トヨタ86 GRMN(FR/6MT)/マークX GRMN(FR/6MT)/iQ GRMN(FF/6MT)/ノアG's プロトタイプ(FF/CVT)
もう退屈とは言わせない 2016.04.20 試乗記 トヨタのモータースポーツ活動を担うGAZOO Racingが、「86(ハチロク)」のコンプリートカー「86 GRMN」を中心とした試乗会を千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した。クローズドコースでの走行で感じた各車のインプレッションを報告する。648万円の“ハチロク”が即完売
トヨタは販売台数世界No.1の自動車メーカーであり、国内乗用車販売シェアの半数を長年維持するリーディングカンパニーだ。大きさは十分以上だが、昔からプロダクトがクルマ好きにウケているという印象に乏しい。過去にスポーツカーも多数ラインナップしてきたし、F1、WRC、WECと、あらゆるモータースポーツカテゴリーに参戦するなど、他のどのメーカーよりも熱い思いをアピールしてきたにもかかわらずだ。それらをかき消してしまうほどの勢いでエコカーやファミリーカーを販売しまくっているためかもしれないが、とにかく“無難な商品を適価で売るメーカー”というイメージが定着している。
2009年に社長に就任した創業家の豊田章男氏はそうしたイメージからの脱却に熱心で、同社のモータースポーツ関連のノウハウを活用し、メーカー自らチューニングカーやカスタマイズカーを手がけることで、万人受けではないスポーティーなモデルの開発に取り組んできた。「GRMN」とは、公式にはGAZOO Racing tuned by Meister of Nürburgringの略とされ、走りに大きく影響する部分まで本格的に手が入れられたモデルにのみに冠せられる。カスタマイズされたモデルが名乗る「G's」と差別化されているわけだ。
86 GRMNは、GAZOO Racingのニュルブルクリンク24時間レース参戦10周年を記念して100台限定で製作された。トヨタの現行ラインナップ中唯一のスポーツカーである86をベースとした最新作だ。ちなみにすでに完売している。2016年1月16日にウェブ上で商談申し込み受け付けが開始され、即座に100名を超える申し込みがあったようだ。648万円と決して安くはない価格にもかかわらずだ。
随所に感じるトヨタクオリティー
ノーマルの86と見比べると、大仰なリアウイングを除いて大きく変わらないように見えるが、中身は広範囲に手が加えられている。車高が低いのは、専用スプリングと低フリクションのショックアブソーバーが装着されているから。またスタビライザーが強化されるなど、総合的に足まわりが見直されている。ブレーキキャリパーは前後ともモノブロックで、フロントが対向6ポッド、リアが対向4ポッドのものが備わる。タイヤはブリヂストン・ポテンザRE-71R。アルミホイールはレイズ製だ。
エンジンフード、ルーフ、トランクリッドにカーボンパーツがおごられている。ボディー上部を軽量化することで重心を下げるのはチューニングの定石だ。軽量化のため、リアクオーターウィンドウとリアウィンドウは樹脂製なのだが、リアウィンドウは曇り防止のために樹脂なのに熱線入り(世界初)というところにトヨタらしさを垣間見ることができる。
運転席に乗り込む。当然ロールケージが張り巡らされているのだろうと思いきや、ない。アンダーボディーを中心とするブレース追加などでボディー剛性アップを図っているようだ。これはうれしい。ロールケージの意義は十分に理解しているつもりだが、あれが車内に張り巡らされていると途端に一般性を失い、特殊なクルマとなってしまう。シートはレカロの専用品。ステアリングホイールの一部、シフトノブ、パーキングブレーキのグリップ、それにシートの縁の部分が赤く塗られていて、その部分はアルカンターラで統一されている。派手な色使いだが、素材が大人っぽいのでギリギリ子供っぽく見えない。
速く走らせるのに向いている
チューニングポイントは他にも多々あるが、他の部分は走った感想を述べながらおいおい紹介するとしよう。ピットを飛び出しコースイン。前に何人かの人が試乗しているため、クルマは十分に暖まっている。ステアリングを少し左右に動かすと、遅れなくクルマが左右に揺れる。これを当たり前と言うなかれ。その辺のクルマでそうやっても大ざっぱな反応が返ってくるだけだ。ステアリングのみならず、アクセルもブレーキも、わずかな操作に対してクルマが敏感に反応する。
1周ゆっくりと走らせた後、可能な限り速く走らせてみる。エンジンは軽量ピストンを用いるなどのファインチューンにとどまる。最高出力および最大トルクはノーマル比19ps、1.2kgmアップの219ps/7300rpm、22.1kgm/5200rpm。けれど、サーキットで、総合的に手が加えられた車体とともに味わうと、この水平対向4気筒エンジンはここまでパワフルなのかと感心する。ノーマルの回転フィーリングはガサツであまり好きではないのだが、チューニングされたこのエンジンは、専用のテールパイプがいい排気音を奏でるのも手伝って、回してとても気持ちよい。
いったんピットに戻ってレクチャーを受けた通りにスイッチ操作を行い、VSCをカットした。が、コースに戻ってあえて乱暴にアクセル操作をしてみても何も起こらない。どうしてカットできないのだろうと思っていたが、結論としてはちゃんとカットできていて、単にグリップの限界がまだずいぶん先にあったというオチだった。
それならと意を決してこれまでより高い速度でコーナーに飛び込み、旋回中にステアリングをじわりと切り増すと、一瞬手応えが軽くなり、同時にリアが流れ始め、体が自然に反応してカウンターステアを当て、しばらくアングルを維持したまま走行できた。楽しい。挙動の変化が唐突ではないので、一般的なドライバーでもクルマの状態を把握しやすく、意のままに操ることができる。ただタイヤの限界も相当高いので、リアを流して遊ぶのが目的なら、低い速度でブレークするノーマルのほうが向いているかもしれない。86 GRMNは耐久レース参戦車両に近づけるべく開発されているので、より速く走らせるのに向いている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
6MTが男らしい「マークX GRMN」
あっという間に持ち時間の30分間を使い果たした。朝から酷使されているはずだが、ブレーキのフィーリングもタイヤのグリップ感も変化しない。ドライバーの集中力と体力が最初に衰えてくる。降りた後は爽快で、しばらく軽い高揚感が続く。これぞサーキット走行の醍醐味(だいごみ)だ。
次に「マークX GRMN」に試乗する。こちらも100台限定で、価格は540万円。86 GRMNがより根本的に、微に入り細に入り手が加えられたコンプリートカーだとしたら、こちらは市販車をベースにやれる範囲で手を加えたストリート育ちのチューニングカーといった趣。3.5リッターV6エンジンの特性が、組み合わせられる6段マニュアルトランスミッションに最適化されたほか、レスポンス重視に変更された。ボディーは補強され、VSCも専用チューニングとなっている。
最高出力321ps/6400rpm、最大トルク38.7kgm/4800rpmと、86 GRMNよりもパワーの絶対値が大きいこともあって、こっちはよりじゃじゃ馬的。なぜだかはわからないが、自然吸気にもかかわらず、アクセルを踏んでから加速Gが立ち上がるまでに一拍ある感じで、スムーズに走らせるのに苦労した。とはいうものの、15分間の限定的な試乗だったので限定的なこと以外は何も言えない。マークXをマニュアルトランスミッションで走らせるのは新鮮で、久々に男らしいクルマに乗った気がした。
癒やし系ミニバンをコワモテに
「iQ GRMNスーパーチャージャー」にも試乗した。このクルマのスタイリングがこの日一番のお気に入り。ノーマルにエアロパーツを付けているだけのようでいて、実はボディーの外板パネルの大半が専用パーツに置き換わっており、よく見るとキャラクターラインのエッジが非常にシャープだったりと、街のショップではなくメーカーの仕事だと感じさせる仕上がりになっている。その日散々ハイチューンなクルマに乗った後のチョイ乗りだったため、動的印象は薄いのだが、ディメンションから想像できる通り、お前はベーゴマかっていうくらいその場で回りたがる。常に横滑り防止装置のお世話になりっぱなし。同装置をカットできない仕様なのは正解だろう。
そして一日の最後に「ノアG's プロトタイプ」を見て締めくくり。「ノア/ヴォクシー」のうち、ノアはより平和なほう、癒やし担当、狼と羊でいえば羊のほうだと思うのだが、それをG'sがわざわざコワモテにしちゃったという思いはあるが、ノーマルのノアが月に何台売れているかってことを考えると、いろんな試みがあっていいのだろう(2016年3月の販売台数は6715台)。多様なニーズに応えるのがカスタマイズ部門の仕事だ。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ86 GRMN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1775×1300mm
ホイールベース:2570mm
車重:1230kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6MT
最高出力:219ps(161kW)/7300rpm
最大トルク:22.1kgm(217Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)215/40R17 83W/(後)235/40R17 90W(ブリヂストン・ポテンザRE-71R)
燃費:--km/リッター
価格:648万円/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
トヨタ・マークX GRMN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1795×1420mm
ホイールベース:2850mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6MT
最高出力:321ps(236kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:--km/リッター
価格:540万円/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
トヨタiQ GRMNスーパーチャージャー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3140×1705×1470mm
ホイールベース:2000mm
車重:990kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6MT
最高出力:122ps(90kW)/5200rpm
最大トルク:17.7kgm(174Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ブリヂストン・ポテンザRE050)
燃費:--km/リッター
価格:355万円/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2012年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
トヨタ・ノアG's プロトタイプ
ボディーサイズ:--
ホイールベース:--
車重:--
駆動方式:--
エンジン:--
トランスミッション:--
最高出力:--
最大トルク:--
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(ブリヂストン・ポテンザRE050)
燃費:--km/リッター
価格:--/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:--
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:--
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
