メルセデス・ベンツSL500ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)【海外試乗記】
どちらの席も特等席 2012.04.04 試乗記 メルセデス・ベンツSL500ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)日本で2012年3月18日に発表され、6月にデリバリーが始まる予定の新型「メルセデス・ベンツSL」。その第一印象を、スペインから報告する。
大きく、しかし軽く
「メルセデス・ベンツSLクラス」と「ポルシェ911シリーズ」、「シボレー・コルベット」、そして「日産フェアレディZ」。この4台を、私は“世界の伝統的スポーツカー四天王”と勝手に呼んでいる。
もっと他にも、例えばジャガーとかフェラーリとかアルファ・ロメオとか、めぼしいスポーツカーがあるじゃないか! とおっしゃる向きもあると思う。けれども、ひとつのコンセプト、というか、“形(かた)”を貫き通し、名前も変えずに半世紀も続いたクルマなど、そうはない(もっともZだけは歴史もちょっと短く、一瞬途絶えてもいるけれど、ニッポン唯一の伝統的スポーツカーだから応援だ!)。
伝統的スポーツカーには、しかし、ひとつの悩みどころがある。“形”を守り通すゆえ、ある事実がほかのクルマよりも浮きぼりになりやすい。それは、進化と称した“大型化”だ。
ナローポルシェやS30型のZをクラシックカーイベントなどで見るたびに、その“小ささ”にはいつもほとほと感心させられる。最新モデルを並べたりすれば、ほぼ相似形だから余計に、サイズの違いに驚く。
第6世代となったSLクラスは、やはり少しだけ大きくなってしまった。安全性と快適性の向上がラグジュアリーカーの進化の要だったりするから、ある程度はやむをえない。とはいえ、そのぶんの重量増が許される時代でもなくなりつつある。そこに、新型SLクラスは真摯(しんし)に取り組んだ。メルセデス・ベンツとして量産車初となる、アルミボディーシェルの採用によってである。
5つのハイライト
もうすでに、日本でもお披露目されたから、概要はすでに多くの読者の知るところだろう。主な注目ポイントは、軽量かつ強靱(きょうじん)な(ほぼ)オールアルミボディー、高効率・高性能の最新パワートレイン、スポーツ性と快適性を両立した新設計サスペンション、先進の安全装備、そして新しいオーディオとワイパーシステムの5つである。
アルミボディーには、最新のアルミニウム成型や接合技術が使われており、さらにマグネシウムやスチール、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)などの軽量素材が随所に組み合わされ、さながら“コンポジット素材の見本市”のようだ。
これら大掛かりな軽量化に取り組んだ結果、新型SLは、旧型比で125〜140キロのダイエットを実現している。そこに、パワーとトルクを高め、効率を高めた新パワートレインを積む。そうして生まれたスポーツ&ライトウェイト=SLは、「300SL(W194)」のレースデビューから数えると、ちょうど今年で“還暦”を迎える。
パワートレインは、すでにミッドサイズ以上の最新メルセデス車でおなじみの、4.7リッターV8直噴ツインターボ(SL500ブルーエフィシェンシー用)と3.5リッターV6直噴自然吸気(SL350ブルーエフィシェンシー用)に、それぞれアイドリングストップシステム付き7段トルコン式オートマチックを組み合わせたもの。いずれも新たな軽量車体を得て、“速く”なると同時に、燃費も最大3割程度良くなっているという。
その効果のほどは後述するが、軽く強いボディーを手に入れた新型SLクラスは、極上の軽量シャシーとサスペンションを得ている。それに、「SL350ブルーエフィシェンシー」には「スポーツ」と「コンフォート」の切り替えが可能なダンピング調整式セミアクティブサスを、「SL500ブルーエフィシェンシー」には同じく切り替え式ながらアクティブ・ボディー・コントロール(ABC)の付いたアクティブサスをそれぞれ採用した。
「CLSクラス」で初めて採用された電動モーター付きの機械式可変ギアレシオ・ステアリングシステムも、SLクラス専用のチューニングが施され、搭載されている。
乗り心地はクラスでイチバン?
スペインはマラガで、2年前にオープンしたばかりという自動車博物館で試乗車を受け取った。真っ赤な「SL500ブルーエフィシェンシー」のAMGスポーツパッケージ+ABCサスペンション付きで、これは日本向け「SL550ブルーエフィシェンシー」とほぼ同じ仕様となる。
まずは、助手席でスタートする。もちろん、屋根はオープンだ。博物館から小さな段差を越え、マラガの道へ。そして数メートル走ってもう、その乗り心地がクラスナンバーワンであることを確信した。
ドライバー交代まで約70キロだったか、その筆舌に尽くし難い乗り心地の良さに、全身が蕩(とろ)けそうになる。しかも、サイドウィンドウを上げると、おそろしく静かで風の巻き込みもほとんどない。頭のてっぺんをそよ風が揺らす程度だ。
自慢のフロントバスシステム付きのオーディオは、なるほど低重音がオープンでも抜けることなく、“迫力の波”となってパッセンジャーに伝わってくる。ボリュームを絞っても、音楽が、音楽として成立していた。
音も乗り心地も何もかも、あまりに快適すぎて、途中、オープンで走っていることを忘れてしまったほど(オープンカーらしく風にあたりたければ、もちろん、ウィンドウを全開にすればいいだけだ)。後半はもうすっかりリラックスし、だらけた姿勢で雲ひとつない青空を見上げていた。
なるほど、SLクラスは、「SLS AMG」とはまったく正反対に、助手席を“その気”にさせる最良のデートカーでもある。逆にいえば、SLクラスがこうであるからこそ、SLS AMGでは超スパルタンな“走れる”クルマに仕上げられたのだろう。
アルミっぽくない乗り味
中継地点でいよいよコクピットに座り、エンジンに火を入れる。派手なサウンドの演出とは無縁だ。それはきっとAMGモデルにとってあるのだろう。
しかし、その音も、助手席で聞くのとでは大違いだ。エンジンサウンドを含め、機械の精緻に動く感覚が、派手ではないけれども、しっかりとドライバーに伝わってくる。
乗り心地は、やはり極上だ。極めてフラットライドで、特に段差などの収まりの、最後の瞬間が心地いい。キレイな道ばかり走っていると、首都高の段差が恋しくなるほど。クルージング状態では、猫が喉をならすようなエンジンフィールも身に染みた。
ちょっと攻め込んでみた。クォーンと軽めのV8サウンドをたなびかせて、まるで「SLK」のように軽やかな舞をみせる。アルミボディーに特有の“力み”がまるでなく、しなやかだ。まるで車体にドライバーが潜り込んだような一体感を味わうことができる。
とはいえ、電子制御は“積極的”である。調子に乗ってついついオーバースピードでコーナーに進入すると、トルクベクタリングブレーキをはじめとする電子制御が「待ってました」とばかりに介入し、ほとんど強引にノーズを内側に持っていく。このクルマはできるだけ自然に、ていねいに操った方が気持ちよく走れるということだ。
四天王ともなれば、新型車が出ると同時に試乗もしないで注文する人が多いことだろう。確立されたブランドだからこその、信頼と期待がそこにある。今度もまた、SLはそれらを裏切らない。それどころか期待以上の体験と感動を、熱心なユーザーにもたらすことだろう。
(文=西川淳/写真=メルセデス・ベンツ日本)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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