ボルボV40クロスカントリー T5 AWD(4WD/6AT)
賢い馬に乗っているよう 2013.05.07 試乗記 ボルボのプレミアムハッチバック「V40」に追加された、直列5気筒2リッターターボエンジンを搭載する4WDモデル「クロスカントリー T5 AWD」を軽井沢で試乗した。アクティブな上級仕様
このたび登場した「ボルボV40クロスカントリー T5 AWD」をひと言で説明すれば、車高が30mm高い「ボルボV40」である。メカニズム的には213psを発生する直列5気筒エンジンと6段ATを組み合わせ、4輪を駆動する。
ここでボルボV40ファミリーのラインナップをおさらいすると、ベーシック仕様が4気筒1.6リッターターボ(180ps)を積むFFの「T4」(269万円)と「T4 SE」(309万円)、スポーティー仕様が5気筒2リッターターボ(213ps)を積むFFの「T5 R-DESIGN」(399万円)となる。
したがって今回追加されたV40クロスカントリー T5 AWDは、アウトドアアクティビティーを楽しむようなライフスタイルを持つ人に向けたアクティブ上級仕様といったところ。単に車高が高くなっているだけでなく、ハニカムメッシュパターンのフロントグリルや前後バンパーのSUV的な力強いデザイン処理、それにルーフレールなどで、「遊びに行くぞ−!」的な雰囲気を醸している。
2トーンのインテリアが選べるのもV40クロスカントリーだけの特典で、試乗車はエスプレッソブラウン×ブロンドというしゃれた配色。このカラーリングだけで「フツーのV40よりクロスカントリーがいいかも」と思わせるぐらい魅力的だ。ここに褐色のアルミ製フローティングセンタースタックが組み合わされ、清潔で、しかもぬくもりも感じさせるインテリアが完成する。
エンジンを始動して軽井沢周辺のワインディングロードを走ってアタマに浮かんだのは「三上」という言葉だ。これは11世紀の中国の文学者である欧陽 脩の言葉で、「みかみ」ではなく「さんじょう」と読む。
どんな意味の言葉かといえば、いい考えがひらめくのは馬の上、厠の上、枕の上の「三上」なのだという。
中でも、馬に乗っている時にいい考えがひらめくというのは、クルマにも通じるのではないかと私はニラんだ。で、脳科学や心理学を研究する人にお会いする機会に恵まれると、「馬上でグッドアイデアが生まれる理由」を尋ねた。
やわらかい機械のよう
返ってきた答えのひとつが、「次々と目に飛び込んでくる新しい風景が、脳に刺激を与える」というものだ。これは確かに納得できる理由である。
面白かったのは、「人間は馬のようにやわらかいものに触れていると心が丸くなり、トゲトゲしたものに触れると心がささくれ立つ」という説だ。で、V40クロスカントリーも心が丸くなるような乗り味のクルマだった。
誤解のないように言っておくと、ボルボV40 クロスカントリー T5 AWDは昔のボルボのようにどよよ~んと動くクルマではない。ドライバーの操作に俊敏に反応するクルマだ。
それでも、ステアリングホイールを切ったり、ブレーキペダル、アクセルペダルを踏んだりといった操作が、デジタル信号のようにビキッとクルマの動きに反映されるわけではない。操作してから一瞬の“タメ”があってから、しなやかに反応する。
この一瞬の“タメ”は悪いものではなく、人間の感性にあった自然な操作フィーリングだ。V40クロスカントリーは、やわらかい機械なのだ。
V40クロスカントリーにやわらかさを感じる理由は、電動パワーステアリングの湿り気を帯びた手応えにもある。ボルボは、V40シリーズで初めて電動パワステを採用したけれど、その完成度は高い。切り始めからスムーズで、ワインディングロードで右へ左へクルクル回すような場面でもしっとりとした感触を失わない。
全体に落ち着いた印象を受けるのはV40 T4やV40 T4 SEに比べて車重が150kg重いことに加えて、V40シリーズで唯一採用するフルタイム四駆システムにあると見た。
V40 T5 R-DESIGNもV40クロスカントリーと同じ213psの2リッターエンジンを積むけれど、あちらはFFで、前の2輪だけだとそのハイパワーをこぼしてしまう場面があった。勢いよくアクセルペダルを踏んづけると、ホイールスピンしたのだ。
一方、ハルデックスの最新の四駆システムを備えるV40クロスカントリーは、4輪でパワーをきっちり消化する。
車上で、いいアイデアが浮かびそう
といったように、V40クロスカントリーは全体に生き物のような手ざわりを感じさせるキャラクターで、好ましいと思った。
欲を言えば、あともうちょっとだけ足の運びが丁寧な馬だと、なお好ましい。路面の凸凹を乗り越える瞬間に体が感じるショックが、想像して身構えるものより少しだけ強い。
V40シリーズは、ボルボが「ダイナミック」と呼ぶセッティングが施されている。操作に遅れのない颯爽(さっそう)としたフィーリングはよいとして、V40クロスカントリーは、荷物を満載して遠くへ行くようなクルマだ。もっとはっきり、遠乗りの馬という性格にしてもよかったのではないか。
話を戻して、「馬上で良い考えが浮かぶ」理由のひとつに、馬が安心感を与えるから、という意見もあった。人間は不安を感じている時にはなかなかいいアイデアが浮かばず、逆にリラックスしている状況だとひらめくのだという。
V40クロスカントリーに限らずV40シリーズは、赤外線レーザーで前方の車両を検知して追突を回避する「シティ・セーフティ」や歩行者エアバッグをはじめとして、車線逸脱を警告してくれる装置や駐車アシスト機能まで、至れり尽くせり。
まさに危険が近づくと歩みを緩める馬のようで、その安心感は絶大だ。
しかもいまなら、ミリ波レーダーとカメラで歩行者を検知する「ヒューマン・セーフティ」や、すべての車速で先行車両に追従して停止まで自動コントロールする「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」などを含む20万円の「セーフティ・パッケージ」が無償で提供される。
やわらかくて安心させてくれるV40クロスカントリーは、賢い馬に乗っているように感じさせてくれるのだった。車上で、いいアイデアが浮かびそうだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ボルボV40クロスカントリー T5 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1470mm
ホイールベース:2645mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直5 DOHC 20バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:213ps(157kW)/6000rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/2700-5000rpm
タイヤ:(前)255/50R17(後)255/50R17(ミシュランPRIMACY HP)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:359万円/テスト車=459万5000円
オプション装備:パノラマ・ガラスルーフ(18万円)/車体色<ロウカッパーメタリック>(8万円)/歩行者エアバッグ(6万円)/リアビューカメラ(6万円)/ナビゲーション・パッケージ(20万円)/レザー・パッケージ(20万円)/セーフティ・パッケージ(20万円)/ETC車載器(2万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(0)/山岳路(7)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。