第19回:運転手を悩ませる現象
2013.06.06 リーフタクシーの営業日誌悪い予感
JR飯田橋駅のタクシー乗り場で順番を待つこと20分。あと3台で俺の番だ、という場面を想像してもらいたい。
乗り場の前に、黒っぽいリクルートスーツみたいなスーツ姿の2人の若い女性(痩せっぽちのお姉さんAとムチムチのお姉さんB)が立っていて、地図のようなものを手に何やら相談しているふうである。
ザワザワ……。
リーフタクシー運転手(=矢貫 隆)の胸のうちで聞こえ始めた、いや~な胸騒ぎである。
彼女たち、明らかにタクシーの客であることははた目にもわかるのだけれど、しかし、なかなか乗らない。後からやってくる人に順番を譲り、時折俺の方を見て(気のせいじゃない)は、また次の客に順番を譲っていた。間違いない。リーフに乗ろうとしている。
やがて俺が花番(注:京都では乗り場の先頭になったタクシーを花番と言うが、東京の運転手は言わないみたい)になるや、彼女たちは俺と目を合わせるようにして「乗りますよ」の意思を表示したのだった。
ザワザワザワ……。
運転手の頭のなかは超高速回転。“あのシーン”を連想し、どうかお姉さんBが先に乗ってくれますように、と願った。しかし、ご存じのごとく、そういう希望はたいてい叶わないと相場は決まっているわけである。
「やった~ッ。どうしてもこのタクシーに乗りたくて待ってたんですよぉ」
最初に乗り込んできた痩せっぽちのお姉さんAがそう言い、続いて乗ったお姉さんBは「かわいい~ッ」と言った。かわいい~ッ、は、もしかしたら俺のことかもしれないけれど、たぶんリーフのことだと思う。
「目白台の〇×△に行きたいんですが、これ、地図なんです」
言ったのはお姉さんBだった。
ザワザワザワザワザワ……。
お姉さんBが示した地図を確認すべく、はい、と返事をして振り向く運転手。悪い予感、的中である。
前置きが長いが、「リーフはタクシーに向いてない」という話である。
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矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、 ノンフィクションライターに。自動車専門誌『NAVI』(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同『CAR GRAPHIC』(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 『自殺-生き残りの証言』(文春文庫)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、 『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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