第206回:不変と普遍を取り込んだ111年目の革新
ハーレーダビッドソン2014年モデルに試乗した
2013.10.08
エディターから一言
モーターサイクル一筋110年
1903年、アーサーとウォルターのダビッドソン兄弟と、ウィリアム・シルヴェスター・ハーレーの3人によって創設されたハーレーダビッドソン社は、以来110年、ごくわずかな例外を除いてモーターサイクルだけをつくり続けてきた――。
これ、途轍(とてつ)もないことだと思いませんか? 例えば仮にモーターサイクルがなくてもこの世はちゃんと回ると思うんです。新聞や郵便等の配達業務における二輪の利便性は有用だけれど、それ以外ではほぼ趣味の領域にとどまっている存在でしょ。風や雨に身を晒(さら)し、その上一度に運べる人数は多くても2人なんて、「どんだけMか」って話です。だから無用の長物と言われたら返す言葉はありません。
しかし、無駄ではない。モーターサイクルでしか味わえない移動の楽しさや、その造形への憧れは、人の心を温めるものとして他に代えがたい魅力がある。つまりハーレーダビッドソンの110年は、そうした二輪ならではの世界観を訴え続けてきた歴史そのものだと言っても過言じゃないのです。無用だけど無駄じゃない。ハーレーダビッドソンがなかったら、この世界は今よりかなりつまらないものになっていたんじゃないかと……。
とまぁ、冒頭からめいっぱい力んでいるのは、『webCG』の読者にハーレーダビッドソンの偉大さを知ってもらいたいから。そして、その歴史的ブランドのランドマークになるかもしれないニューモデルが登場したことも、張り切ってお伝えしたいのであります。
ヘッド周りを水冷化したツインクールドエンジン登場
毎年夏の終わりに翌年モデルを発表するのがハーレーダビッドソンの習わし。そんなわけで2014年モデルの発表試乗会「2014 New Model Media Launch in Kuala Lumpur」が、9月17日~19日にマレーシアで開催されました。
マレーシアでハーレー? それって北三陸に出向いてシシカバブを食べるみたいな奇妙さを覚えますが、グローバルブランドのハーレーダビッドソンは、アジア・パシフィック諸国に15もの拠点を置いています。ゆえに今回のイベントにも同地域から12カ国、45のメディアが招待されました。
その会場に用意されたのは、2014年モデルの目玉、フルモデルチェンジが実施されたツーリング・ファミリー……。
話は前後しますが、ハーレーのラインナップは、排気量やフレーム構成などによって5つのファミリーに分類されています。その中で最大級&最高級なのがツーリング・ファミリー。巨大なフェアリングやサドルバッグを身にまとった、大型バイクのアイコンみたいなモデル群です。そのファミリーに属する「ウルトラ リミテッド」と「ウルトラ クラシック」という2車種のシリンダーヘッドが水冷化されました。
これ、一大事なんです! ハーレーダビッドソンといえば、空冷OHVのV型2気筒エンジン。それが伝統です。……が、例外もありました。2002年に完全水冷エンジンを搭載した「V-ROD」というモデルが登場したときは、「まさかハーレーが!?」とファンは騒然となりました。四輪に置き換えれば、「ポルシェ911」の5代目(996型)が水冷化したときの騒動と似ているかもしれません。ただしハーレーダビッドソンの場合はV-RODのみの水冷化にとどまり、そのほかでは空冷Vツインが維持されました。それだけハーレーダビッドソンにとってこのエンジン形式は、自社にとってもファンにとっても守るべき大事なものなのです。
革新的技術の投入を目立たせなかった理由とは?
しかし、半水冷化に踏み切ったハーレーダビッドソンの意図は、あまり多くは説明されていません。今回のフルモデルチェンジは、「プロジェクト・ラッシュモア」という名称のもと、すべての要素を向上させるための技術革新プロセスを導入した、ということだそうな。ふむふむ。ポルシェの場合もそうでしたが、おそらくは主に環境問題に対する、それが一流メーカーの技術的責任の果たし方なんだと思います。ただ、今回の半水冷化に向けたハーレーダビッドソンの取り組み方には、いじらしさのようなものを感じました。
4車種あるツーリング・ファミリーの中で、いや全ラインナップの中で、なぜウルトラのリミテッドとクラシックのみ半水冷化=ハーレーダビッドソンが呼ぶところの“ツインクールドエンジン”を採用したのか? それは、ラジエーターを置く場所があったからじゃないでしょうか。
ウルトラ系は、ハンドルまわりのほかにライダーのヒザ下を隠すような位置にもフェアリングが備わっています。そこに、左右で2個の小型ラジエーターを収めた。パイプ関係も外からそれとわからないような工夫を施しているので、パッと見では従来モデルとの違いがわかりにくい。エンジンにしても、空冷そのもののフィンが細かく刻まれたまま。
目立たせないんです。歴史的革新なのにさり気なさを装っている。ファンに対する配慮があるのかもしれませんが、そういう細かい気遣いにけなげさを感じるのは私だけでしょうか?
威風堂々。ハーレーダビッドソンに乗ると、いつもその言葉が頭に浮かびます。不変と普遍を取り込みながら、長い時間を刻んできた巨人ですね。そういう大きな存在と対等に向き合える人になりたいと願いつつも、気温33度で湿度78%のマレーシアツーリングは乗り手にとってなかなかタフで、疲れ知らずの巨人におんぶに抱っこでした。それもまた、気持ちいいハーレーの乗り方ではあるけれど。
(文=田村十七男/写真=ハーレーダビッドソンジャパン)

田村 十七男
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