メルセデス・ベンツB180ブルーエフィシェンシー スポーツ(FF/7AT)【試乗記】
これからのメルセデス 2012.04.25 試乗記 メルセデス・ベンツB180ブルーエフィシェンシー スポーツ(FF/7AT)……398万円
2006年1月に日本で発売された「メルセデス・ベンツBクラス」が、初のフルモデルチェンジを受けた。先代より全高が65mm低く、スポーティー感を増した、2代目の“走り”はいかに?
本格派実用モデル
「では、クルマを前に説明いたします」との案内に従って、屋内の説明会場から駐車場へ。実車を使ってニューモデルの特徴をアピールする。「これはクライスラーが得意としていた方法だなァ」と思いながら、ほかの参加者と一緒に足を運ぶ。中庭風のこじゃれたスペースに素の「メルセデス・ベンツBクラス」と、オプション装備満載、ルーフボックスまで装着した同モデルが用意されていた。
初代Bクラスがデビューしたのは2005年。スリーポインテッドスターは、まだ「ダイムラー・クライスラー」だった。今回の主役、6年ぶりにフルモデルチェンジを受けた新型Bクラスが発表されたのは、2011年のフランクフルトショー。その間に独米の2社は決別して、シュトゥットガルトの名門は「ダイムラーAG」と名を変えた。
「年間400万台以上クルマを生産できない自動車メーカーは生き残れない」。そんな観測がささやかれ、世界中で自動車メーカー間の合従連衡(実際には強者による吸収合併)が盛んだったのは、それほど昔のことではない。けれども会社の存続は、当たり前のことだが、結局のところ自社の製品によるしかない。「スケールメリット」と「シナジー効果」ではなく。
メルセデスの足もとを固めるのは、言うのもばからしいことだけれど、「PTクルーザー」ではなく、Bクラスだった。近未来のフューエルセル(燃料電池)化を匂わせ、新奇な二重底ボディーと扁平(へんぺい)4気筒エンジンでFFハッチの市場をこじ開けた「Aクラス」に続き、フォルクスワーゲンやオペルの領分を侵食すべく投入された本格派実用モデル。Aクラスが確保した橋頭堡(きょうとうほ)を拡大し、メルセデス全体の生産規模をアップするのが、後続Bクラスに与えられたミッションだった。
「プリウス」もライバル?
2代目となるBクラスは、先代とは逆にAクラスに先行して販売が開始された。モデルチェンジの眼目は、より実用的に、言い換えるとちょっと背の高い、普通のハッチバックモデルになったこと。Aクラスとのコンポーネンツ共用を推し進めたためか、ホイールベースは先代より80mm短い2700mm。そこに、90mmほど長くなった5ドアボディーを載せる。
庶民的なコンパクトカーマーケットにおいても「メルセデスであること」の理由付けに使われた二重底コンセプトは捨てられ、しかしその恩恵でフロアが下がり、乗員の乗降は楽になった。全高も、65mm低い1540mmに。空力特性がCd値=0.26と、旧型より0.04ポイントも向上していることもあり、前方投影面積の減少は、燃費向上に貢献するはずだ。
実際、日本に導入される1.6リッター直4ターボ(122ps、20.4kgm)モデルのカタログ燃費は、16.0km/リッター(JC08モード)。従来モデルより19%もアップしたという(10・15モードでの比較)。トランスミッションには、CVTに代え、新開発の7G-DCTが与えられた。横置きエンジン用にコンパクトにまとめられたデュアルクラッチ式7段ATである。
気になる価格は、「B180ブルーエフィシェンシー」が299万円。17インチを履き、バイキセノンヘッドランプ、そのほかのライト類にLEDが用いられ、レザーツインシートなどがおごられる「B180ブルーエフィシェンシー スポーツ」が348万円。購入にあたって、本気で「トヨタ・プリウス」と迷う人が出るかもしれない、メルセデス・ベンツである。
落ち着いたハンドリング
Bクラスの運転席に座ってシートベルトを装着すると、さらに自動的にベルトが引っ張られ、ゆるみを取ってくれる。メルセデスらしからぬ過剰サービス、というよりも、「これから運転するゾ」と、いい意味で緊張感が高まる。
車内に入って最初に気づくのが、新車の香りが「いつものメルセデス」であること。一方、運転を始めると、今回から電動アシストとなったハンドルは軽く、アクセル操作へのエンジンの反応がよく、いわゆる「メルセデスらしい」重厚感は薄い。ピエゾインジェクターを採用した1.6リッター直噴ユニットは、過給器を使って出力をならしたエンジンで、台形のトルクカーブを描き、わずか1250rpmから最大トルク20.4kgmを発生する。細かくギアを切ったトランスミッションと合わせ、ペダルを踏む足の力加減で容易に望んだ加減速が得られる、イージーな動力系だ。
といっても、峠に持って行っても、ことさらに運転者をエキサイトさせない落ち着いたハンドリングが、いかにもメルセデスらしい。メルセデスらしいといえば、路面からの入力をビン! とはね返す剛性感高いボディーも……と、どうしてもこれまでのFRモデルをベースにした「メルセデスらしさ」を基準に試乗報告してしまうのが、守旧派リポーターの限界である。A/Bクラスは、どうも旧来のメルセデス信仰の深さを測る「踏み絵モデル」の役割があるようだ。
新型Bクラスに関して言えば、荷室容量を486〜1545リッター(VDA法)に変化させられる分割可倒式リアシートの使い勝手に言及し、簡単に荷室フロアの高さを変えられる「EASY-VARIO PLUS」(オプション装備)に感嘆し、例えば運転席まわりにコンビニ袋を下げるフックがないことに苦言を呈するべきなのかもしれない。
初代Aクラスがデビューしてから14年。コンパクト市場に一定の地歩を築いたメルセデスは、より若い層、これまでとは違った、まったく新しい顧客を取り込むために、FFプラットフォームを大いに活用するつもりだ。今後、4ドアクーペ、SUV(!)など、4から5車種の登場が予定される。ニューBクラスは、そうした新世代メルセデスの中核を担う、“超”実用モデルなのである。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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