第26回:あのハチロクが大活躍!……なのにダメ女子映画って? − 『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』
2012.04.26 読んでますカー、観てますカー第26回:あのハチロクが大活躍!……なのにダメ女子映画って?『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』
アメリカ人は「藤原とうふ店」を知らない
ハリウッドに“ハチロク”が進出! 映画の世界では、まだまだ日本車パワーは健在なのだ……と言いたいところなのだが、そういう話ではない。ぬか喜びさせては申し訳ないので種明かしをすると、まずこれは現在話題沸騰中の「トヨタ86」ではない。1980年代の元祖のほう、「AE86」なのだ。しかも「カローラレビン」ではなく、『頭文字D』で藤原拓海が乗っていた「スプリンタートレノ」である。ならばドリフトが売りの走り屋映画なのかというと、全然違う。トレノは、単に主人公が貧乏であることを表す記号として使われているのだ。
日本では今でもプレミア価格がつくクルマだが、「藤原とうふ店」を知らないアメリカ人にとってはただの中古車でしかない。それも30年近く前のクルマだ。二束三文だといっていいだろう。先日紹介した『ドライヴ』では、文無し母親役のキャリー・マリガンが先代の「カローラ」に乗っていたが、それをはるかに上回る貧乏アピールである。
30代独身女性の主人公アニーは、自ら開業した手作りケーキ店がつぶれて、安給料で宝石店員をしている。いいクルマに乗れる身分ではない。『宇宙人ポール』でのぶっ飛んだキリスト教原理主義者の娘役がハマっていたクリステン・ウィグが演じている。『サタデー・ナイト・ライブ』あがりの才人で、共同脚本にも名を連ねている。1973年生まれの38歳だから、アニーの造形には自身の体験が深く影響しているようだ。金なし彼氏なしのアラフォー女子が繰り広げるドタバタコメディーである。
ポルシェに乗ったゴーマン男
サブタイトルから想像がつくように、配給会社としては『ハングオーバー 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』の女性版として売りたいのだろう。しかし、下品さでいえば、この作品は本家をしのぐ。下ネタ満載で、それもセックス方面だけでなく、上下の排せつ物まで大放出なのだ。
彼氏はいないアニーだが、寂しさを紛らすセフレはキープしている。これがとんでもないゴーマン男で、セックスも自分勝手。事が終わるとすぐに彼女を追い出してしまう。家の前にはいつも「ポルシェ911カレラSカブリオレ」が停まっていて、トレノに乗っているアニーとは明らかに階層差があることがわかる。男の側には、まともに付き合う気なんてあるわけがない。
アニーの愚痴を聞いてくれるのは、幼なじみの親友リリアン(マーヤ・ルドルフ)だけだ。同じような境遇のアラフォーだから、不平不満を述べ合ってはウサを晴らすのだ。しかし、リリアンは腐れ縁の彼氏とついに婚約してしまう。アニーとしては祝福しながらも焦りを隠せないわけだが、親友だから花嫁介添人(ブライズメイド)をやらないわけにはいかない。それがタイトルの由来で、ほかの4人のブライズメイドのまとめ役を仰せつかる。
ブライズメイドは人数が多いほどステータスが高いとされるらしい。でも、花嫁の友達ということ以外には共通点を持たない面々がいきなり共同作業を始めるのだから、どうしたって一騒動が持ち上がる。同じようなシステムは花婿側にもあって、それを描いたのが『40男のバージンロード』だった。花婿介添人の代表“ベストマン”が必要なのだが、主人公には親友と呼べるような仲間がいない。それで困り果てるという話で、かれの地では人付き合いの悪い人間は結婚もできないのだからタイヘンだ。
鉄チンホイールに五分山タイヤ
プロデューサーは、ジャド・アパトー。『40歳の童貞男』『無ケーカクの命中男』を監督した、ダメ男映画の巨匠である。ついにダメ女子にまで手を伸ばしてきた。ほかも良質なラブコメディーを作ってきたスタッフで固めているから、安心して観ることができる。『セックス・アンド・ザ・シティ』のように、身勝手で騒々しい絵空事の恋愛を見せられて閉口することはない。馬似の巨大女も出てこないし。
とはいえ、コメディーだから女優の美しさ目当てで観る映画ではない。ただ、“セレブな美女”という設定のローズ・バーンだって、なんともビミョーである。ニッポンの草食系男子にはとても手に負えそうにない獰猛(どうもう)な女性たちが、本音むき出しで肉弾相撃つのだ。圧倒的な破壊力に唖然(あぜん)としながら、男の知らない世界を学ぶ姿勢で臨むのがいいだろう。
アニーのハチロクは、まったく大切にされている様子がない。洗車などいつしたのかという感じで、ボディーは白っぽくなり、ウィンドウにはワイパーの跡がくっきりと残る。キーを回しても簡単にはエンジンはかからず、テールランプは点灯しない。そんなことだから、オールズモビルに追突されるという憂き目に遭う。安い鉄チンホイールに五分山タイヤだから、アニーは走りに興味はないようだ。
とことん貧乏の象徴としての役割を負わされているのだが、一度だけハチロクが輝きを見せる瞬間がある。パトカーの前で、華麗なスピンターンを決めるのだ。それまでのひどい扱いは、この場面を際だたせるためだった、と考えることにしよう。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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