第178回:フラッグシップとスタンダード ヨコハマの最新タイヤ2モデルを試す
2013.04.20 エディターから一言第178回:フラッグシップとスタンダード ヨコハマの最新タイヤ2モデルを試す
ヨコハマタイヤの新商品「ADVAN Sport V105」と「ECOS ES31」を、横浜ゴムのテストコース「D-PARC」で試走。最新技術が盛り込まれた2種のモデルは、それぞれどのような進化を遂げていたのか? 自動車ジャーナリスト河村康彦がリポートする。
新フラッグシップタイヤは「絶対の自信作」
いつ、いかなる理由からそうした“しきたり”となったのか定かではないが、桜咲く春は、日本のタイヤメーカー各社がこぞって新商品を市場に投入する季節でもある。ここに紹介する横浜ゴムの2モデルも、いわば“2013モデル”といえる最新のアイテム。ただし、同じ乗用車用タイヤでもそれぞれが“好対照”と受け取れるキャラクターの持ち主であるのが、いかにも今という時代を反映しているようで興味深い。
最初に紹介するのは、「グローバル・フラッグシップタイヤ」なるタイトルが銘打たれた「ADVAN Sport(アドバン スポーツ)V105」である。名称からも推測できるように、これは同社のラインナップの中でもハイパワーなプレミアムカーへの装着を想定した、従来の「ADVAN Sport V103」の後継モデル。2004年のV103のリリース以降、9年のあいだに進化したテクノロジーのすべてを注ぎ込んで新たに開発された。「絶対の自信作」という開発陣のコメントが光る。
メルセデス・ベンツやアウディ、そしてポルシェなど、多くの欧州プレミアムブランドに純正装着された実績を持つV103からのさらなる進化を目指し、全面的な見直しを図ったというV105。WTCCなど世界的なモータースポーツへの参戦で培ったノウハウを積極的に採り入れたというのが特徴のひとつだ。
中でも、「マトリックス・ボディ・プライ」と呼ばれる、角度のついたプライをトレッド付近までターンアップさせ、サイドからショルダー部分までを二重交差とした専用構造は、「周方向の剛性を高めて形状のねじれを解消する事で、ステアリングの正確性を向上させると共に、ドライ性能のアップにも寄与する」とうたわれる。まさに、モータースポーツからの直接のフィードバックとなるこうしたデザインは、「これまで効果があることは分かっていたものの、生産性などの点から量販タイヤに採り入れるのは困難だった」というもの。そこを、工場に新ラインを構築する事によってブレークスルーさせたのが、このV105の大きな見どころである。
茨城県にある横浜ゴムのテストコースで、ファーストインプレッションをつかんだ後、あらためて「ポルシェ・ケイマンS」に純正サイズを装着し、高速道路から市街地、ワインディングロードなど、さまざまなシチュエーションでチェックした。
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転がり抵抗が少なそうな印象
「実は『SL』や『CLS』といったメルセデス・ベンツの最新モデルで、すでに純正装着が開始済み」ということからも想像していたように、単にドライグリップ性能の高さだけではなく、静粛性や乗り心地、そしてもちろんピュアなスポーツカーに装着しても力不足を感じさせないハンドリングの正確性や俊敏性など、さまざまな項目に対してバランスよく高い性能を発揮してくれるのがこのタイヤ、というのが、総じての印象だ。微舵(びだ)操作に対する応答は正確ではあるものの、過度にスポーティーさを演出しない、つまり殊更にシャープなしつけとされていないあたりも、“プレミアムなハイパフォーマンスタイヤらしさ”を実感させてくれる一因だ。
コーナリング時のグリップ力そのものは十分に高い一方で、そのコーナリングフォースのピークを過ぎた後での、ゆっくりとコントロール性に富んだ滑り出しの挙動も好ましい。フルブレーキングを試みれば、ABSの介入ポイントの遅さとその際の減速Gから、縦方向グリップ力の高さも確認できた。
欲を言うのであれば、そうした高い運動性能はキープしたままに、さらなる静粛性の向上が追求できないか、といったあたりが、今後の課題というところだろうか。確かに、乗り味を含めての快適性は、この種のタイヤの中でも「水準以上」と思える仕上がりだ。しかし同時にそれは、「ライバルに明確な差を付けた」と断言できるほどではないのもまた事実である。
評価指標の上では“9年前”のV103に比べ、ロードノイズもパターンノイズも大きく向上したとアピールするV105だが、それは最新のライバルに対して大きなアドバンテージがあるという意味ではない。
ちなみに、いかにも最新のタイヤらしいと実感したのは、「ハイパフォーマンスタイヤにも関わらず転がり抵抗が小さそう」という印象だった。V105は、日本が世界に先駆けて採用したいわゆる“ラベリング制度”に基づくグレーディングシステム(等級制度)で、「低燃費タイヤ」としての表示がなされたアイテムではない。しかし、開発過程では「欧州のラベリング制度を意識した」というから、この種のタイヤの中にあっては優れた低転がり抵抗性能を実現させている可能性は高いと言える。
少なくとも、こうしたカテゴリーのタイヤでここまで”転がる”感覚を抱いたのは自身では初。これは、現時点では「V105ならではの特徴」と言っていいように思う。
日常シーンでは一切不満なし
一方、ほぼ同様のタイミングで市場投入された「ECOS(エコス)ES31」は、「スタンダード低燃費タイヤ」というのがキャッチコピー。ここでの“スタンダード”とは性能特化のための大きなコスト上昇は伴わず、リーズナブルな価格で手に入れられる普及型のアイテム、と、そう解釈すべきだろう。
そんなこのモデルは、累計販売数が3300万本を超えたセダンやコンパクトカーなどをターゲットとした人気普及商品である「DNA ECOS(ディーエヌエー エコス)」の、“エコ性能”部分を大きく向上させたニューモデルという位置づけ。同社の低燃費タイヤである「BluEarth(ブルーアース)」シリーズの開発で培った技術を入れ込み、「転がり抵抗を11.5%低減させながらウエット性能を14.1%、ドライ性能を3.6%向上させると共に、静粛性や耐偏摩耗性などもアップした」というのがセリングポイントとしてうたわれている。
こちらは、テストコース内の高速周回路のみでのチェックとなったが、「ホンダN-ONE」や「マツダ・デミオ」、「ルノー・カングー」を乗り換えての中では、「日常シーンでの実用性能では一切の不満なし!」というのが率直な印象となった。
転がり抵抗、そして恐らくは空気抵抗の低減までを考慮したと思われる、接地幅が狭く、ショルダー部のラウンドが強いその断面形状は、一見したところでは「足元が、少々頼りなく思える」雰囲気にもつながっているのは否めない。けれども、荷重が増すと接地面が周方向に大きく拡大されるトレッドプロファイルの“フラット構造”などにより、なるほどフルブレーキング時には「見た目以上の制動力」を味わわせてくれたのは確かだ。
限られたテスト条件ゆえ断定はできないが、標準装着タイヤに対しての乗り心地面でのマイナスを感じなかった点にはDNA ECOS比での「6.6%の軽量化」も貢献しているという事だろう。価格は“オープン”の設定だが、こうした「数多く売れてこそ社会貢献にもつながる」というアイテムこそ、このところ海外から押し寄せる“アジアン・タイヤ”に対抗できる、なるべく安価での販売を実現してもらいたいものだ。
(文=河村康彦/写真=横浜ゴム)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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