MINIジョンクーパーワークス ペースマン(4WD/6AT)
言うなれば「ニッチマン」 2013.09.04 試乗記 個性派「MINIペースマン」のハイパワーバージョン、「ジョンクーパーワークス ペースマン」に試乗。その走りは、他のMINIとはどう違う?“クーペな感じ”で先を行く
最近、路上で「MINIクロスオーバー」の姿が目立つようになってきた。新しいビッグ・プラットフォームの“5ドア大型ミニ”である。国内導入は2011年1月。BMWジャパンはモデルごとの販売台数を公表していないが、「ドアはやっぱり4枚なくっちゃね」という層をがっちりつかんでいるのだろう。
2013年2月に発売された「ペースマン」は、クロスオーバーの兄弟車ともいえる3ドアモデルである。フロントマスクや全体のSUV的雰囲気はクロスオーバーと同じだが、ペースマンは側面ドア2枚。ただリアドアを取り払っただけじゃ芸がないので、上屋を「レンジローバー イヴォーク」風のクーペルックに変えたのが付加価値といえる。
“ペースマン”とは、「先頭に立って、ペースをつくる人」という意味だそうだ。そこから「一歩先を行く人」ってことだろう。MINIとしては初めてテールゲートにモデル名のエンブレムを付けたのも、マラソンのペースランナーのような「このクルマについてきなさい」というメッセージなのかもしれない。
ご存じのとおり、クロスオーバーの本国名は「カントリーマン」である。森に向かうカントリーマンと、都会を泳ぐペースマン。「韻を踏んだビッグミニブラザーズ」と捉えると、ペースマンの立ち位置ももう少しわかりやすかったはずだが、日本では商標登録上の問題でカントリーマンが使えなかったのが残念だ。
今回試乗したのは、最高性能版「ジョンクーパーワークス(JCW)」のATモデル。テスト車はオプション込みで570万円オーバーというタイヘンなことになっていたが、466万円の本体価格もMINIシリーズ最高額だ。レンジローバー イヴォーク(450万円~)が買えてしまうMINIである。
高くて、硬くて、奇妙に速い
JCWペースマンのドライブフィールはJCWクロスオーバーとそっくりである。外観の印象はそれなりに違うが、運転すると兄弟車であることが判然とする。クーペ風のペースマンはクロスオーバーよりさらにスポーティーな味つけをされているのかと思ったが、そこまで細かい演出は施されていない。
今回、まずステアリングを握ったのはワインディングロード。そこでの印象を簡単に言うと、「高い、硬い、速い」である。
JCWにはオンデマンド四駆の“ALL4”システムが漏れなく付く。といっても、カタログに最低地上高の数値すら出ていないくらいだから、ヘビーデューティーなオフロード四駆でないことは自明だが、運転席のアイポイントはちょっとしたライトクロカン並みに高い。
225/40R19の「ピレリPゼロ」を履く足まわりはかなり硬く、コーナーをそうとう攻めたつもりでもロールを感じない。以前、JCWクロスオーバーを借りたときは長時間リアシートにも座ったが、高速道路の継ぎ目を乗り越すと、一瞬お尻がわずかに浮くことがある。それくらい硬い。
JCWのエンジンは218psの直噴1.6リッター4気筒ターボ。ペースマンの車重(1480kg)は、同じエンジンで一番軽いMINIハッチバックのJCWより250kgも重いが、依然として速い。0-100km/hは7秒そこそこというから当然だ。高めのアイポイントや、傾かない堅いアシが独特の速さに拍車をかけてもいる。個性的といえば個性的な乗り味で、ワインディングロードではなかなか楽しい。
個性の裏にはネガもある
2ドアだから、1枚のドアが大きくて重い。ウチの狭い車庫では取り回しに苦労した。後席にはひとり1席のキャプテンシートがぜいたくに並ぶが、後ろ下がりの屋根のせいもあって、クロスオーバーほどのゆったり感はない。でも、そういったことは、言ったって聞かない確信犯的ネガである。
ぜひ聞いてほしいネガは、6段ATのパドルシフトである。もともとBMWグループはパドルシフトには及び腰だったが、これもイヤイヤ付けたような感じがする。ステアリングホイールの裏表に付く左右一対のスイッチの、裏側を引くとシフトアップ、表側を押すとダウンというその方向も、普通の感覚と逆でしょ? と思うのだが、それは慣れの問題にしても、スイッチのカタチやタッチが裏表で全然違うというのはいただけない。付けるなら、もっとファン・トゥ・シフト感の味わえるものにしてもらいたい。
おさらいすると、MINI待望の5ドア、クロスオーバーをわざわざ3ドアにしたのがペースマンである。クロスオーバーオーナーのなかには、ペースマンのチョップトップクーペ風スタイリングを見て、「やられた!」と思っている人もいるかもしれないが、乗った感じは一緒である。そんなに浮気心をふくらませなくてもいいと思う。MINIシリーズのなかで、古典的なスポーツクーペの操縦フィールや居心地を味わいたいなら、「ロードスター」と兄弟関係の「クーペ」がある。
手元にあるペースマンの分厚いカタログは、クロスオーバーと合わせて1冊である。お金のないメーカーなら、同じモデルの3ドア扱いで済ませるはずだが、それを別モデルとして売れるのが今のMINIの強みといえる。ということは、MINIのなかでもニッチ中のニッチがペースマンである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)
テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークス ペースマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4135×1785×1525mm
ホイールベース:2595mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:218ps(160kW)/6000rpm
最大トルク:28.6kgm(280Nm)/1900-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19/(後)225/40R19(ピレリPゼロ)
燃費:12.0km/リッター(JC08モード)
価格:466万円/テスト車=576万5000円
オプション装備:クロススポーククラッシャースタイル<ブラック>(15万円)/マルチファンクションステアリング(3万5000円)/アラームシステム(7万円)/パークディスタンスコントロール<PDC>(6万円)/アダプティブヘッドライト(4万円)/ナビゲーションパッケージ(14万5000円)/haman/kardon製HiFiラウンドスピーカーシステム(12万円)/コンフォートアクセスシステム(8万6000円)/クロームラインインテリア(2万2000円)/レッドスポーツストライプ(1万7000円)/プライバシーガラス(4万円)/レザーラウンジシート(32万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2262km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:290.1km
使用燃料:29.8リッター
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。