第297回:「MiTo」だよ、おっ母さん!
あるシニョーラのクルマ談義
2013.05.24
マッキナ あらモーダ!
早くも発売から5年
光陰矢の如し。
「アルファ・ロメオMiTo(ミト)」が2008年にミラノのスフォルツェスコ城で発表されてから、2013年6月で早くも5年になる。本国イタリアでミトは、2013年4月の新車登録トップ50のうち41位(771台/イタリア輸入車協会調べ)だ。
しかし筆者が知る地元ディーラーによると、景気後退・燃料高騰の昨今でも、1.4リッターLPG併用仕様の販売は堅調という。同時に小馬力モデル(70、78、85ps)があることも、それなりに貢献をしているようだ。それは、2011年からイタリアで施行された、免許取得1年以内の初心者を対象にした馬力規制(95ps以下)が背景にある。
ミトは近日発売する2014年モデルでマイナーチェンジするという。
モデルサイクル後半にミトがどこまで人気を回復できるかが興味深い。
ガブリエラさんの「ミト」
今回はそのミトに乗る、本場イタリアのあるシニョーラさんのお話である。ガブリエラさんはローマの北130kmにある町、モンテフィアスコーネに住んでいる。1957年生まれの56歳だ。
家は歴史的街道であるカッシア沿いにあるので、「毎年ミッレミリアが家の前で観戦できる」という。今はアグリトゥリズモ(農園民宿)の管理人として、日々国内外のお客さんを迎えている。
ちなみに、彼女が働く農園でも作っているワイン「エスト! エスト!! エスト!!!」は、伝説によると、12世紀のゲルマン人主教がローマ詣でで立ち寄った際にいたく感銘し、生涯居残るきっかけになったという名ワインである。
ガブリエラさんの赤いミトはJTD ターボディーゼル仕様だ。ガブリエラさんは「路面状況があまりよくないこの周辺だと、ミトの最低地上高は、ちょっと低すぎるわね」「近距離ばかり乗っている私のような乗り方だと、オイルフィルターを思ったより短いインターバルで交換しなければならないのよ」と不満をもらしていたが、それ以外は大満足だ。「居住性は快適そのもの。加速も最高よ!」
パソコンに触れず、携帯電話もあまり得意でないガブリエラさんだが、マニュアルトランスミッションが大好き。シフトレバーを巧みに操り、アグリトゥリズモの敷地内に連なる坂をリズムよく登ってゆく。
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35周年目のサプライズ
ガブリエラさんの車歴について聞いてみた。彼女が免許を取得したのは結婚翌年の1978年、21歳のときだった。
「夫は電力会社勤務。私は電球専門店の店員だったのよ」というから“エレキ婚”といったところか。
新居の車は、当時の典型的イタリア人家庭の例に違わず白い「フィアット500」だった。その500が壊れてしまい、急きょ代わりに「シトロエン・ディアーヌ」に乗ったものの、後年は基本的にイタリア車をファミリーカーに用いてきた。現在は夫が「フィアット・パリオ」、娘が彼女のお下がりの「フィアット・プント」に乗る。
「この経済的苦境にあって、自国のブランドに少しでも貢献できればね」と笑う。
そのガブリエラさん、結婚後はそれまで勤めていた電球専門店を辞めて、夫の父親、つまり義父が40年近く営んでいた食料品店を手伝うことにした。生鮮品からタバコ、新聞雑誌まで扱う、イタリアの地方によくある商店だった。
店にはフィアットのカミオン(トラック)が1台あった。まだ町が寝静まっている早朝に、義父の運転するカミオンに乗って隣町のヴィテルボまで行き、野菜を市場で、タバコを仲買人から仕入れた。雨の日も、雪の日も毎日それらを運んだ。そうしてガブリエラさんは、ふたりの子どもを育てあげた。
ところで「ガブリエラさんがミトを選んだきっかけは?」 そうボクが質問すると、「これはね、ソルプレーザ(サプライズ)だったのよ」とうれしそうに答えた。夫から結婚35年記念のプレゼントだったという。その証拠に、車検証には彼女の名前が、しっかりと記されている。
彼女の息子は軍医となり、娘は今、ローマ大学の薬学部に在籍している。がんばったお母さんへのご褒美だったミトに乗って、ガブリエラさんは畑の中に消えていった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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