フォード・クーガ タイタニアム(4WD/6AT)
おいしい無国籍料理 2013.08.18 試乗記 フォードのグローバルプロダクトとして、「フォーカス」に続いて日本上陸を果たした新型「クーガ」。世界中のリソースを投入して開発された新型SUVは、どのようなクルマに仕上がっていたのか?グローバル戦略のたまもの
9月に新型「フォード・クーガ」の日本での販売が始まる。日本導入に先立って催された新型車試乗会で商品説明を聞きながら、「日本人の妻を持ち、アメリカの家に住み、中国人シェフを雇うのが幸せな暮らし」というジョークを思い出す。
従来型クーガは、フォードのヨーロッパ拠点が開発したSUVだった。いっぽう新型クーガは「フォーカス」に続くグローバルプロダクト第2弾という位置づけで、世界各地の拠点からアイデアを持ち寄って開発している。
フォーカスをベースにしたSUVであることは変わらないものの、フォードが長年かけて培ったアメリカンSUV作りのノウハウも盛り込まれているとのことだ。
部品サプライヤーもグローバルで、高圧燃料ポンプや直噴インジェクターはドイツのボッシュ、オルタネーターは日本のデンソー、電装系のコネクティングシステムはアメリカのデルファイ、ランプ類やワイパーはフランスのヴァレオとなっている。
「ヨーロッパ車のアシを持ち、アメリカンSUVの使い勝手のよさを備え、日独車並みに信頼性が高い」といったところか。
世界各地の拠点でばらばらに開発・製造するのではなく、全世界で同じ工程で製造した同一モデルを売る「One Ford」という戦略は、ボーイングを建て直した実績を買われて2006年にフォードに引き抜かれたアラン・ムラーリーCEOが推し進めるものだ。
といった具合に、新しいクーガを取り巻く背景は変化したけれど、対面した新型のスタイリングは従来型を継承していた。
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パワーユニットは一気にモダンに
「キネティック(動的な)デザイン」とフォードが呼ぶ、止まっていてもいまにも走りだしそうな躍動感のある佇(たたず)まいは従来型と同種のものだ。従来型よりフロントグリルの上半分のボリュームを減らし、フロントバンパー下のロワーグリルの面積を大きくすることで、どっしり感と迫力が増した。
従来型より全幅と全高が1cm下回っていることと、ボディーサイドのシャープなキャラクターラインのおかげで全体に引き締まった印象を与える。ただし後席と荷室にもっと余裕が欲しいという北米市場からの要望を受けて、全長は9.5cmも長くなっている。ちなみに北米市場では、知名度の高い「エスケープ」という名称で売られる。
なお、これまでフォードにはクーガとエスケープという2つのコンパクトSUVが存在したが、この1車種に集約されることになる。
日本導入モデルのエンジンは「EcoBoost」とフォードが呼ぶ直列4気筒の1.6リッターターボユニットで、効率とパワーを両立するダウンサイジングのコンセプトに基づいている。これに6ATが組み合わされるが、従来型が直列5気筒2.5リッターターボ+5ATだったから、パワートレインは一気にモダンになった。
カタログには1600rpmという低い回転域から最大トルクを発生するとあるが、これは赤信号からの発進で体感できる。ただし、もりもりとあふれるような過剰なトルクではなく、スマートに加速できる適度なトルクだ。このあたりのフィーリングは、「フォード・エクスプローラー」に搭載される2リッターの「EcoBoost」エンジンと同じで、いまの時代に合っているように思う。
変速時のショックを感じさせないこと、滑らかなエンジンの回転フィール、静粛性の高さなど、快適性のレベルは明らかに向上している。
特に感心したのは乗り心地のよさで、スポーティーでかんかん曲がるものの、時として荒さを感じさせた従来型とは異なり、新型の乗り心地はしっとりと湿り気を帯びている。フリクションなしにサスペンションが伸び縮みしている印象は、市街地でのスピードから高速まで変わらなかった。といっても、決して動きがダルになっているわけではない。
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個性的で実力もあるが
このクルマの面白いところは、直線よりもワインディングロードのほうが個性があらわになることだ。道が曲がりくねるほどに、元気になっていく。
確かな手応えのステアリングホイールを操作すると、遅れなしにボディーが反応して向きを変える。グラッと傾くようなだらしない態度を見せることはなく、適度にロールする安定したコーナリング姿勢からは、4本のタイヤがいかにも均等に地面と接している様子が伝わってくる。
正しい機械を正確に操っていることを感じさせるあたり、フォード・フォーカスのSUV版だと考えるとすんなり腑(ふ)に落ちる。
面白いのは四駆システム。従来型がハルデックス製だったのに対して新型は自社開発したもので、前後のトルク配分が100:0から0:100まで自動で変化する。
これはオフロードの走破性だけを考えたものではなく、アクセルペダルの踏み加減、ステアリングホイールの切れ角、路面状況などをセンサーで検知してオンロードでのハンドリング性能を向上させるように働く。インパネのトルク配分のモニターを見ていると、頻繁に前後のトルク配分を変えていることがわかる。
また、左右の前輪に伝えるトルク配分を変えることでグリップ力や敏しょう性を高めるトルクベクタリングコントロールも、アンダーステアの少ない正確なハンドリング性能に寄与している。
ワンアクションで後席を倒せばフラットな荷室空間が広がることや、両手がふさがっていてもキックするモーションで荷室ゲートが開く仕組みなど、SUVとしての使い勝手も良好だ。
マイクロソフトと共同開発したインターフェイス「SYNC」を組み込んだインテリアは外観に負けず劣らず個性的で、機能性とアメリカ的な華やかさを兼ね備えている。ただし、カーナビがオプションになるのは残念。「このデザインをオリジナルで楽しみたい人のために」「最近はスマホで済ませる人が多い」という理屈はわからないでもないけれど、カーナビを付けないとリアビューモニターも備わらない。このサイズ、この価格帯にあって「カーナビ+リアビューモニター」は必須だろう。
という細かい不満はあるものの、クーガはSUVとしての出来もいいし、スタイリングやハンドリングなどこのクルマだけの個性もある。難しいのは、日本でガイシャを買う時には、どうしても「おおらかなアメリカ車」とか「高性能なドイツ車」「デザインのイタリア車」といった、わかりやすいお国柄のイメージを求めてしまうことだ。グローバルということは、無国籍ということでもある。
「中華を食べたい」とか「イタリアンに行こう」と思うことはあっても、「どうしても無国籍料理が食べたい!」と思うことはないのと同じで、そこがクーガの立ち位置の厳しいところだ。
ま、「無国籍料理を食べたい」と思う人は少なくても、「おいしい料理が食べたい」という人は少なくないはず。クーガ、おいしいです。
(文=サトータケシ/写真=森山良雄)
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テスト車のデータ
フォード・クーガ タイタニアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1840×1705mm
ホイールベース:2690mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:182ps(134kW)/5700rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)235/50R18 97V/(後)235/50R18 97V(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:9.5km/リッター(JC08モード)
価格:385万円/テスト車=385万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:5038km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。