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三菱eKワゴンG(FF/CVT)/eKカスタムT(FF/CVT)

“三強”なんて言わせない! 2013.06.26 試乗記 鈴木 真人 軽トールワゴンという激戦区に、満を持して登場した「eKワゴン」。このジャンルを切り開いた三菱自動車の“期待の星”は、何を武器にライバルと戦うのか。
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“元祖”は三菱だったのに……

“満を持して”=「弓をいっぱいに引き絞った状態」。まさに、そんな状態のはずだ。三菱自動車が新型軽自動車を発表するのは、2008年9月の「トッポ」以来になる。久しぶりに軽自動車の主戦場たるトールワゴンを投入するのだから、力が入らないわけがない。しかもこの「eKワゴン」「eKカスタム」は、三菱と日産との合弁会社「NMKV」が企画・開発し、日産ブランドの兄弟車「デイズ」と同時に発売するという新しい試みなのだ。

そもそも、三菱は1990年に「ミニカ トッポ」でこのジャンルを切り開いたという自負がある。その後2001年の初代eKワゴンは立体駐車場に収まる車高をアピールしてセミトールワゴンを名乗ったのだが、市場の関心はさほどでもなかった。軽のユーザーは車内の広さを追い求め、「スズキ・ワゴンR」や「ダイハツ・ムーヴ」が完全にメインストリームとなったのだ。あわててeKワゴンをベースにトッポを復活させたのだが、時すでに遅し。さらにホンダが「N BOX」と「N-ONE」で参入し、今や軽の“三強時代”という状態になっている。

それでもこの激戦区にタマを持っていなくては、話にならない。日本で販売される乗用車の3分の1を軽自動車が占め、さらにその4割以上がトールワゴンなのだ。三菱と日産を合わせても軽市場の約11パーセントのシェアしかない現状を打開するための、期待の星がeKワゴンというわけである。強敵ばかりの相手に対し、何を武器に戦うのか。

「eKワゴンG」のFF車に搭載されるエンジンは圧縮比が12.0で49psと5.7kgmを発生する。4WDモデルは圧縮比が10.9となり、49psと6.0kgmを発生する。
「eKワゴンG」のFF車に搭載されるエンジンは圧縮比が12.0で49psと5.7kgmを発生する。4WDモデルは圧縮比が10.9となり、49psと6.0kgmを発生する。 拡大
室内の収納スペースも豊富で、アッパーグローブボックスにはティッシュボックスが収納可能。
室内の収納スペースも豊富で、アッパーグローブボックスにはティッシュボックスが収納可能。 拡大
 
三菱eKワゴンG(FF/CVT)/eKカスタムT(FF/CVT)【試乗記】の画像 拡大
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アストン・マーティンと同じ方式

いちばんわかりやすいのは、数字だ。燃費で現時点のナンバーワンを打ち出してきた。リッターあたり29.2kmである。ワゴンRの28.8km/リッター、ムーヴの29.0km/リッターを上回ってきたのだ。後発としては、譲れないところだったのだろう。エンジンは圧縮比を従来の10.8から12.0まで高めて熱効率アップを狙っている。そのほかにもボディーの軽量化、空力性能などを突き詰めた結果だ。実用燃費はわからないし、おそらくこの後どこかの陣営がさらなる低燃費を実現するだろう。それでも発売時点で1位を獲得したのは、エンジニアの意地のなせる業と言っていい。

もう一つの売りは、「上質感」だという。エクステリアデザインでは、ボディーサイドに走る「トリプルアローズライン」がアピールポイントだ。側面に3本のキャラクターラインが刻まれ、抑揚のある面を構成している。1480mmという全幅の中ではデザインにあてられる空間は少ないが、室内空間に悪影響を及ぼさない中で表情のあるフォルムを作り出している。これまたデザイナーの努力のたまものだろう。

内装でも同じように上質感の追求がうたわれていて、シートにはソフトな生地を採用した。ドアトリムにも同じ素材を張り付け、温かみのあるリビング感覚を演出しようとしている。センターパネルはピアノブラック調に仕上げられていて、オートエアコンはタッチパネル仕様だ。なめらかな表面には凹凸は一切なく、アイコンに触れることで操作する。比較するのもどうかと思うが、「アストン・マーティン ヴァンキッシュ」と同じ方式だ。スマホ世代は違和感なく扱えるし、間違いなく新しさはある。

フロントドアガラスには99%UVカットガラスを採用。日焼け防止のアームカバーと同等のUVカット効果が期待できるという。
フロントドアガラスには99%UVカットガラスを採用。日焼け防止のアームカバーと同等のUVカット効果が期待できるという。 拡大
「eKワゴンG」のインテリアはブラックとアイボリーが基調となる。
「eKワゴンG」のインテリアはブラックとアイボリーが基調となる。 拡大
「eKワゴンG」のインストゥルメントパネル。ステアリングのオーディオリモコンスイッチは、スピーカー(ツイーター)とのセットオプション(1万500円)。
「eKワゴンG」のインストゥルメントパネル。ステアリングのオーディオリモコンスイッチは、スピーカー(ツイーター)とのセットオプション(1万500円)。 拡大
タッチパネル式のオートエアコンが標準で装備される。
タッチパネル式のオートエアコンが標準で装備される。 拡大

広さでは差別化できない

eKワゴンとeKカスタムでは顔つきが異なり、リアコンビネーションランプや内装色も変えてある。それぞれCMには井川遥と佐藤健を起用していることでわかるように、ターゲットを分けてあるわけだ。燃費29.2km/リッターを達成しているのは、アイドリングストップ機構付きNAエンジンのFFバージョンである。まず乗ったのは、eKワゴンだ。室内は、確かに広い。ただ、驚くほどではない。トールワゴンの室内空間はどれも限界まで拡張されているから、ここで差別化を図るのはさすがに難しい。

シートはふっくらとしていてソファー感覚だ。ダッシュボードやドアの表皮はシボの多い加工がされていて、なかなか高級感がある。スタートボタンを押すと、黒いセンターパネルからディスプレイが浮かび上ってきた。ちょっとうれしい趣向である。しかし、走りだすとどうも出足が鈍い。アクセルを床まで踏み込んでもなかなかスピードが上がらず、もどかしく感じる。あとでスペックを見ると、NAエンジンは最高出力が49psだった。これは、ライバルに比べると低い数値である。走りは数字だけで表せるものではないが、実感としても少々パワー不足なのは否めない。

燃費に貢献しているのは、三菱では初採用となるアイドリングストップ機構だろう。速度が13km/hまで落ちた時点で機能するようになっていて、これはワゴンRと同じだ。減速時にスッとエンジンが停止するのがわかるが、特に違和感はなかった。エンジン停止時間を計ってみると、3回試みていずれも30秒でアイドリングが再開した。エアコンの使用状況などにもよるのだろうが、回生ブレーキなどの飛び道具なしではこんなものだろう。

軽自動車はスーパーでの買い物などで駐車する機会が多いと思われるので、リアビューモニター付きルームミラーはありがたい装備だ。セレクターを「R」に入れると、ルームミラー内に車両後方の映像が現れる。日産デイズはこれがアラウンドビューモニターになるのだが、カーナビのモニターに比べればかなり小さいのでどちらが使いやすいかは微妙だ。

 
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背もたれを倒すと連動してシートが沈み込む、ワンタッチフォールディング機構を採用する。(写真をクリックすると荷室アレンジの様子が見られます)
背もたれを倒すと連動してシートが沈み込む、ワンタッチフォールディング機構を採用する。(写真をクリックすると荷室アレンジの様子が見られます) 拡大
後席は左右一体で170mmスライドし、左右別々にリクライニングが可能。(写真をクリックするとシートアレンジの様子が見られます)
後席は左右一体で170mmスライドし、左右別々にリクライニングが可能。(写真をクリックするとシートアレンジの様子が見られます) 拡大
リアビューモニター付きルームミラーには自動防眩(ぼうげん)機能も備わる。
リアビューモニター付きルームミラーには自動防眩(ぼうげん)機能も備わる。 拡大

“ライバルを圧倒する強み”とは?

eKカスタムは、NAモデルに加えてターボモデルがある。こちらは軽規格ぎりぎりの64psで、スタートダッシュにも余裕がある。買い物や子供の送迎にしか使わないのであればNAでもかまわないが、たまに遠出をしたりするのであればターボを選んだほうがいいかもしれない。ただ、ターボモデルにはアイドリングストップ機構がついていない。燃費は23.4km/リッターと大きく下がり、ライバルと比べても物足りない数字だ。

しばらく走っていて、ウインカーの操作が一般的な日本車と違うことに気づいた。ヨーロッパ車のように、レバーを小さく動かすと3回点滅するようになっていたのだ。後で聞くと、この「コンフォートフラッシャー」と名付けられた機能は、以前から三菱車に導入されていたということだった。便利な機能だけになぜ日本車に採用されないのか疑問に思っていたのだが、こちらが認識不足だっただけだ。小さなことだけれど、こういう心遣いが集まればそれがクルマの魅力になる。

このほかにもさまざまな工夫があり、eKワゴン、eKカスタムはライバルに伍(ご)して戦うだけの力を十分に備えている。受注も好調なようで、6月6日の発表までに予約が目標の1万2000台に達していた。喜ばしい限りだが、不安もある。総じていいクルマなのだけれど、何が売りなのかと考えると困ってしまうのだ。開発者に話を聞くと、このジャンルはすべての要素にまんべんなく高い要求があるので、それをすべて満たすようにした、ということらしい。ただ、ワゴンRは突き詰めたユーティリティー、ムーヴは自動ブレーキ、N-ONEは1.3リッター並みの走りと、それぞれはっきりした強みがある。オールラウンダーというのは、なかなかアピールするのが難しい。

ただ、CMを見て思い直した。井川遥は、燃費にもスペースの広さにも触れず、ひたすら紫外線のことだけを話している。フロントドアにUVカット率99パーセントのガラスを採用したことは、女性にとってとても大事なことらしい。三菱が主婦ドライバー5000人にアンケートを行ったところ、93パーセントが“紫外線が気になる”と答えていた。日焼け止めクリームを塗るのはもちろん、手袋やアームカバーまで使っているのだ。男目線では、そういう事情はまったくわからない。軽自動車のメインユーザーにとっては、これがライバルを圧倒する強みなのかもしれない。

(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)

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「eKカスタム」の室内はブラックが基調。
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「eKカスタム」にはタコメーターが備わる。
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タイヤサイズは、「eKワゴン」の14インチに対し、「eKカスタム」では15インチとなる。
タイヤサイズは、「eKワゴン」の14インチに対し、「eKカスタム」では15インチとなる。 拡大
 
三菱eKワゴンG(FF/CVT)/eKカスタムT(FF/CVT)【試乗記】の画像 拡大

テスト車のデータ

三菱eKワゴンG

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:830kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:5.7kgm(56Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)155/65R14/(後)155/65R14(ダンロップ・エナセーブEC202)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:124万円/テスト車=127万1500円
オプション装備:チェリーブラウンパール<有料色>(2万1000円)/ステアリングオーディオリモコンスイッチ+2スピーカー<ツイーター>(1万500円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

三菱eKカスタムT

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:860kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.0kgm(98Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)165/55R15/(後)165/55R15(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:23.4km/リッター(JC08モード)
価格:143万円/テスト車=146万1500円
オプション装備:ホワイトパール<有料色>(2万1000円)/ステアリングオーディオリモコンスイッチ+2スピーカー<ツイーター>(1万500円)

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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