと資本提携したタイミングなど、実にさまざまな要因が複雑にからみあって86は生まれてきている。その背景を考えると、奇跡的な経緯をたどって誕生したモデルと言えるだろう。
定石を外さない造り
現代的な歩行者保護性能を確保するためにはエンジンとボンネットの隙間を大きめにとり、いざというときはスムーズにへこむようにしておかなければならない。だから最近のモデルはボンネットが高くなり、ボテッと分厚いスタイリングになる傾向があるが、エンジン自体が低い86はスポーツカーらしいシャープさを維持できている。
その恩恵はスタイリングだけでなく、ドライバーズシートのヒップポイントが約400mmと、今どきにしては珍しいぐらいに低く設定されていることにも表れている。足を前に投げ出すようなスポーティーなドライビングポジションをとって前方に目をやると、ボンネットそのものはあまり視界に入らず、盛り上がったフェンダーの峰が強調されるのだが、それが「ポルシェ911」のようでスポーツカー気分を盛り上げる。これによって車幅の感覚がつかみやすく、コーナーを攻めるときには狙ったラインへ正確に寄せていけるのは大いなるメリットだ。
エンジンは水平対向NA特有の、回転上昇とともにパワーがリニアに増していく感覚や、振動が少ない特性によって、回すのが楽しい。低回転域のトルクもトヨタの直噴技術によってまずまずのレベルだ。サウンドは、吸気音はデバイスのおかげもあって刺激的。排気音はもう一味欲しいところだが、ここは、自分好みに仕上げる余地として残されているのだと好意的に受け止めておこう。
何よりもうれしいのは、微細なアクセルワークにも俊敏に反応してくれること。スピードよりも、コントロールすることを楽しむスポーツカーにふさわしいエンジンである。
BRZとはここが違う
86の最大の魅力はハンドリングにある。低重心エンジンのメリットは、街中の交差点を一つ曲がるだけでも体感できるほど。速度を上げていけば少ないロールで、しかしながら決してイヤな硬さがないサスペンションによる素直な旋回性が堪能できる。サーキットなどでグイグイと攻めるよりも、適度な速度のほうがヒラリヒラリと舞うダンス感覚のハンドリングを味わいやすいだろう。
時と場所をかえて幾度か試乗し、さらに兄弟車の「スバルBRZ」も体験してみると、86ならではのこだわりも見えてくる。
BRZとの違いはスプリングとショックアブソーバーのセッティングだけで、それほど大きな差はないが、86はステアリングを切っていったときに抵抗感なくスッとノーズが入っていく感覚が強く、コーナリング中にアクセルを戻してインに引き込んでやるなんていう乗り方もしやすい。水平対向エンジンのメリットが強調されているのだ。ただし、路面の細かな凹凸などに敏感に反応してコツコツするようなところもあり、少しばかり落ち着きがないような気もする。
一方のBRZは、スタビリティー重視傾向で乗り味はしなやか。高速道路をドーンと遠くまで走っていくのにも向いている。完成度が高い、大人のツアラーという面も持ち合わせているのだ。
どちらが優れているかを比べることに、さしたる意味はないが、86はとにかくスポーツカーに乗ることを目いっぱい楽しんでほしいという造り手の願いがよりストレートに表現されている。それで、もしも気に入らない部分があれば「自分でチューニングして」という“隙”も含めて、かつて「AE86」が巻き起こしたムーブメントの再興を期するのが86の個性なのである。
(文=石井昌道/写真=小林俊樹)

石井 昌道
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
































