MINIクーパー ロードスター(FF/6AT)【試乗記】
確信犯的スパルタン仕様 2012.03.18 試乗記 MINIクーパー ロードスター(FF/6AT)……400万3000円
MINI初のオープン2シーター「MINIロードスター」が日本に上陸した。今回は3グレードあるうち最もリーズナブルなモデル「クーパー」を試した。
バックヤードビルダーの匂い
試乗会会場にずらり並んだ「MINIロードスター」「MINIクーペ」はどことなくバランスが悪くて、最新の工業製品というより手作りした大人のおもちゃといった印象を受ける。未完成な感じがかわいく見えるのは人徳というか、キャラ勝ちということだろう。
パッと頭に浮かぶのが、1960年代から70年代にかけて、バックヤードビルダーと呼ばれた小規模メーカーが当時のミニをベースに作ったFFのスポーツカーだ。具体的には「マーコス・ミニGT」や「マイダス・ゴールド」など、組み立てから楽しむキットカーとして売られていたモデルを連想する。
あの手の手作りスポーツカーも、ちょっとブサイクなところが愛らしかった。何が言いたいかというと、増殖を続けるミニはついにバックヤードビルダーやキットカーの領域にまで進出したということだ。この商売上手!
ただし雰囲気はバックヤードビルダーでも、乗り込めばメーカー製の最新モデル。シートはしっかりと体をホールドし、眼前にはきっちり造り込まれたメーター類、スイッチ類が並ぶ。 MINIクーペと同じく、MINIロードスターもNAの「クーパー」(122ps)、ターボ過給の「クーパーS」(184ps)、さらなるハイチューン版「ジョンクーパーワークス(JCW)」(211ps)の3つのグレードが用意される。試乗したのは一番温和なクーパー。クーパーとクーパーSは6MTと6ATが選べるが(JCWはMTのみ)、今回紹介するのは6AT仕様だ。
屋根を開けるスイッチを探してもぞもぞしていると、広報スタッフが「開閉は手動です」と教えてくれた。すっかり電動ほろに慣れてしまった自分が恥ずかしい。手動といっても、レバーをクルッと回してロックを解除してほろを畳むだけだから造作はない。
ほろを下ろしてから駐車場をスタート、10メートルで「おおっ!」と身構える。
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コンバーチブルとの明確なすみ分け
乗り心地が「かってぇ〜!」のだ。コツコツするとかいうヤワなものではなく、路面からの突き上げが体の芯にずしんと響くタイプだ。あまりの出来事に、一度降りてタイヤをチェックすると、オプションの205/45R17(銘柄はコンチネンタルのスポーツ・コンタクト3のランフラット)がおごられていた。ちなみに標準サイズは195/55R16である。
幸いなことに、会場となった大磯プリンスホテル駐車場から西湘バイパスまでは1分とかからない。速度を上げるにつれイヤな硬さは影をひそめ、悪名高い西湘バイパスのつなぎ目もなんとかやり過ごす。屋根が開いていてもボディーががっちりしているので、段差を乗り越えた時のショックが一発で収束する。辛口だけど、すっきりした乗り味になっている。とはいえ、ノーマルサイズのタイヤを試してみたい気持ちには変わりない。
と、乗り心地には慣れたところで、再び驚く。「さっむ〜い!」のだ。スピードが上がるにつれ風を盛大に巻き込んで、特に斜め後方からヤリのように尖(とが)った冷気が首筋目がけて飛んでくる。思わずルームミラーに映る5万円也(なり)のオプションのウインドディフレクターに「働いてる?」と尋ねてみるけれど、無視された……。『MOTO NAVI』誌の忘年会のビンゴで当てたライダーズジャケットのファスナーを引っぱり上げて、首筋をがっちりガードする。
最近じゃミニバンに乗るのと同じ安楽装備で乗れるオープンカーばかりだけれど、MINIロードスターは古典的なオープンカー乗りのいでたちが求められる。同じオープンでもMINIコンバーチブルは風の巻き込みが少なかった記憶があるから、わかってやっているのだろう。ロードスターは2名乗車というだけでなく、その他の部分でもコンバーチブルと差別化を図っている。
リズムが悪い原因
西湘バイパスから箱根ターンパイクに入ると、MINIロードスターはさらに持ち味を発揮する。ステアリング操作に対する反応がダイレクトで、キュキュッと向きを変える。かっちりとしたブレーキのフィーリングも好印象。風をがんがん巻き込みながらの疾走感は、ゴーカートフィーリングというよりゴーカートそのものだ。
こういった場面で残念なのが6段ATのフィーリング。アクセルペダルを踏み込んでから推進力を体感するまでに、ワンテンポの間がある。ちょっと前のCVTみたいに、先行するタコメーターの針をスピードメーターの針が追いかける感じだ。 他の操作系の反応がビビッドだけに、ATで運転のリズムが狂う。ブレーキング、ステアリング操舵(そうだ)、加速、というリズムが、「ワン、ツー、スリー」ではなく、「ワン、ツー、スーーーリー」ぐらいに感じられる。
1.6リッター直列4気筒エンジンは他モデルに積まれているものと同様、繊細さとは無縁だけれど威勢がいい。だから最新のトランスミッション、例えばフォルクスワーゲン・グループのDSGなんかが組み合わされたらどんなに痛快だろうと、ないものねだりをしてしまう。
もちろん6AT仕様より13万円安い、6MT仕様もいいかもしれない。MINIロードスターは雰囲気を味わうタイプのオープンカーではなく、ビシッと引き締まった乗り心地や風の巻き込みなど、確信犯的スパルタン仕様。だったらこちらもゴーグルや革手袋、オイルドコートなどで武装して、6MTを操るのが似合うかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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