トヨタGRMNヴィッツ ターボ プロトタイプ(FF/5MT)
本格派のオーラあり 2013.07.26 試乗記 GAZOO Racingが手掛けた「トヨタ・ヴィッツ」のプロトタイプに試乗。ターボエンジンとともに、このクルマを「ホンモノ」たらしめているポイントとは?先達とはここが違う
2013年1月の東京オートサロンでお披露目された現行「ヴィッツ」のターボモデルが、いよいよ発売になるという。まあ、このクルマはオートサロンのコンセプトカーの時点でもかなり気合の入った状態で、発売も秒読みだったのは容易に予測ができた。今回の取材時点(7月初旬)ではまだ“プロトタイプ”ということだが、開発担当氏は「これが市販確定スペックと考えていただいていい」と断言していたし、ネットではすでに、この8月上旬にも数百台レベルで限定発売……というウワサが流れている。
ヴィッツのカタログモデルにも初代からずっと「RS」というスポーツグレードが用意されている(しかも、3ペダルMT仕様をずっと欠かしていないのはうれしい)。ただ、歴代ヴィッツRSは、エンジンも単純に排気量をひとクラス上(カローラなど)にしただけで、特別なスポーツユニットではなく、内外装やアシも“ほどほど”の穏健派スポーティーモデルだった。
そのスキを突くように、トヨタのワークス架装メーカーのモデリスタが正規ディーラーで買える改造車として、初代と2代目をベースにしたターボ車を販売していたのをご記憶の方も多いだろう。この「GRMNヴィッツ ターボ」はその後継モデルと言えなくもないが、今回はトヨタ本体のスポーツ車両統括部がキモいりで開発したGAZOO Racing(ガズーレーシング)物件であるところが、初代や2代目との大きなちがい。もっとも、今回も数百台レベルの少量販売になるようだが、「トヨタ本体が手掛けたコンパクト・ターボスポーツ」ということなら、90年代後半の最終型「スターレット」の「グランツァV」以来となる。
同じGAZOO物件でも、今やトヨタ主力モデルの定番スポーツ特装車となっている「G’s」と今回の「GRMN」では「イジリの本気度」が異なるのがお約束。トヨタの定義では「アシまわりと内外装の変更にとどまるのがG’s」、「イジリの手が、エンジンや駆動系にも及ぶのがGRMN」だそうである。
マニア感涙の3ドア仕様
GRMNヴィッツはなんといっても、海外向けにしかなかった3ドア仕様なのが驚きであり、これこそメーカー本体製ならではの仕事といえる。量販を考えれば5ドアのほうが潜在需要も多くて、コストもおさえられるのでは……と余計なツッコミをしたら、開発担当氏は「軽量化とボディー剛性を考えれば3ドアで決まり。5ドアは最初からまったく想定せず」と応えた。なんとも威勢よく、マニア感涙の言だ。
こうしてあえて3ドアにした意義は、機能性だけではない。開発担当氏は「東京オートサロンでの反響では、クルマの内容うんぬん以前に“やっと3ドアを出してくれた!”という声も多かったんです」とも語る。3ドアだけでなく2ドアクーペも同様なのだが、日本の場合、こうしたパーソナル志向の強いクルマは発売直後に「待ってました」とばかりにドーンと売れるが、後が続かない。よって、現在の日本市場では、3ドアや2ドアを継続販売カタログモデルとして設定するのは、メーカーにとってもハードルが高い。
ただ、最初にドーンと売れるということは一定数の需要は確実にあるわけだ。今回のGRMNのような方法で“売り切り”が成功すれば、3ドアや2ドア好きの向きには、ひとつの光明になるかもしれない。
GRMNヴィッツ ターボに仕込まれた“メーカーならではの仕事”は他にもある。例えばサイドシル付近のスポット増し打ちによるボディー強化策、そして「iQ」のGRMNに続いてサイドにプレス刻印されたロゴ……である。どちらもアフターメーカーが現実的なコストで施すのは難しいポイントである。
もっとも、スポット増し打ちは既存のG’sでも行われていることだ。ただ、今回のGRMNヴィッツではG’s同様のロッカー部だけでなく側面まで及ぶ「スポット増し打ちの、さらに増し打ち!」に加えて、アンダー強化ブレースもG’sのフロントに加えてリアにも取り付けられている。さらに、フロントのロワアームも、部品自体は特別なものではないが、上級モデル(の具体的なモデル名は聞き出せなかったが)の流用……といううまい方法で強化している。
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このボディーにこそ価値がある
今回の試乗は富士スピードウェイのショートサーキット上に限られたために、あまり詳しいことは書けないが、GRMNヴィッツ ターボは扱いやすくさわやかで、しかもそれなりにオーラのあるスポーツハッチだった。
注目のエンジンは早い話がRS用の1.5リッター(1N-FE型)のボルトオンターボ。実際の生産工程でも、ターボチャージャーはラインでクルマが完成した後に、あらためて後付けされるのだという。その意味では成り立ちは初代「RSターボ」や2代目の「TRDターボ」と酷似する。
内装はさすがにG’sよりは凝っていて、メタル調盤面のメーターとシートなどは専用品。特にシートは先日発売された「レクサスIS」(の“Fスポーツ”)と同様の表皮一体発泡成形タイプ。内部の発泡クッションと表皮がピタリと一体化しているので、凹部も複雑かつ緻密に表現できる。一体発泡成形という技術そのものは以前から存在するが、トヨタ系列シートメーカーのトヨタ紡織が最近売り出し中の技術だ。実際、シートが体に吸いつくようなフィット感は実感としてメリットがある。
ボルトオンターボというと、なんとなく粗っぽいフィーリングを想像する人がいるかもしれないが、これまで2世代のノウハウも生きているのか、エンジンそのものはまったくフツーによい。低回転からフレキシブルで扱いづらさはみじんもなく、それでいて高回転は過給エンジンらしいトルクの爆発もある。一般道よりミューの高い富士ショートコースで、専用LSDがつくというのに、その気になればいつでもどこでもフロントタイヤを軽々と空転させる。
シャシー関連ではボディーのほかにスプリング、ショック、スタビライザー、ブッシュの一部もGRMN専用チューン。駆動系とともに「ときどきサーキット」を想定したアシの仕立てがG’sとのちがいとされる。実際、富士ショートサーキット程度では、GRMNはアゴを出すそぶりすら見せない。あえて注文をつけるなら、フロント対向4ピストン化されたブレーキがもう一歩、初期からガツンと効いてくれると完璧なのに……とは思った。本格スポーツモデルなら、キャリパーだけでなくローター径も拡大してくれると、性能も見た目もマニアをよりくすぐる存在になる。
ただ、3ドア化、スポット増し増し(?)をはじめとして、丹念に仕立てられたボディーはさすがに硬質。どんな入力もズンッと受け止めてしまう剛性感はノーマルとはまるで別物で、このGRMNヴィッツに本格派のオーラを漂わせる最大にして決定的なキモといえる。ハッキリいえば、このボディーさえあれば、あとは些末(さまつ)な問題(?)である。物足りないところがあれば、自分で手をつければいい。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
トヨタGRMNヴィッツ ターボ プロトタイプ
ボディーサイズ:3945×1695×1490mm
ホイールベース:2510mm
車重:--
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:152ps(112kW)/6000rpm
最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:--
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:サーキット
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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