メルセデス・ベンツGL550 4MATIC(4WD/7AT)
走れるモンスター 2013.06.04 試乗記 新型となった「メルセデス・ベンツGLクラス」。メルセデスが「ファーストクラスSUV」と呼ぶフルサイズSUVの魅力を確かめた。まろやかな怪物
7年ぶりにモデルチェンジした「GLクラス」は、メルセデス・ベンツの最大SUVである。7人乗りの5ドアボディーは全長かるく5.1m超、全幅ほぼ2m、車重は2.5トンを超す。メルセデスの四駆といえば、日本では「Gクラス」の人気が高いが、G550の2m近い全高を除けば、「GL550」の巨漢ぶりは圧倒的だ。
これまでの5.5リッターV8に代わる新エンジンは、直噴の4.7リッターV8ツインターボ。つまりVIPセダンの「S550」と同じパワーユニットを持つ「陸の王者」である。少し前の朝日新聞で見た全面広告では大きく“The Monster”とうたっていた。日本語のコピーでも「いま、怪物があなたの存在を超えてゆく」なんて書いてある。メルセデスがモンスターを自称するなんて、メルセデスもクダけてきたというか、開けてきたというか。それも新型GLクラスにかける意気込みの表れだろうか。
だが、高速道路のSAでバトンタッチして走り出すと、新しいGL550にモンスターなんて雰囲気はみじんもなかった。100km/h時のエンジン回転数は7段ATのトップギアでわずか1600rpm。静かなことは言わずもがなだ。試乗車には21インチホイールのAMGエクスクルーシブパッケージがセットされていたが、エアサスペンションのもたらす乗り心地はまろやかの一語。295/40というファットなピレリPゼロを履いているにもかかわらず、まるで毛足の長いカーペットの上を走っているかのようである。
ハイウェイクルーズの安楽さといったらない。車重2.5トンオーバーの四駆が発揮する突進力は、ただでさえスゴイはずなのに、新型GLクラスの“4MATIC”にはさらに「クロスウインドアシスト」という制御が組み込まれている。80km/h以上で走行中、ESPで横風を検知し、各輪へのトルク配分をコントロールして直進安定性を高めるというものだ。
“坂知らず”の動力性能
直噴4.7リッターV8ツインターボは435ps。わずか1800rpmから生みだされる最大トルクは70kgmを超す。同じエンジンのSクラスセダンより500kg以上重いとはいえ、箱根の頂上を目指すワインディングロードでも、動力性能は“坂知らず”である。
エアサスをSPORTモードに切り替えると、足まわりは明確にスポーティーに変わり、ハンドリングも侮れない。さすがにアイポイントは高いが、身のこなしに気になるほどの腰高感はない。車検証によると、軸重は前1370kg/後1220kg。つまりボンネットにAクラスが1台乗っているようなものだが、意外やノーズヘビーな感じはない。ステアリングがすっきり軽いのもうれしい。こう見えて、フットワークにドテッとしたアンコ型の気配はない。「走れるモンスター」である。
ただし、速いペースでヒルクライムを続けると、麓で7.5km/リッターだった車載燃費計の表示は、6.5km/リッターまでドロップした。試乗した約280kmのトータルでは満タン法で5.8km/リッターを記録する。ウルトラハイギアリングのトップギアで高速燃費を稼ぎ、信号待ちでせっせとアイドリングストップに励んでも、リッター6km。もとより燃費を気にする人のクルマではないが、燃費を気にしない人のクルマもこれくらいは走る時代になった、ともいえる。ちなみに燃料タンク容量は100リッター。メルセデスの乗用車でいちばん大きい。
“マイリマシタ感”を与えてくれるクルマ
タテ5145mm、ヨコ1980mmの“敷地”にしつらえられた高床式キャビンは、言うまでもなく広い。2、3列目シートを畳むと、荷室はカーペットの上だけで186cmの奥行きがとれる。
3列7人乗りのシートレイアウトは、一般的な2+3+2。ただ、2列目と3列目に前後スライド機構はなく、大の大人がゆったり座れるのは2列目までだ。そのセカンドシートはリムジン並みの広さだが、ひとつ気になったのは座面が低いこと。前方の見晴らしがきかず、箱根でリアシートインプレッションを始めたら、じきに酔った。前席よりむしろ後席の標高を高くした「レンジローバー」の“コマンドポジション”を少し見習ってもらいたい。
1360万円のハイエンドSUVだから、至れり尽くせりは当然だが、なかなかの見ものは2、3列目シートの電動フォールディング機構である。ボタンひとつで最後にゴロンと前転するセカンドシートの変身ぶりなどは、動きも音もスペクタクルだ。「工場か!?」とツッコミたくなる。ただし、イスを起こして元に戻すのは手動。その際には相当な腕力を要する。
エンジン音も乗り心地も、ステアリングやペダルの操作フィールも、いちいち真綿でくるんだようにやさしい。高い運転席によじのぼり、いざ走り始めると「エッ、これがオフロード四駆なの!?」と驚かす厚い“おもてなし”は「ランドクルーザー200」に似ていると思ったが、エンジンのパワフルさとシャシーの速さは別格だ。現行メルセデスのなかでもひときわ強い“マイリマシタ感”を与えてくれるクルマである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGL550 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5145×1980×1850mm
ホイールベース:3075mm
車重:2590kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.7リッターV8 DOHC 32バルブターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:435ps(320kW)/5250rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1800-3500rpm
タイヤ:(前)295/40R21(後)295/40R21(ピレリPゼロ)
燃費:7.9km/リッター(JC08モード)
価格:1290万円/テスト車=1440万円
オプション装備:AMGエクスクルーシブパッケージ<Mercedes-Benzロゴ付ブレーキキャリパー&ドリルドベンチレーテッドディスク+AMGスタイリングパッケージ+21インチAMG 5ツインスポークアルミホイール+ステンレス製ランニングボード+パノラミックスライディングルーフ+本革巻きウッドステアリング+シートベンチレーター>(70万円)/ON&OFF ROADパッケージ (22万円)/ナイトビューアシストプラス(25万円)/オーディオ&ビジュアルパッケージ<harman/kardonロジック7サラウンドサウンドシステム+リアエンターテインメントシステム>(33万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2562km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:278.8km
使用燃料:47.9リッター
参考燃費:5.8km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。