第208回:燃料電池車と「i-ROAD」に試乗 トヨタの先進技術を体験
2013.10.11 エディターから一言トヨタはいま、こんな技術開発に取り組んでいる!? 次世代のエコカーや安全システム、未来のモビリティーを試してみた。
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秘密のハイテクマシン、燃料電池自動車
先進技術説明会の会場となった東京・晴海には、かつて東京国際見本市会場があった。1987年まで東京モーターショーが開催されていたこの場所で、最先端のクルマともいえる燃料電池自動車(FCV)に試乗できるというのも、不思議な話である。
目の前には、これから試乗する予定の、カムフラージュが施されたFCVの試作車が止まっている。どうやらベースとなっているのは「トヨタSAI」のようだが、あくまでボディーを流用しているだけで、2015年の市販化を目指して開発されているFCVのデザインがこうなる、というわけではないとのこと。
ボンネットもトランクも開けさせてはもらえず、中身がどうなっているのかは秘密のベールに包まれている。隠されると気になってしかたがない。ほんのチラッとだけでもいいから見せてほしいとお願いしたのだが、「ごめんなさい!」と断られてしまった。おかげで「企業秘密たっぷりのクルマにこれから乗るのだ」という興奮はがぜん高まる。
運転席のドアを開くと、いかにも試作車然とした、秋葉原の電気パーツ屋さんでそろえたようなメカニカルなスイッチが目に入り、このクルマが最先端のハイテク秘密マシンであることをさらに印象づけた。
走りだしてみると、その運転感覚は普通の電気自動車だ(電気自動車を「普通の」と呼んでしまうのも、一昔前からすると考えられないことだが)。
FCVは、水素と酸素の化学反応を利用して発電し、その電力でモーターを動かして走行する仕組みだから、運転感覚が電気自動車に似ているのは当然である。
電気自動車との違いは、「FCスタック」と呼ばれる発電機と水素タンクが搭載されている点で、その分電気自動車に比べてバッテリーは小さくて済む。
もちろん、走ったら水素を充塡(じゅうてん)しなければならないのだが、通常の走行では水素満タンで650km程度走行可能とのことなので、給油(給水?)の頻度は燃費のいいハイブリッドカーくらいだろうか。駐車場に設けられたテストコースを走行したのだが、モーターならではの力強いトルク感でぐんぐん加速するので、ついつい楽しくなってしまった。
このように、FCVはパワーも航続距離も十分実用レベルなのだが、全然実用レベルじゃないのがコストだ。
試作車のため価格は発表されていないが、少なくとも筆者が乗ったことのあるクルマの中で一番高価であることは間違いないだろう。2015年に出る市販モデルは1000万円程度を目標にしているとのことで、一般ユーザーのクルマ選びの選択肢にFCVが入ってくるのは、まだまだ先のことになりそうだ。
交通事故ゼロも夢ではなさそう
ここ数年の自動運転技術の進歩には、目を見張るものがある。これまでのように目を見張って運転しなくても、クルマが勝手に走ってくれるようになる日もそう遠くないのではと思ってしまうほど、目を見張る進歩だ。自動車が文字通りの“自動”車になる日も近い、と高度運転支援車に乗り、あらためて感じた。
今回助手席で体験した車は、クルマ同士が加減速情報などを通信する「通信利用レーダークルーズコントロールシステム」や、カメラとGPSによる地図データを組み合わせて走行ラインを算出し、自動でステアリングを切り速度を調整して走行する「レーントレースコントロール」などの機能を搭載している。
実際に首都高速を走行したのだが、本線上ではドライバーはステアリングから手を離し、アクセル/ブレーキから足を離してもクルマは車線通りに進んで行く。
同様の通信モジュールを搭載した車両が先行する場合は、先行車のアクセルやブレーキ操作などの加減速情報をリアルタイムで受信し、それに合わせてタイムロスなくこちらも加減速する。これは高速道路での渋滞解消に大きく役立つ技術だ。この高度運転支援システムは2010年代半ばの導入を目指しているという。
事故を回避するための技術も体験した。
「衝突回避支援歩行者対応プリクラッシュセーフティーシステム」は、「レクサスLS」に搭載されるシステムをさらに進化させたもので、歩行者との衝突の危険性を検知し、ブレーキだけでは止まりきれないと判断した場合、回避スペースがあるかどうかを判断した上で、自動操舵(そうだ)が作動して衝突を回避するというものだ。
実際にダミーの人形を飛びださせて、このシステムを体験したが、人形と衝突する直前に、ギリギリで避けるくらいの角度でステアリングが自動的に切られ、衝突を回避できた。
これは特に、高齢者など、危険の認知や判断力などの能力が衰えたドライバーには、有効なシステムになるだろう。
「年をとったらクルマの運転はしない」ということができる環境にある人はいいが、クルマがなくては買い物や病院にすら行くことができないというケースも多々ある。より豊かに老後をすごすためにも、こうした技術の進歩はありがたい。
筆者はこれまで「交通事故ゼロ運動」は非現実的な、スローガンのためのスローガンで、それよりは交通事故の被害をいかに軽減するかの対策をとるほうがいいのではないかと考えていたが、安全技術の進歩で交通事故ゼロも夢物語ではない、現実感を伴う目標になってきていると感じた。
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傾く自動車「i-ROAD」、ぜひ市販化を
続いて、(個人的にはここからが本日のメインディッシュ)「i-ROAD」の体験試乗だ。これに乗るのが楽しみで、前日は眠れなかった。
i-ROADは、2013年のジュネーブショーで発表されたパーソナルモビリティーのコンセプトカーで、前2輪、後ろ1輪の三輪式。
最大の特徴は、車体が傾いて曲がるということである。
ステアリングを切ると後輪がモーターの力で角度を変え、前輪は速度に合わせて、左右のタイヤが反対方向に上下動する。すると車体は傾く。前輪の上下動もモーターによるもので、旋回時のGにあわせて電子制御されている。二輪車の場合、運転者が自分でバイクを傾けなければならないが、i-ROADはマシンが適切な傾き量を勝手に与えてくれるのだ。この運転感覚が独特で、非常に楽しい。今まで乗ったことのある乗り物とは違う、新感覚の楽しさだ。
高校生の時、生まれて初めてスパゲティカルボナーラというものを食べ、あまりのおいしさに感激してしばらく学校を休んだ経験があるが、その時以来の衝撃である。
車体の傾きに不安を感じるようなことはなく、その動作はあくまでも自然だ。めいっぱいステアリングを切って、コース上に置かれたパイロンの間をスラロームで走り抜けても、車体は安定を保ったまま。
オーバースピードでコーナーに入ると、当然外側にふくらんでいってしまうのだが、3つのタイヤはグリップを保ったまま、ただ回転半径が増していく感覚だ。
その曲りかたは、ステアリングの切れ角に応じて曲がるというのではなく、スピードで曲がる、といった感じである。その感じが、すごく“いいフィーリング”なのだ。
カルボナーラの味は食べた人にしかわからないように、このフィーリングも乗った人にしかわからないだろう。これは、もっとたくさんの人に乗ってもらうべきだと思う。
その昔、ホンダが遊園地「多摩テック」の遊具として作ったレジャーバイクが、その後「モンキー」として市販化され人気を博したように、i-ROADもお台場のMEGA WEB(メガウェブ)あたりでみんなで楽しめば、ファンも増えて市販化が近づくのではないだろうか。
(文=工藤考浩/写真=高橋信宏)
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工藤 考浩
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