ボルボV60 T4 R-DESIGN(FF/6AT)【試乗記】
「R」の血統 2012.05.15 試乗記 ボルボV60 T4 R-DESIGN(FF/6AT)……493万円
走りとエコを両立させたという「ボルボV60」の1.6リッターモデルに、スタイリッシュな「R-DESIGN」が登場。乗ってみての、感想は……?
地味で誠実な人が乗るクルマ
映画の中では、ボルボに乗る登場人物はたいがい地味で誠実な性格という設定になっている。昨年公開された『モンスター上司』で「940エステート」に乗っていたのは、恋人との結婚をひたすら待ち望む気弱な歯科助手だった。『カンパニー・メン』では、ベン・アフレック演じるノーテンキな主人公が失業しても「ポルシェ・ボクスター」を乗り回していたが、しっかり支える奥さんの愛車は「V70XC」だったのだ。
しかし、「ボルボ=地味」というイメージは、次第に過去のものになりつつある。「R-DESIGN」は、それを体現したモデルだ。専用のサスペンションで足まわりを強化し、内外装にスポーティーなドレスアップを施している。2012年2月21日に100台限定で発売された「S60 T4 R-DESIGN」は、瞬く間に完売してしまった。
こういうモデルが人気となるところに、ユーザーの視線の変化が現れている。300台が追加されることになり、さらにワゴンモデルの「V60 T4 R-DESIGN」も発売された。こちらは700台で、合計1000台ということになる。売れ線ということで、気合が入っているのだ。
「R」はリファインメント、つまり洗練を意味する。とはいえ、歴代のボルボ車で「R」を名乗ったモデルは、相当な硬派だった。1995年の「850 T-5 R」までさかのぼれるが、本格的にデリバリーされたのは2003年の「S60R」「V70R」からだろう。ターボの過給圧を上げて300psを引き出し、3段階のモードを選べるアクティブシャシーを装備したハイパフォーマンスモデルだった。
スタイルは流麗だが、ワイルドな一面も
「R」の血統を継いでいることがよくわかるのが、メーターパネルだ。専用のアルミニウムベゼルは鮮やかなブルーに輝いていて、これは以前から一貫して「R」の特徴である。バンパーやフロントグリルには専用のパーツが使われており、デュアル・スポーツテールパイプがいかにもスポーティーな雰囲気だ。以前の「R」モデルは外見からはさほど特別感が伝わってこなかったが、R-DESIGNは見た目が明らかに違う。
そもそも素のデザインがよくできている。流麗な弧を描くサイドウィンドウの繊細な造形は、この種のスタイリッシュ系ワゴンの中でも出色の出来栄えだ。リアは彫刻的な表情を持ち、イマドキ風のしゃれたコンビネーションランプが華を添える。エステートではなく、スポーツワゴンと名乗るのも納得である。
昨今では、セダンよりもワゴンのほうがデザインの自由度が高い。リアにかけて流れるようなラインをどう見せるかが腕の見せ所だ。ただし、真四角なカタチに比べればどうしたって容量にはしわ寄せがくる。V60の荷室容量は430リッターで、このクラスでは広いほうとはいえない。ボルボはもう、「安心で良質なファミリーカー」であるだけではイヤなのだ。
特別なのは、見た目だけではない。強化ピストンロッド、強化スプリング、強化アッパーマウント、強化ブッシュと4つも「強化」を並べてくるだけあって、走り始めから明確に硬さが伝わってくる。「最もスポーティーでハードな設定」とうたうだけのことはあるが、低速ではトランスミッションのぎこちなさとあいまって、戸惑うほどにワイルドな一面を見せる。
最近では東京都内で行われることの多い試乗会だが、この日は湯河原だった。箱根ターンパイクにすぐアクセスできる場所にわざわざ会場を設定した理由は、ワインディングロードに入るとすぐに了解させられた。路面の悪い場所で少々落ち着きがなかったのは、このステージを前にしての武者震いだったのだ。ステアリングを切った時の応答が素直で、気持ちよくコーナーに入れる。過剰にクイックではないが、十分にスポーティーだ。
腕自慢ほど楽しめる
急な上り坂では、胸のすく加速、とまではいかない。ターボを備えているとはいえ、1.6リッターである。だから、速度を高めたらそれを維持するように務める必要がある。エンジン回転数を保ちながら、スムーズに走らなければギクシャクしてしまう。ハイパワーなクルマなら、いつでも加速できるとばかりにズボラな運転をしてしまいがちなのだが、そうはいかない。速く走らせるためにはそれなりのテクニックが要求されるから、腕自慢にとっては楽しみがいのあるクルマだ。
ボルボでは、V60 T4 R-DESIGNの競合車として、「アウディA4 2.0 TFSI S-lineパッケージ」「メルセデス・ベンツC200ブルーエフィシェンシー AMGスポーツパッケージ」「BMW 320iスポーツ」を想定している。いずれも180馬力ほどのパワーで、スポーティーな内外装を持つ。特に、FFベースという共通点を持つアウディA4は、直接的なライバルになるらしい。この日はたまたまアウディA4アバントで会場に赴いたのだが(クワトロなのでグレードは異なる)、ボルボ関係者が興味深そうに眺めるのが印象的だった。
強力なライバルたちに対し、ボルボは安全性というアドバンテージで対抗してきた。V60でも前方車両を監視して追突を防ぐ「シティセーフティ」が標準で装備され、歩行者との衝突も回避する「ヒューマンセーフティ」がオプションで用意されている。ちょっと前車に近づくと、ダッシュボードの上で光がチカチカして、幾度も車間距離を取るように促された。やはり、ボルボとしては、安全は譲れない領域なのだ。
しかし、ライバルたちも安全装備には力を入れるようになっており、以前ほどの差はなくなってきている。スタイリッシュ、プレミアムという分野では、ボルボがドイツの競合車に近づいていったように見えた。しかし、逆に彼らもボルボの後を追っていたのだ。ワゴンの世界では、実用性と見た目、高級感をどうバランスさせるかを競って、シビアな戦いが繰り広げられている。
ボルボの変化は、映画界でも認識されてきたようだ。『アタック・ザ・ブロック』(6月公開)では、エイリアンが地球に襲来して最初にターゲットとするのが「ボルボS80」である。もしかすると、ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントが、ボルボに乗って派手なカーチェイスを見せる日がくるかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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