第188回:新型「三菱eKワゴン」の売りはココ!
開発陣にインタビュー
2013.06.06
エディターから一言
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「三菱トッポ」で“背の高い軽自動車”を世に送り出し、初代「eKワゴン」では“セミトールワゴン”というカテゴリーを作った三菱自動車。3代目となる新型eKワゴンは、どのようなコンセプトで開発されたのか。開発陣に聞いた。
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アドバンテージは燃費の良さ
――これまでeKワゴンというモデルは、市場からどのように受け入れられていたのですか。
鴛海さん(以下敬称略):初代eKワゴンが市場に投入されたのは2001年。軽自動車の「セダン」と「トールワゴン」の間を狙った「セミトールワゴン」として登場しました。立体駐車場にも入る、広さ感もある、と好評をいただき、実際、台数も出ました。ところが、年々、ユーザーの方々の、軽に求める広さ感が強くなって、次第に「セミトール」のeKワゴンは苦戦するようになりました。
――軽自動車全体の車高が上がってきた、と。
鴛海:初代eKワゴンがつくった「セミトール」のカテゴリーが「セダン」に飲み込まれるカタチで、ひとつにまとまった。そこで今回は、全高を70mm上げ、軽自動車の中でも販売ボリュームの大きい「トールワゴン」に、新型eKを持ってきたんです。
――「スズキ・ワゴンR」「ダイハツ・ムーヴ」と、真正面から競合するわけですね。eKシリーズの3代目ということで、プラットフォームも一新されました。
細見さん(以下敬称略):ホイールベースを90mm延ばし、全高も1620mmまで高くして、居住性をアップ。他社に見劣りしないパッケージングを実現できました。
――ライバルに対するアドバンテージは何ですか?
細見:燃費ですね。ワゴンRが28.8km/リッター、ムーヴが29.0km/リッター。今度のeKでは、“コンマ1”の数字を積み重ねてトップを取りました。
――29.2km/リッターですね。ボディーの軽量化も大変だったのでは?
細見:高張力鋼板の割合を増やし、各部の構造を合理化、エンジンをアルミ化したりして、50kgほど軽量化しました。一方で、CVTの採用、ホイールを13から14インチにアップ、後席のスライド機構追加、そして衝突安全性の向上などもあって、車重は先代と同じ830kgです。
――商品性を向上しつつ、軽量化で重量増を抑えたわけですね。他車と比較して、わかりやすくユニークな点はどこですか?
細見:インパネのタッチパネルです。デザイン上も、見た目の上質感にも効いています。機能面では、指先のタッチに反応する範囲を広くしたり、スイッチのレイアウト、液晶に表示する情報を工夫したりして、操作性や視認性に配慮しました。タッチに反応する感度も、5段階に調整できます。
軽ではなく“コンパクトな乗用車”というアプローチ
ユーザーの要件を最大限採り入れ、かつ他車との差別化を図る。実用と見栄えのせめぎ合い。新しいeKのデザインについて聞いた。
――新型eKの車両寸法は、ワゴンR、ムーヴと近い数値になりました。全体のフォルムが似てくると思いますが、差別化はどうしましたか?
松延さん(以下敬称略):「トリプルアローズライン」と名付けた車体側面のキャラクターライン、“動きを付けたデザイン”がポイントです。今回、クルマをゼロから作り直せるチャンスなので、デザイン面では、“軽”というより“コンパクトな乗用車”を目指しました。「軽自動車のディメンションの中に、小さな乗用車が入っている」というアプローチです。
――外観では、抑揚あるボディーパネルが特徴ですね。一方、「中が広く感じる」ためにはどのような手法を採りましたか?
松延:Aピラーの付け根をできるだけ外に出しました。そうすると、インパネが広く見えるんですね。また、全高が高くなっているので、インパネの天地も広くなります。そこでオープントレーを設けて、上下に2分割。水平基調のラインが、そのままドアの内張に流れ、乗員の周りを囲うようにしました。視覚的な工夫も採り入れて、広く感じるようにしています。
――空力を意識したデザインをしましたか?
西角さん(以下敬称略):空気抵抗は燃費に関わる要素なので、かなり厳しく言われました。開発中にどんどん目標値が上がっていくので、「1/1000をどう積み重ねる?」の世界でした。粘土モデルを風洞に入れ、ちょっと削っては測ってみる。その繰り返しで、最終的にはCd値0.32を達成しました。
――1980年代には、“空力ボディー”という言葉がよく聞かれました。クルマのデザインは風洞実験で決まってしまう、とか。
西角:どれだけ自然に、空力シェイプに見せないか。そこがデザイナーの腕の見せ所です。例えば、リアコンビランプの角を立てて整流してやる。透明部品のなかにエッジを作ると、ボディーみたいにパキッと折れて見えないので、あまりデザインに響きません。
――機能とデザインがぶつかることも?
西角:Aピラーに関しては、丸くした方が空力がよくて、見た目のしっかり感も出るんですが、視界を良くするには細くしないといけない。そのへんのせめぎ合いはありました。
「eKカスタム」では上質感を強調
大幅に顔付きを変えた、eKワゴンと「eKカスタム」。両者の狙いとは? また、今後の三菱の軽についてうかがった。
――eKワゴンとeKカスタムは、フェイスのほか、ボンネットの形状も違いますね。
西角:eKカスタムのターゲットは「若い男性」ですが、登録車からの移行ユーザーも考えています。単なるスポーティーではなく、プレミアム感も大事。eKカスタムは、大型ワンボックスに見えるような“顔の分厚さ”を出すために、ボンネットの角度を起こして、先端の位置をeKワゴンより30mmほど高くしました。グリルは天地に厚く、逆にヘッドランプは薄くして、存在感のある顔付きにしました。
――小型車ユーザーも呼び込みたい?
鴛海:最近、軽自動車へのダウンサイジングが非常に増えています。競合他社の、いわゆるカスタムモデルを見ても、その傾向が強い。eKカスタムでは、走りに関しても、スポーツに特化したものではなく、上質感を狙うよう、開発陣にお願いしました。
――新しいeKは、軽自動車の王道ど真ん中を行くわけですが、「i(アイ)」のような少々異端な軽自動車の後継モデルは、出ないんでしょうか?
松延:販売台数が……。デザイナーとしては、非常に悲しい。グッドデザイン大賞まで取ったクルマなんですけどね。「いい!」という声はいっぱいあるのですが、どうして販売に結びつかないのか。不思議なところです。
鴛海:iも全高は1600mmある。寸法だけ見るとトールワゴンのカテゴリーに入るのですが、室内の広さ感を出せなかった。センタータンクレイアウトを採ったため、フロアが少し上がって、座面も高くなる。頭上がちょっと圧迫される。その辺が、軽のユーザーと合わなかったのでしょう。
――軽の市場には、ワゴンRもムーヴもあるのですから、三菱にはiのようなユニークがクルマを作ってほしい気持ちがあります。
鴛海:余裕のある自動車メーカーなら可能かもしれませんが、わが社の規模では簡単ではないのが現実です。新しいセグメントでムーブメントを起こすくらいの勢いがないと、厳しいかもしれません。
――新しいeKシリーズで、その“余裕”ができるといいですね!
(インタビューとまとめ=青木禎之/写真=DA)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。